04
となれば、
「どこかの要人でも乗っているんですか?」
ロニは両手を上げながらバンダナの男に問う。
「答えると思うか? 兄ちゃん。黙ってろ」
正直なところ、返答もなければ応答もしないだろうと思っていたロニは面を喰らって目を丸くした。が、それも一瞬。上げていた両手を下ろし、うつむきながらぼそりと呟いた。
「……兄ちゃん。兄ちゃん、ですか……僕は、男に見えるんですね?」
「あ?」
「見えている事が事実とは限りません……見えていない事が真実かといえば、それも違いますが……」
「あのよぉ、喋ってんじゃねえよお前。わけ分かんねえこと言ってねえで男らしく黙って手ぇ上げてビビッてろ!」
男の怒号にロニの肩がぴくりと動く。
手を上げるでもなく、ロニは小さくため息を吐きだしてから低い声で言う。
「そう、ですか……」
そしてバンダナの男へ向けて左掌を突き出し、
「【圧し掛かる責務に泣け。迫り来る焦燥に喚け】」
「おい。なんの真似だ」
眉をひそめて訝しむ男を他所にロニは続ける。
「【心臓を握るこの掌。我は問う。重みが欲しいか?】」
ロニから放たれる異様な雰囲気を感じ取った男は銃を構え直した。
人間というのは生命の危機に瀕した時、行動の合理性が著しく欠如する。この人間も恐らくはパニック状態に陥っていて、デタラメな行動をしているのだろうと男は推測する。
ならばこの場を一時的に収める手段として、威嚇射撃を放つのが手っ取り早いのではないだろうか。そう判断した男は引き鉄に指を添えた。
引き鉄を引くだけ。
あとは引き鉄を引くだけでこの事態は収束するのに、しかし男は次の挙動へ移ることができなかった。垂れた前髪の下にある、光の無いロニの黒目に射ぬかれ、
「【ならば与えよう】──」
凍りつく。
「──【重圧】」
直後、低い衝撃音が木霊すると同時に男の身体が吹き飛び、後方へ激突。窓と壁をぶち抜いて車外へ投げ出された。