~ 63 ~
目前には綺麗な木目があった。
朦朧とする意識が次第にはっきりしてくると、レイヴァンは自分自身の身体が横たわっていることに気がついた。
視界に見える板は何だ? 瓦礫の下敷きになっているのか?
瞬きを繰り返すうちに記憶が蘇ってくる。
俺は力を使い果たし、悪魔に斬られ……
思い出した内容に突然心臓は高鳴り、慌てて体を起こすと全身に痛みが走った。
すぐさま臨戦態勢に入ろうとした彼だったが、視界に飛び込んできた生活用品の数々に目が点になった。
悪魔と戦っていたはずなのに、何故かベッドの上にいる。
しかも自分の知らない何処かの一室のようだ。
窓からは日が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
窓越しに望む空は雲一つ無く澄んでいた。
どういうことだ!?
状況が理解できないままベッドを降りようとシーツをめくると、ベッドに寄りかかり伏せて眠る修道女のマリアンがいることに気がついた。
彼女は小さな息をたてながら気持ちよさそうに眠っている。
……ミレーニアもよくこんな感じで眠っていた。
艶やかな緑色の長髪にそっと触れると、その感触に一層強く過去を思い出す。
忘れていた愛おしさが蘇ってきたが、同時に今と過去を重ねている自分が情けなかった。
ミレーニアは戻ってこないと解っている。
それなのに……。
レイヴァンが声をかけると彼女はすぐに目を覚ました。
顔を起こし寝ぼけ眼を指でこするマリアンは目の前に写る存在に気がつき驚きの声を上げる。
「レ、レイヴァン! やっと目を覚ましたんですね! よかった……」
満面の笑みを浮かべ目を細めるマリアンだったが、目元には隈が浮かび疲れた表情をしていた。
そこでようやくレイヴァンは自分の状況を理解した。
「どうやらかなり長い時間あんたに世話になったようだな。 俺は何時間眠っていたんだ?」
「ここに運び込まれてから今日で三日目の朝を迎えたところです」
「三日だと!? それは予想以上の時間だ。 それまでずっと看病を?」
彼女は静かに頷いた。




