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壁に叩きつけられた影はゆっくりと立ち上がると頭を振って朦朧とした意識を醒ました。
「アスモダイ様のモノでない、この強大な力…… まさか! 封印の楔はそこのウィルではなく別に居たということか!?」
そして完全に意識が戻ったところで何かに気が付いた悪魔は一瞬にして元の無形の影へと姿を変えた。
そして言い終わるや否や慌てて聖堂を飛び出していく。
「逃がすものか!」
「ご主人様、待ってくださいです!」
レイヴァンは慌てて影の後を追い、リルは主人を追い聖堂を飛び出した。
外に飛び出すと周囲の様子が穏やかなことに気がついた。
周りで起こっていた争いは何故か収束している。
満足に動ける者たちは消火活動を始め、傷ついた者たちはその場で休んだり互いに手を取り合いながらゆっくりと避難を始めていた。
事態は自分の知らないところで急速に進展している。
結局、影の悪魔からも今回の事件について聞き出すことができなかった。
歯痒い気持ちを舌打ちしてかき消すとレイヴァンは速度を上げた。
影を追いかけ走り続けると、すぐに広場が見えてきた。
修道院の入り口に広がる広場には駆け込んだ時よりも多くの人が倒れている。
その中に、うずくまるマリアンとその隣で心配そうに見守っているブライトが居た。
影の悪魔は真っ直ぐにその二人を目指している。
先ほど戦った時に聞いた話やウィルが話したお告げの内容から推測しても、狙いがマリアンに向けられているのは明白だった。
「ブライト! 彼女を護れ!」
先行く悪魔を捕らえきれないレイヴァンは大声で友の名を叫んでいた。
声に気がついてブライトが振り向いた時、影は網のように大きく広がり迫っていた。
そして彼に感嘆の声を出す僅かな時間さえ与えず一瞬んで身体を包み込む。
先にブライトを殺るつもりか!?
その様子を見てレイヴァンは大きく舌打ちをしたが、実際はそれを上回る窮地へと陥っていた。




