05
突き出したロニの掌から霧散する黒は、万物を創るとされる不可視の物質『魔素』が具現したもの。そして不可視の物質が具現する現象『魔術』こそが、ロニが放った衝撃波の正体だった。
「そこの男、何をした!?」
音に気付いた男の仲間二名がロニの元へ詰め寄るが、掌を手首の動きだけで下へ向けた瞬間、男たちが床に這いつくばる。
身体全体を上から押さえつけられ、押し込まれているような感覚が男たちを包む。しかもその圧力は徐々に程度を増しているらしい。指一本動かせなくなるうえに、木材でできた床がきしきしと悲鳴を上げている。
「魔術、師……!」
絞り出すように声を吐き出す男はロニの風貌を見て、続けて言葉をひり出す。
「お、前……○公か……!」
黒のジャケットには悪、白いシャツには正義。グレーのスーツパンツには中庸を司る天秤。
そして、邪魔くさいと言わんばかりに右手で弛めたクラバットの下にある紋様。首を帯状に囲う刺青には主人への忠誠を。
それぞれにそれぞれの象徴と意を宿し、背負う者たちを人はこう呼ぶ──魔術省公認魔術師、通称○公。
ロニは誰に言うでもなく、静かに呟く。
「僕は女だ」
たしかに自分は、襟付きのシャツにクラバットを巻いて男みたいな格好をしているし、グレーのスーツパンツなんて女っ気の欠片もない物も穿いてはいるが、その下の透け感のある黒タイツはどこからどう見ても女っぽいはずである。外から見ることはできないが。
手荒な事はしない。
車外に吹き飛んで行った男が言っていた言葉である。
ならば、女性に対して兄ちゃんと言ってしまうような言葉の暴力も慎んで然るべきではないだろうか。
隣に置いた上着を掴んでロニは席を立つ。
足元には男たちが所持していた銃が転がっていた。拾い上げて機工を見ると、中折れのリボルバーには弾丸が込められていないことが分かる。