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たとえ近隣のカトレアから物資を運搬したとしても、三十キロメートル以上の距離はある。加えてファビッドキャニオン特有の起伏に富んだ地形。物資輸送における悪条件は揃いに揃っている。
「え、じゃあ建物の資材はどうしたんです? まさかそれも」
「いえいえバルフォア殿、それはさすがに人力では無理というものです。最初期においては、やはり建築材が運べなかったのでテントを張っていましたけれども、陸上を経路としない運搬方法はすぐに確立されました」
陸路は使っていない。
となると、一体どんな方法で?
フリックは地面を指差しながら答える。
「水、にございます」
言われてロニは気付く。
「なるほど、帯水層」
「ご存じでしたか。荒野であっても水はどこかに存在します」
地中には帯水層と呼ばれる地下水が溜まっている層がある。
帯水層は木々が生い茂る山地の地下を起点に、地層を斜めに横切るように平地の下を通過しているから、もしも水流の途中に大地の途切れ目があったとすれば、その地層の断面から水が漏れ出すこともある。
実際、ファビッドキャニオン内には断崖絶壁から漏れ出す帯水層の流れを源流とする川がいくつも存在している。
「カトレア付近の地下を流れる地下水は、クライムサイドの横を流れる川に繋がっています」
その水流を物資の搬送に利用したという訳である。
川を活用したことで家屋が建ち、物資が流通し、町が潤う。
「まあ、ここまでの爆発的な人口の増加は、やはり交通の便が確立されたのが大きいところですけれどね」
そこまで言ってフリックはハッとなってロニに向き直った。
「っとこれは失礼。少々話が長くなってしまいました」
「いえ、そんな」
「歳を取ると話が長くなってしまって参ったものです。ああ、それはそうとバルフォア殿」
「はい?」
「馬車を呼んでいたはずなのですが、待ち合わせの時間がズレてしまっていたようで」




