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「なぜ、その修道女を遣いに出す」
「ミカエリス様のお告げがあったからです」
「またミカエリスのお告げか。 お告げがあれば、あんたは何でもするわけか? 悪いが俺はあんたたちを完全に信用しているわけじゃない。 あんたが俺の追っている悪魔で人間に化けているかもしれない。 そうなると、俺たちの存在が邪魔になるはずだ」
「レイヴァンさん、それはあんまりではありませんか! ウィル院長は!」
静観していたエリィがこれ以上は我慢できないと声を荒げて何かを伝えとしたが、ウィルがそれを遮るように再び話しだす。
「私のことならいくら疑って頂いても構いません。 ですが、日が昇る前にどうかマリアンを」
手を合わせ深く頭を下げる院長の姿を見て、リルとブライトはレイヴァンに何かを訴えかけるかのように静かに見つめた。
しかし彼が返事をすることはなく、沈黙が続いた。
その沈黙を破ったのはマリアンだった。
「ウィル院長、お呼びでしょうか?」
彼女は静かに聖堂に入ってくると、ウィルの前で立ち止まり小さくお辞儀をする。
「ひ、姫さん!?」
顔を上げた彼女を見たブライトは一瞬で目が醒めた。
そして思わず声を上げてしまい、自分の失態に背筋を凍らせた。
目線だけをゆっくりとレイヴァンに向けると、彼の鋭い視線が突き刺さる。
レイヴァンとブライト以外は話が見えず不思議そうな顔をして互いの顔を見合わせた。
誰もがブライトに説明を求めるような表情を見せたが、それ以上彼が口を開かないと解るとウィルが再び続ける。
「朝早くからごめんなさいね。 実は貴女には今からすぐにここを発って隣町の修道院までこの手紙を届けに行って欲しいの」
マリアンは一瞬戸惑ったような表情を見せたが、直ぐに笑顔を見せて快く手紙を受け取った。
「それでレイヴァンさんたちにあなたの護衛をお願いしていたのだけれど、なかなか承諾してもらえなくて……」
「どなたにも御都合がありますから無理にお願いしては迷惑にしかなりません。 たとえレイヴァンさんたちが居らっしゃらなくても、しっかりとお役目を果たしますから、どうぞご安心ください」
「ありがとう、マリアン」
ウィルはこれまでにない笑顔をマリアンに見せると、目を閉じて頭を垂れ祈りの言葉を紡いだ。
「遣いに発つマリアンにミカエリス様の大いなる御加護を」
「ありがとうございます」
マリアンも祈りを聞き終えると同じように手を合わせ頭を垂れ、目を閉じて祈りを捧げた。
ミカエリスの像にも祈りを捧げ終えた彼女はレイヴァンたちに向かって頭を下げてから大聖堂を後にした。




