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駅前の通りは観光客が頻繁に往来することから石畳で地面が補強されているが、この通りの舗装は特になく、土を平らに均しただけ。
それでも、防塵用にと住民がまいた水の跡があちらこちらで確認できるあたり、住んでいる人々の工夫とたくましさが伝わってくる。
──こんな感じだったっけな……僕が住んでた所も。
街の風景を見て思い出されるのは、ロニの故郷。
木造建築家屋が点在する荒野の村の姿を追憶すると、ここの街並みはよく似ていた。
そうやって感慨に浸っていると、隣で歩いていたシルバが急に立ち止まった。
「よし、ここにするか」
シルバが見ている方に視線を向けると屋号を掲げた看板が目に入る。
「酒場? え、入るんですか!?」
ちょっと駄目ですって! と制止するもシルバは聞く耳を持たず、トランクを担ぎ直して店の扉を開けた。
店内にはガラガラのカウンター席といっぱいに埋まったテーブル席があり、分かり易く二分されている。席に着いている客は作業着姿の人間が多い。
「ロニよ。旅人は、知らない土地に来たらまずはその土地を知らなきゃなんねえ」
シルバは、それに、と続ける。
「酒場っつうのは、情報が集まり易いだろ?」
「なんか格好よく言ってる風ですけど、お酒飲みたいだけですよね!?」
反論するもまるで無意味で、ロニはずかずかと店内へ入っていくシルバを追うように入店した。
店内は木材で形成されていて、木組みの天井から吊るされたランプが温かみのある光を放っている。カウンターの傍らの蓄音機から流れる音楽は音量が小さいながらも、客たちの話声に埋もれる事なく空間を漂っている。そんな店内の中ほどまで足を進めると、グラスを磨いていた店主からカウンター席へ誘導され、案内されるがまま席に着いた。
見ない顔だね、と店主。
小太りで額が後退した、人の良さそうな中年である。




