道化師と百合のはじまり
同性の、女性の道化師に恋をした。
デートしてる姿をみたいのなら、はじめに言っておくけど、私の恋心を知るモチベーションには合わないと思う。
もちろん、時には喫茶店でデザートを分け合って、遊園地に行って、映画館を観て……大事な日にはお家デートもして。ああ、高校生だから、高級レストランだとか、ドライブデートは選択肢にないんだ。代わりに文化祭で一緒に周って、修学旅行で周りの女子の視線を抜け駆けして……。
うん、いいと思う。甘酸っぱい恋。こういうことも大事だし、実際、私もしたい。
けど、なんというか……部活動で真剣に活動に励む姿をみたら、まず私が好きな人と一緒にやりたいなと思うのは"同じ活動"をすることで、第1にそれがあって、特別な日にはデートをしたい。日々の生活では、同じ趣味を頑張って繋がりを感じていたい。
もし恋した人がピアニストなら連弾したいし、勉強熱心なら一緒に勉強したいし、陸上選手なら私も走りたいし、野球部ならキャッチボールをしたい。
私の恋した相手は道化師。
私も道化師になって、一緒に綱渡りをしよう。ボールを投げあおう。
彼女がくちずさんだ歌を覚えてる。
「サーカスが来ると、君はドキドキして言った。『きっとうまくいく』なんて夢見がちに言った。綱渡りみたいに」
* *
「あの人、かっこいい」新入生歓迎会で、クラスメイトが言った。
目を向ける先は「ジャグリング部」と掲げた看板の前で、大きいヨーヨー……、中国ゴマ?を足の間に通したり、2個、3個と増やして回して見せたりしていた。
「こら、髪染めるなと言っただろ!」生活指導の教師がその曲芸師を怒鳴った。彼女はボブとショートの中間の長さの髪で、真っ赤に染めていた。
スカートではなくズボンを履いていた。腰や胸のライン、顔の化粧で女性だろうなと思えたけど、かなりユニセックスな印象だった。
「あ、これカラーペイントワックスですよ。水で洗えば落ちるんで、衣装ですよ、衣装」彼女はあっけらかんとしていた。
「なら今すぐ落としてこい! 進藤!」生活指導の教師は令和の時代とは思えない対応で濡れタオルを容易すると無理やり髪を拭った。教育委員に言われれば一発アウトだろうに。もっと言えば誰かが録画してSNSにアップロードでもすればアウトだろうに。
「あ、もう、やめてくださいよ!」進藤と呼ばれた彼女はしかし、どうも本気で嫌がっていないみたいだった。日常の一コマ見たいに「やめろよ〜」とおどけて髪をなすがままにわしゃわしゃされていた。
きっと教師とは学校以外でも関わりがあって、気を許しているのだろう。でなければ、ちょっと通報するのは教育委員会ではなく警察かもしれない。……いや? 何を言ってるんだ。教師も女性だから、別にそんな関係じゃない。
「あ」進藤先輩は教師に邪魔をされて放置されていた中国ゴマを足で蹴ってしまった。
コロコロと私の足元に転がった。
「すみませーん。全く、危ないじゃないか、〇〇先」多分進藤先輩は生活指導の教師のあだ名を言ったと思うが、よく覚えていない。
「お前なあ……」教師は呆れた顔を先輩に向けたあと、私の方に向き直った。「すまん、新入生だよな? 私はジャグリング部の顧問でね。正直兼任だからジャグリングのことよくわかってないけど……道具体験してみる?」
「のぞみー! 水泳部行かないの?」クラスメイトが私を呼んだ。
「あー、ちょっとこれ(中国ゴマ)、興味出たからやってみるよ。水泳部は連日体験会やってるし」
私は足元に転がったコマを拾って、駆け寄って来た進藤先輩から回すための紐と持ち手を受け取った。縄跳びみたいだけど、紐はずっと細い。
「手に持って貰ったけど、コマは床に置いて回すんだ。床に紐をたらして、その上にコマを置いて……うん。そうしたら、持ち手を左右に振ってみて」
……まあ、いきなりコマが回せたら私はかなりの才能の持ち主だろう。実際にはよろよろとコマは初速から回転軸がぶれて、どんどん失速していった。
「ははは、気にしないでいいよ。でも、そんな真剣な顔でいきなり頑張れるなんて、才能あるね」進藤先輩はおだてていう。「まずは私がコマを回すから、そしたら持ち手を君に渡すね。えっと」
「のぞみです。一条のぞみ」
「よろしくのぞみ。私は進藤あゆみ。気軽にあゆって呼んでね」
「……はい。あゆみ先輩」
「喋ってる間ずっとコマが回ってたのは気づいた。やっぱり、才能あるよ、軸が歪まずもててるうんだから」
そういうと、先輩は私の真隣に立って、両手のひらで私の手の甲を覆って、コマを持続して回す方法を教えはじめた。「こうやって、片側を上に引っ張ると加速するんだよ」
「……」この先輩、少しずるい人なのかな。あざとい、って言っていいのかな。
私はあゆみ先輩の手の熱を感じながら、回転するコマがゆらゆら揺れているのをじっと見てた。ほかのところに視線を移したかったけど、出来なかった。ただ、たまに上半身同士もくっついたりして、必死に私は目の前のコマを見るように集中した。
出会って初日から、私は進藤あゆみ先輩の温かさと声と……真剣に道具を見つめる眼差しの虜になっていた。




