~ 17 ~
祈りに集中しているからか彼女は足音にまったく反応を示さない。
レイヴァンは近づくと興味本位で声を掛けた。
「深夜にもお祈りか? 修道女ってのは熱心なものなんだな」
背後から聞こえる突然の声。
そこでようやく彼女は他人の存在に気がついたようだ。
身体を一気に硬直させ怯えるように振り返える。
なんとも滑稽な修道女だと思ったが、その姿を見た彼は思わず声を上げていた。
「ミレーニア!」
彼女は突然名前を呼ばれて驚いている。
初対面なのだから、それが彼女の名前であるはずがない。
しかし、レイヴァンの瞳にはそう呼ぶ姿に映ったのだ。
ミレーニア。
それは、もうこの世に存在しない人の名前。
彼が愛した女性の名前。
「い、いや、すまない、人違いだ。 ミレーニアであるはずがない」
「え? あ、あ、いえ、そんな……」
彼女は状況が理解できないようで言葉を詰まらした後、一呼吸置いてから話しかけてきた。
「レイヴァン様ですよね? ウィル院長から話を伺いました」
彼は驚きの表情を隠せないまま短く返事をした。
頭の中では未だ修道女とミレーニアの姿が重なり合っている。
聞こえる澄んだ声も、ミレーニアそのもの。
本当にミレーニアじゃないのか?
心の中で何度も自問した。