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「逃げるって、ブライトは怪我をしているですよ? 走れるですか?」
「さすがに走れないさ。 でもどうせ、すぐに尽きる命だ。 気にせず置いて行ってくれ」
「そ、そんなのダメです! ……ご、ご主人様が悲しむです」
思わず口走った台詞に妙な恥ずかしさを覚えたリルは慌てて小さく言葉を付け足した。
「今まで散々迷惑をかけてきたのに最期まで同じじゃレイヴァンに悪いからな。 最期ぐらいは役に立って死なないと」
「や、役に立って死ぬなんてのはダメです! 役に立ったら誉められるべきです!」
また意味の分からないことを。
正直そう思ったのに、今は不思議と愛おしさが勝る。
「もう良いんだ。 リル、お前もレイヴァンの激昂を見ただろ? 迷惑をかけてきた俺のために、あんなに怒ってくれるなんて俺にとったら十分すぎる誉め言葉だぜ」
ブライトは話し終えると一息をつく。
普段と変わらない会話なのに何とも言えない達成感がある。
次第に眠気が襲ってきた。
「ブライトさん、しっかりして下さい!」
遠退く意識を呼び戻したのは修道女のマリアンちゃんだった。
彼女は本当に姫さんに似ている。
他人とは言え、仕えた人に瓜二つの人に看取ってもらえるのは何とも従者冥利に尽きる。
そう考えると逆に看取れなかった過去が悔やまれた。
あの世で謝らないといけないな。
「ブライトさん、すぐに治しますから。 意識をしっかり持ってください! 目を閉じないで下さい!」
……治す?
どうやって?
この傷は確実に死に至らしめる傷だ。
これまで大小多くの怪我を経験してきたから解るんだ。
声をかけてくれるのも延命行為にすぎない。
閉じようとしていたブライトの目が淡い光を感じた。
今は夜だったはず。
不思議に思い目を開くと霞んだ視界に優しい顔の女性が写る。
マリアンちゃん?
……いや、ついに女神が迎えに来たのかも。




