選べる夢
掲載日:2026/03/17
男は、夢を自由に選べる装置を手に入れた。
楽しい夢、美しい夢、成功する夢。
望めば、どんな夢でも見られる。
男は毎晩、幸せな夢だけを選んだ。
失敗も、悲しみも、もう必要ないと思ったからだ。
そんな生活が続いたある日、
装置にひとつの表示が現れた。
――「未再生の夢:重要」
男はしばらく迷ったが、再生することにした。
その夜、彼が見たのは、ひとりの女性の夢だった。
小さな部屋で、笑い合っている。
特別なことは何もない。
ただ、静かで、あたたかい時間。
やがて夢の中の彼女は言った。
「最近、夢ばかり見てるよね」
男は答えられなかった。
彼女は少し寂しそうに笑った。
「ねえ、ちゃんと現実で会いたいな」
そこで夢は終わった。
目が覚めたとき、男はすぐに装置を確認した。
もう一度、その夢を見ようとした。
だが――表示は消えていた。
男は思い出そうとした。
彼女の顔を。声を。名前を。
だが、どうしても思い出せない。
ただひとつ、胸の奥に残ったのは、
何かを失ったような感覚だけだった。
その夜も男は、完璧な夢を選んだ。
今度は、誰もいない夢を。




