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「旅の途中で立ち寄ってね。あ、ウイスキーある? ストレートで」
しれっと注文をするシルバを横目で見やってロニはカウンターに置かれたメニューを手に取る。アルコールを注文するつもりはない。しかしメニューにはノンアルコールの類がミルクしかなく、ロニはやむなくそれを注文した。
ややあってウイスキーが入ったグラスが出て来て、シルバはそれを受け取り、口に付けてゆっくり傾けた。
口腔に含んだ液体は少量だが、喉に流し込むと同時に香り高い風味が立ち昇って鼻を抜けていく。鼻孔の奥に残る、ひりつくような余韻はアルコールのそれ。シルバは一度グラスを置き、後から出された水入りのグラスを手に取る。
これも少量だけ口に含んで喉へゆっくり流し込むと余韻が一瞬で消え、一気に味覚がクリアになった。
「美味しいですか?」
と、ロニ。
「ん? 飲みたい?」
「いえ、結構です」
シルバが差し出すグラスを両手で押し返してロニは拒否する。
別にアルコール類が飲めないというわけではないのだが、そもそも今は、馬車の再手配が終わるまでの時間潰しで街に繰り出しているのを忘れてはならない。
昔の話だが、ちびちびゆっくり酒を飲むシルバに付き合っていたら夜が明けていたことがある。その再現はなんとしても避けたい。
だから、時間を見て店を出るよう切り出すのと、尻を叩く仕事はロニにあるのだった。
さし当たっては、おかわりの阻止。とロニが意気込んでいると、カウンター奥の扉から誰かが出てくるのが視界の片隅に映って、顔をそちらへ向けると少女がミルク入りグラスをトレイに乗せて運んでいるのが見えた。
カウンター越しにグラスを出すには身長が足りないようで、少女はぐるりとカウンターテーブルを回る。そしてロニの横に来てグラスをトレイごと差し出した。




