第四話「Burning Heat」
全年齢対象の制約の中で、ギリギリを狙ってみました。
まどろみから解放されようとしているソアーがベッドの上で身を翻した。
うつ伏せから仰向けに。
覚えず、光。
それが閉じられている双眸さえも貫いて、ソアーの意識を刺激する。
「もう・・・起きた方がいいのでしょうか・・・?」
魔女の伸びた鼻口部から独り言葉が漏れる。
今の自分には、まだこれと定めた人生の目標も義務も枷もない。
講義の時間に間に合うように大学へ自転車を転がしていた日々はもう、存在しない過去なのだ。
時間で表すならそれ程経っていないはずなのに、心ではもう遠い昔に感じてしまう。
それは自身に生じた身の変化によるものだろうか。
それに付随する心の変化だろうか。
ソアーは自身の顔を右手で弄る。
体毛に覆われた頬。
そこから伸びる鼻口。
右手の動きは下降する。
首筋も肌では無く体毛だ。
そして、胸。
「あ、あれ・・?」
そこに見慣れた外套の感触は存在せず、自身に巻かれた布と紐が在った。
ソアーは上身を起こす。
「脱いだんでしたっけ・・・?」
見下ろした先は上半身を覆う矯正下着と、腰から膝に纏った下半身の肌着だった、
どちらも色は白。
ソアーが視線と首の動きで部屋を見渡すと、一角に置かれた椅子の背もたれに外套とつなぎ服が垂らされていた。
縁には尖帽。
自身にはそこまでの記憶が無い。
それ程までに疲れていたのだろうか。
ソアーに宛がわれてたこの部屋は、これまでに見た教会の内装とは大きく異なっていた。
壁には剣か植物の葉を意匠化したような模様で飾られており、自身が預けるベッドを始めとした家具や調度品の数々は一目見て高価な物だと判別できる。
それがカーテンで遮られていない窓から差し込む陽の光で優しく照らされている。
貴賓の為に用意されている部屋なのだろうか。
ソアーはもう一度視線を下ろす。
自身の胸の、二つの膨らみを包む矯正下着をだ。
この世界の文明については疎いを通り越して無知に近いが、おそらくは自分が元々暮らしていた世界と比べたら差があるだろう。
この世界には「ブラジャー」と呼ばれる下着は、まだ存在しないだろう。
ソアーは、『ソラ』であったころに見たテレビアニメを想起した。
そこでは高度な文明を誇る月から、そこから見て発展途上の地球に降り立った少年が、ある計画の為に女装をする際に矯正下着に苦しんでいる場面だ。
ソアーが纏うそれは、彼女自身に息苦しさを感じさせていない。
自身がそれ程強固な締め付けを嫌っているのか、それともこの世界において獣人は体型や身なりにおいてある程度その自由に遊びがあるのか、それは分からない。
だが、自分がこれを身に着けているということは、少なくともこれを用いる必要がある体つきをしてることは確かだ。
「・・・」
ソアーは首の下、矯正下着の結ばれた姫に両手を以って掛けた。
「・・・」
期待ではない。
好奇心でもないと感じる。
興奮、これも違う。
だが、何かが、ソアーにそれを脱ぎ捨てることを命じている。
言うなればそれは、複雑に入り混じり変形した、確認義務なのだろうか。
「・・・」
結び目を解くために、ソアーが二の腕に運動の令を与える。
その時だった。
「あ・・・はい!」
部屋に設けられたドアを三度叩く音に、ソアーは言葉で返した。
咄嗟に両手はベッドの上、乱れた上掛けのその上で、身体を支えるように置かれた。
ソアーの返答に応じて、ドアーが開かれた。
そこから現れたのは、獣人の少女だった。
種族は鹿かそれに近いものだろうか。
彼女の種族の名前もまた、相変わらず知識として備わっていない。
年齢は外見で判断するに自分の半分にも満たないだろう。
その身体を包む衣服は、装飾性と機能性を両立させたような、ローブと給仕服を足して二で割ったようなものだった。
此処の修道女だろうか。
表情は柔らかな笑顔。
手には木製の桶と籠。
桶の中には靄を昇らせる無色の液体で満たされている。
おそらく湯だろう。
籠の中には折りたたまれた布や櫛が見て取れる。
おそらく入浴の代わりに清潔を保つ為の用品を自身に差し出してくれたのだろう。
その厚意に痛み入る。
「ど、うぞ、お、つかい、く、だ、さい、」
少女がソアーに投げかけた言葉は、昨晩に老年の教会主から聞いたそれよりさらにたどたどしいものだった。
おそらくは、この言葉の意味を知らないのではないのだろうか。
リウシェーに即席で叩きこまれたものか。
「ありがとう、ございます。本当に、何から何まで。何も、お返し出来ないのが、本当に情けないです・・・」
ソアーの言葉に、少女は笑みを保つだけだった。
その裏に疑問の念を感じていることを、ソアーは察した。
それは自身が操るこの言語についてだろう。
先ほどの予想は的中で間違いようだ。
「あ、と、で、お、しょ、くじ、を、よう、い、し、ま、す。あ、と、で、しょ、く、どう、に、き、て、く、ださ、い」
「はい・・・本当にありがとうございます・・・」
少女はソアーが座るベッドの横に設けられた幅広の側卓に両手に下げた二つを置くと、一礼の後に退室した。
「・・・」
それを見届けたソアーは、ベッドから立ち上がると同時に、矯正下着の紐を解いた。
支えを失ったそれが、重力に従って自身の身体を下って白の絨毯が敷かれた床に落下する。
表れたのは薄い肌着。
これも脱ぎ捨てる。
顕わになったのは、顔と同じく体毛に覆われた二つの膨らみ。
それを隠すものは何も無い。
それを見つめるソアーには、彼女の中の『ソラ』が僅かに疼くだけで、そこに特別な感情を抱かなかった。
ここまで来たら行き着くところまで。
下の肌着も脱ぎ捨てた。
「生まれたままの姿」と形容される状態で、ソアーは一度だけ深呼吸を行った。
自身がこの姿に生まれた時は、既に衣服を纏っていたが。
「・・・」
その姿で部屋の中を移動する。
目的地は先ほど見つけた、部屋の端に置かれた縦長の姿見鏡だ。
そこにたどり着いたソアーは、そこに映る自身を、その隅々を物色するように眺める。
年ごろの男性が見たら「獣」に変貌してしまうような、胸や股間の秘所を見つめても、やはりソアーの心には湧いてくるものが無かった。
或いはそれは、少々だらしない肉付きの、生き遅れの女性だからだろうか。
胸もそれほど大きくはないことも関係しているかもしれない。
ソアーは試しに股を、その秘所に右手を当てる。
やはり、同様だ。
「もしかしたら・・・『盛り』とかあるんでしょうか・・・?」
一般的に動物はある時期のみ、繁殖の為に意識を行動を高める。
人と動物、その二つのどちらかと言えば後者に近いだろう自身は、無意識の内にその習性に身を委ねているのだろうか。
この世界の、今の季節は定かではないが、ここまでの思考から鑑みるに、「盛り」の季節ではないのだろう。
「何か・・・何でしょうか・・・」
落胆、に近いのだろうか。
それは『ソアー』か或いは『ソラ』、どちらが感じたものかは、彼女自身は判別叶わなかった。
「『そのつもりがなくても』・・・でも、ちゃんと拭けば・・・『しちゃっても』隠し通せるでしょうか・・・?」
ソアーの視線の先には、先ほどの桶と籠。
その使用用途は、身体を拭うためのものだ。
そこに視線を投げかけたまま、ソアーはもう一度右手で秘所を弄る。
今度は、「明確な目的と意思」を以って。
「どうぞ。遠慮、なく、食べて、ください」
「はい。本当に何から、何まで。本当に、ありがとうございます」
食堂のテーブルに向かうソアー。
その身にはつなぎ服を纏っている。
「事後」には念入りに身体を拭いた。
おそらく、自らの行いを看破されることは無いだろう。
彼女の眼前には、大小様々な食器とそこに載る料理が並べられていた。
見覚えのない野菜に、種類も知らない肉や魚。
その食材で作られている料理もまた、どのような味を醸し出しているかは想像も出来ない。
テーブルの対岸に座るリウシェー教会主は笑顔で自身を見守っている。
恐怖に似た食わず嫌いが胸中で暴れているが、善意で出された料理に手を付けないのは何処の世界でも失礼に当たるだろう。
「それじゃあ、いただきます」
その言葉は、彼女の決意の表れでもあった。
フォークに似た二又の食器を右手に握り、自らから見て一番の手前に置かれた肉料理に対して、それを一口の大きさに切った欠片を刺して持ち上げる。
その料理には何かの香辛料の類と思しき粒が振りかけられていた。
この料理は自身に、セオロの人間に向けて作られたものだろうか。
それを眼前の老人に確かめる蛮勇は持ち合わせていが、少なくとも有毛人種については自分よりもこの世界の彼らの方が詳しいのは確かだ。
ここまで来たら引き返すことは叶わない。
「・・・」
さも自然に装って、ソアーは食器の先の肉片を口に含み咀嚼する。
「・・・!」
ソアーの舌が感じたもの、それは美味。
『ソラ』であった頃はどちらかと表せば濃い味付けを好んでいたが、現在舌の上で踊っている控えめな辛味に、ソアーは感動に近い衝動を覚えた。
「美味しいです!」
「それ、は、良かった、です。料理、を、した、者、は、セオロ、の、ご婦人、の口、に合、うか、と、言って、まし、たが」
「本当に美味しいですよ!その方にも、ありがとうと、伝えてください!」
ソアーの心に打ち込まれた不安の箍が外れ、彼女は次々と皿の上を空にしていく。
出来る限り、意地汚いと思われないように。
だが、可能な限り早く、より味わうように。
最初の一口が、ソアーが無意識に押し殺していた空腹に火をつけたのだ。
「それ、で、『イデメトルーカ』、に、来た、の、は、観光、か、何か、です、か?」
リウシェーの問いかけに、ソアーは腕の動きを一旦停止させた。
口に含んだ酸味が効いた魚と葉菜の料理を咀嚼しながら、彼女は思考を回らす。
『イデメトルーカ』とはこの港町の名前だろうか。
或いは、この街が属している大地か国家の名前か。
いずれにしても、ソアーが今身を置いているこの場所に間違いはず。
此処は上手く話を合わせるべきだろう。
「そう、なんです。前から、一度此処に、来てみたくて」
裏で背徳感に苛まれながら、ソアーは笑顔を作った。
「そう、でしたか。それ、で、これか、ら、『イデメルナヤ』、の、方、に、行く、の、です、か?」
「あ、そうですね。そっちも、見てみたくて!」
「なら、『イデメルナヤ』、には、私、の、知って、る、者、が、います。アウテオン、と、言い、ます。彼、に、行って、み、ては、どう、でしょう?私、に、この、こと、葉、を、教え、た、者、です。地図、と、て、がみ、は、用、意、して、います」
「・・・」
これは違う。
ソアーが悟った。
これは「自分が話を合わせている」のではない。
リウシェー教会主が、「自分が話を合わせられる」ように誘導しているのだ。
その上で、さらに助力を尽くしてくれているのだ。
「本当に・・・何から、何まで。ありがとうございます・・・」
ソアーの双眸には昨晩と同じように溢れんばかりの液体が湛えられた。
それを彼女は瞬きにて、必死に零さんとしている。
「さあ。料理、が、冷め、て、しま、い、ます」
「はい・・・」
再びソアーは食器を握る手と、長い口を動かす。
「本当は・・・ホシコさんを、知っているのですか・・・?」
その動作の中で、聞かずと決めた事をつい口走ってしまった。
「いい、え・・・私、は、知り、ま、せん」
自身の言葉を撤回するよりも早く、教会主が返答した。
「は」の部分に、若干の強みを込めて。
「では・・・あの方、ですか?」
もう、ソアーには引き戻る気は無かった。
自制心よりも好奇心が勝ってしまった。
ソアーが尋ねる「あの方」とは、昨晩に彼女をこの教会へと導いた異貌を指す言葉だ。
「それ、は・・・今、度、あの、者、に、会、った、時に、あの、者、に、聞い、て、く、だ、さい」
「はい・・・そうですね・・・」
それだけを呟くと、ソアーは再び、本格的に料理へと向かい始めた。
オオカミ獣人とは、セオロ人種とは予想以上に食い意地が強いらしい。
既に半分以上の皿に盛られた料理を身体の中に収めたソアーは、完食しても腹に若干の遊びが残ることを確信していた。
「こち、ら、が、手、紙、と、地図、です」
「はい、ありがとうございます」
礼拝堂の祭壇の前。
つなぎ服のその上に、外套と尖帽を身に着けたソアーはリウシェーから縦長の便箋と紙片を手渡された。
地図は二つ描かれている。
「きょうかい」という文字から「ふなつきば」、「ふなつきば」から「アウテオン」まで。
便箋には自分の知識が及ばない言語が記されている。
左下には、署名と思しき文字。
それが誰の名前のかもまた、ソアーには理解できない。
「それ、から、これ、も」
「これは・・・こんなの受け取れません!」
リウシェーがローブのポケットから取り出しソアーに向けて差し出した横長の紙片を目の当たりにして、彼女は声を張り上げてそれを固辞した。
便箋とは明らかに質感が異なるそれには金色の箔で装飾されている。
間違いなくそれは金と呼ばれる素材だろう。
何かの施設や交通機関を利用するための切符であろうか。
確実に理解できることは、それは本来貴人のために発行されているものだという事だ。
自身がこれを受け取り利用し、場違いと嗤われて恥をかくことに怖気づいたわけではない。
ここまでの献身を受ける謂れを持たぬ故の戸惑いだ。
「ご、心、ぱ、い、無く。ご婦人、の、ために、書きま、した」
見慣れた四本指で示された切符の表面には、白のインクで文字が書き足されている。
その横には青の判。
「ですが・・・」
「た、の、しん、で、頂、け、れ、ば、嬉し、い、です。これ、は、『リュウ、キャ、クセン』の切符、で、す」
「『リュウキャクセン』?」
「こ、ち、らの、言、葉、で、言う、な、ら、『ドーサル』。ドラゴ、ン、の、客、船、です」
「ドラゴン・・・!」
ソアーの中の少年性が歓声を挙げる。
やはりと感じていたが、この世界は「ファンタジーの世界」と呼ぶべき世界であるようだ。
まさか、生きながらにしてドラゴンが住まう世界を訪れることになろうとは。
そして、自分にそれへ乗る機会が与えられようとは。
『リュウキャクセン』とは『竜客船』ということだろう。
「ごめんなさい・・・。ありがとうございます・・・」
その言葉を以って、ソアーはリウシェーから切符を受け取った。
「あや、ま、る、こと、は、あり、ません」
「絶対に、このご恩は、忘れません・・・!いつか・・・絶対恩返しに来ます!」
「出、ぱ、つ、の前、に、私、達、の神と、その、教、え、に、集、まる、すべ、ての、者、に、祈、り、を、して、く、れま、せんか?」
老人が指さす方向には祭壇。
「嫌じゃないですけど・・・私・・・祈り方が・・・」
「身体、の、形、はじゅうよ、う、で、は、あり、ません。ご婦人、が、知って、いる、祈、り、で、いいです」
「・・・」
ソアーはリウシェーから祭壇へと、ブーツに包まれた踵を向けた。
あの合わせ拳の祈りが此処の神に捧げても良いものなのかは見当もつかない。
ここは老人の言葉に甘え、自分が知っている祈りの方法で行おう。
「・・・」
ソアーは両目を閉じる。
そして、閉じられた双眸の前で合掌する。
それは悟りの境地に達した者の教えを起源とする宗教の祈りだった。
『ソラ』の世界の。
しばらく経った後、ソアーが目を開き、合掌を解く。
気配を察して、横を眺めるとリウシェーもまた合わせ拳にて祈りを捧げていた。
二人の視線が交差する。
「ご婦人、の、旅、の、安、ぜ、ん、を、いの、って、い、ました」
「ありがとうございます」
獣人の魔女と老年の教会主は、共に笑顔。
それが合図だった。
「また、絶対に、会いに来ます。ありがとうございました」
「お、気、をつけて」
ソアーが一礼した後、外界へと繋がる扉へと向かい始めた。
その歩みの中で、彼女は振り返り、教会主へ向けて右手を掲げた。
それに対して、リウシェーは胸の前で掌を左右に振る。
それはソアーが知る別れの手標であった。
「『猊下』の指示通りに、見送りました。ん!?」
教会主室のドアを開いたリウシェーが、その中の光景を目の当たりにして驚愕を隠せなかった。
「そうか」
『真珠姫』は全身に鎧を纏い、両腰に飾り布を留めてることろだった。
その仕草自体には不自然な点は見当たらない。
『猊下』の家は元々、武によって名を上げた家系とされている。
『シェラーヒョール』の『族王』、その皇室において正装とされる鎧姿は、第三皇女である『猊下』が纏っていても可笑しな話ではない。
だが、今正にそれを身に着ける理由は如何なるものか。
少なくとも、この教会に身を寄せている間は、シェラーヒョールの人間であると身なりで語るよりも、常時のように修行僧侶の変装の方が比べ物にならない程都合がいい。
ならば、推測される理由は一つ。
早すぎる出発だ。
「一度、第二宮殿に帰る。そこで、まともに私一人探し出せもしない側近どもに指示をした後、西に行く」
リウシェーの胸中を察してか、『真珠姫』が言葉を紡ぐ。
「移動はどうなさるおつもりで!?」
「『大鋏』を呼んだ。もうすぐ到着する」
「何もこんなに早く・・・!」
「『奴』に感づかれた。どうせ此処には居れん」
「『奴』とは『妹君』、『赤石』様ですか!?」
「『奴』を『妹』と呼ぶな、阿保が。『奴』の背後には『あの女』。そして『黒百合』だ。奴らが絡めば間違いなく面倒な一悶着が生まれる。あのセオロの年増への餞別で、ホシコに対する私の義理立ては終わりだ。これからは私は、私を守るために動く。どうせホシコは静観する」
「『黒百合』・・・セリル猊下・・・!」
胸中の予想、セオロの魔女と『猊下』、そして『ホシコ』なる人物に関連性が生じていたことよりも、リウシェーの思考は『黒百合』と称された人物に傾いている。
自身と『猊下』の認識が一致しているのなら、『黒百合』とは『デワー・デルーク』の女王の又姪、セリル・ウェーサルト=ミチェダール=デワー・デルーク王女を指す呼び名だ。
ライメーレアの幹部組織である「教上会」において、『筆頭鎮世巫女』の任に就いている。
教会において法王と兼任していたデワー・デルークの女王が高齢によりその任を贈り、実質的な最高権力者へと取って代わっている。
そして、水面下で繰り広げられているデワー・デルークの王位継承抗争において、「決して自らは手を汚さない、生まれついての『黒百合』」と揶揄されている冷女で有名だ。
そんな人間が企てることが小事で済むとは、リウシェーもまた微塵にも思わない。
『猊下』の言葉通り、それ以上の世界を揺るがす事態に発展しても不思議ではない。
「奴をセリルと呼ぶな。虫唾が走る」
リウシェーの言葉を、『真珠姫』は短く切り捨てた。
続く