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「おたませしました!」
屈託のない笑顔と言い間違いが可愛らしい。
水色のワンピースの上に着た白いエプロンは大きさが合っておらず、裾が膝下あたりにまで達している。
「お手伝いかな? 偉いですね」
褒めてやると少女の表情がより一層明るくなる。
「おねえちゃんにはサービスしてあげる!」
言って少女はグラスを乗せたトレイをカウンターに置く。
「このミルクは冷たくておいしいけど、あったかいのもおいしいんだよ。あったかくする?」
おねえちゃんと呼ばれたことに対する嬉しさを噛みしめながら、ロニは答える。
「えっと、それじゃあ、お願いします」
個人的には冷たい方が好みなのだが少女の申し出を断るのは気が退けるし、こんなに可愛らしい笑みを浮かべながら言われたら断れるはずもない。
それに、温めるのを待つぐらいの時間的余裕はある。
「かしこりまりました!」
言い間違いよろしく、元気な声と共に少女がグラスを両手で囲う。
グラスを掴むわけでもなく、触るわけでもない。ただ手を添えるだけ。
そんな少女の挙動を不思議に思いながら眺めていると、グラスの水面に波紋が立った。その直後、大粒の気泡がグラス底からいくつも湧き上がり一気に煮沸──グラスが熱に耐え切れず、割れ砕けて中身が飛び散った。
しっぱい! ごめんなさい! と慌てふためく少女。
ロニはカウンター上に広がるミルクの温度を人差し指で確かめて、唖然とした顔で呟く。
「……熱反応。お嬢ちゃん、魔素に干渉できるんですか……?」
「かんしょう……?」
ロニの服にかかったミルクを拭き取る少女は困惑気味に聞き返した。
「そう。熱反応は、魔素を動かした時に現れる現象の一つです」
魔素、という物質が世界には存在する。
しかし、目には見えない。
見えないうえに、触れることもできない。




