~ 29 ~
翌日レイヴァンたちは日が昇る前、木製の扉が連続で叩かれる音によって眼を覚ました。
いつもと様子が違うことに気が付いたレイヴァンは起き上がり部屋の入り口で来訪者を迎え入れると、目の前に現れたのは初めて会う修道士だった。
「レイヴァン様、ウィル院長がお呼びです。 すぐに大聖堂へお越しください」
彼は忙しなく一礼してから用件を伝えた。
その鬼気迫る様子にレイヴァンは短い言葉で頷くと、直ぐにコートを羽織り大聖堂へ向かって走りだす。
眠そうに顔を擦りベッドの上で大きな伸びをしていたリルも主人のただならぬ様子に気がつくと、未だに眠り続けるブライトを叩き起こしてから後を追った。
大聖堂に入ると、女神像の前で院長のウィルとエリィが待っていた。
「どうかしたのか?」とレイヴァンが端的に尋ねると、ウィルが一歩前に出て答える。
「急に呼び出してしまってごめんなさい。早速ですがお願いがあるのです」
「こんな朝早くからか?」
「はい、日が昇る前にとのお告げがありましたので」
「俺たちはお告げなんて気にしたことないんだけどな……」
大きな欠伸をして大層眠そうに頭を掻きながら遅れて大聖堂に入ってきたブライト。
彼にも丁寧なお辞儀で挨拶をする彼女は視線を戻すと続ける。
「実は修道女を一人、隣町まで遣いに出そうと思うのですが、その護衛をお願いしたいのです」
「断る」
話を聞いたレイヴァンは即答した。
「言ったはずだ、俺たちはこの修道院へ悪魔を追ってきた。 目的以外のことをするつもりはない」
彼は鋭い視線をウィルに送ったが、彼女も真剣な眼差しを返してきた。
「遣いに出す者の名はマリアンと言い、院内でも特に信仰心が厚く、深い慈愛を持った修道女です。 このような状況下に置いて彼女を一人で遣いに出すのは忍びないのです」
ウィルの言葉にレイヴァンは一瞬眼を見開いたが、すぐに更に鋭い視線で彼女を睨みつける。
修道士や修道女たちが減っているとは言え、愛した女性と瓜二つのマリアンを唐突に指名してきたことで、ウィルが自分の過去を知っている悪魔なのではとレイヴァンに疑いの念を抱かせていた。




