~ 16 ~
草木も眠る夜更け。
レイヴァンは眠れずにいた。
広い修道院を見て回っただけの一日では十分に身体を使わなかったため疲れていないのか、それとも本能が身の危険を感じ眠らせてくれないのか。
どちらにせよ眠れないのなら無理に寝ることはない。
「ご主人様」
彼が今回の事件について考えようとすると突然リルに呼ばれた。
起こしてしまったかと反射的に隣を見たが、視界に入ってきたのは何事も無かったかのように横たわる彼女。
「リルは、こんなに食べられないです」
彼女の続けた言葉に一瞬呆気に取られたが締まりのない表情に寝言だと確信すると、小さく息を吐いてから今にも床に落ちそうなシーツを彼女に掛け直した。
「大人の女だと言うのなら、もう少し行儀良く寝て欲しいものだ」
一人呟いた後、視線を窓の外に移すと空に浮かぶ紅い月が見えた。
しばらく眺めた後、レイヴァンはおもむろに部屋の外へと出た。
院内を気の向くままに歩き続けると、いつの間にか大聖堂の前に辿り着いていた。
最初は外観を眺めるだけの彼だったが、何かに誘われるように聖堂の扉を開いた。
扉の開く音と足音が驚くほど良く響く。
夜の聖堂内は一層神聖な雰囲気を醸し出していた。
彼は昼間と同じように真っ直ぐに進むと奥に鎮座する女神像に鋭い視線で睨みつける。
「ミカエリス……」
像の前で忌々しそうに呟くレイヴァンは祭壇の上で跪き祈りを捧げている修道女が居ることに気が付いた。