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愛しき人はコドクより蘇り  作者: 五槍暴君
第1部『ヴァイアル編』
2/18

第1話part1

午後10時。工業団地跡。

露出した広大な地面に点々と生える草草が、夜風に吹かれ揺れている。

冷気を多分に含んだ、夜風。

「ぅ寒っ!」

3月下旬にしては少々季節外れなそれを身体に浴び、思わず身震いする少年――叢雨侠弐むらさめ きょうじ

「上着着てきたんだけどな……」

誰に言うでもなく、ポツリと呟く侠弐。

上は黒のインナー、グレーのシャツ、濃紺のロングコートの3枚重ね。

下はズボンとゴツめのソックスを履き、防寒対策は完璧の筈だ、と考えていた。

「ま、汗をかくよりかは良いか」

侠弐は、前向きに考え方を変えた。

そして、顔を正面に向き、手に持った双眼鏡のような器具越しに、その中心を見据える。

彼は現在、団地跡の丁度中心地点を、数メートル離れた場所から監視していた。

手に持ち覗く双眼鏡擬きは、最新式の暗視鏡ナイトビジョン

僅かな光を何倍にも増幅させ、夜間でも昼間のような景色を鮮明且つフルカラーで写しだす優れものである。

「今の所、変化なし、と」

彼の視線の先――中心地点には、非現実的な光景があった。


ヒビである。


空中にヒビが入っているのである。

数十センチのヒビが縦長に、細く、歪に。

否、それだけではない。

「お」

ヒビが広がり始めた。

「……おいでなすったな」

ヒビは大きく、亀裂に、さらに大きく、裂け目となった。

チラリと見える向こう側からは、この世のものではない禍々しい気配が漂ってくる。

「……」

侠弐は、緊張と湧き上がる恐怖心を抑え、努めて冷静に裂け目を見据える。

そして、暗視鏡から片手を放し、コートのポケットに手を突っ込み、文字と模様の間のようなものが書かれた長方形の紙の札を1枚取り出す。

その時だった。

「キシャアアアアゴ!」

奇怪な鳴き声が辺りに響き渡った。

同時に、裂け目を突き破り、1体の怪物が姿を現した。

鱗で覆われた直立二足歩行の巨体。

爬虫類を彷彿とさせる頭部に、ギョロギョロと回転する2つの眼玉。

太く長い、手足の爪々。

背中には、古代生物の如き翼が生えている。

獣僕と呼ばれる怪物達の一体。名はガメレア。

その姿に、侠弐の鼓動は早く、額には汗がにじみ出る。

(お、落ち着け……手順通りやれば、問題はない)

ガメレアは、辺りを窺うように両の目玉を動かし、他に敵がいないか探る。

侠弐は息を殺しながら暗視鏡を覗き、次のアクションを待つ。

やがて、目玉は正面を向き、前方へゆっくり歩きだした。

1歩、2歩、

「……」

3歩。

(今だ!)

むつ!」

侠弐が叫ぶと同時に、彼の持つ札とガメレアの立つ地面が青白く輝き出す。

そして地面からは、クリオネが獲物を捕食する際の触手の如き6本の光る物体が出現、ガメレアを取り囲み、閉じ込めた。

「キシャ!?キシャアアアアゴ!」

ガメレアは逃れようと暴れるも、物体はウネウネとした見た目に反し堅牢で、ビクともしない。

飛行を試みるも、上部に物体が絡まって天井を成し、抜け出すことは不可能。

更に、物体は収縮を始め、身動きすら取らせなくしてしまった。

侠弐は、その様子を確認すると暗視鏡をコートのポケットに入れ、手の甲で額の汗を拭った。

「ふぅ……上手くいったな」

そう言い、手に持った紙に目をやる。

空檻・からおり むつ

其れが、今侠弐が使用した術の名称である。

1対の紙の内、予め札の片方を発動する場所に設置、標的がそこにいる際にもう片方を持ち、合図となる言葉を発し捕らえる、という代物。

「さて、次は……」

侠弐は、閉じ込められた怪物に、一歩一歩近づいていく。

そして背面に回り、物体と物体の間に位置する背中に、先程のものと似た札を張り付ける。

瞬間、

「キシャアアアア!キシャアアアアゴ……」

ガメレアの身体が青白い光へと変わっていき、札の中へ吸い込まれていった。

それと同時に物体も消え、辺りは再び静寂を取り戻した。

侠弐は地面に落ちた紙を拾い、2度折りたたんでポケットにしまう。

「これで17体目か……」

この世のものではない怪物との遭遇という、恐ろしい時間から解放された安堵とは裏腹に、彼は浮かない顔をしていた。

「こんなんで、力が得られるんだろうか」

彼の脳裏に、師の言葉が浮かぶ。


「君は独自の鍛錬を己に課してきた。それは目を見張るものがある。が、実践の方はどうだろう。望む力を得るには、少々不足しているんじゃないかい?何、焦らずとも、待っていれば好機は向こうの方からやってくるさ」


「……って先生は言っていたけど、今のとこ、監視と偶の結界発動、封印だけで、実際に戦闘をするわけでもないし何の意味が……はっ、いかんいかん」

首を左右に振り、後ろ向きな考えを振り払う。

「まっ、まずは地道にこなしていくしかないだろう。さっきだって前よりは焦らず封印できたわけだし、胆力がついている証拠だ」

侠弐は再度前向きに考えると、左手をかざしながら、ふと空を見る。

雲はなく、月の独壇場。

その輝きを受けてか否か、彼の左手首に嵌まった腕輪がキラリと光る。

「……リサ……」

思わず呟いた、その名前。

腕輪の送り主にして、侠弐の想い人。

太腿までかかった銀髪、ゴシック調のケープ、そして、あどけなく微笑んだ顔。

否、それだけではない。彼女と過ごした日々の全てを、侠弐は鮮明に覚え、思い出すことが出来た。

勿論、腕輪を貰った時の事も。


「侠弍!こ、これ」

「?何?」

「ウ、ウェディングリング……わ、私と侠弍の」

「!」

「侠弍、前に言ってた。好きな人同士が生涯の契りを結ぶ時に嵌めるも、ものだって。そ、それを頑張って作ってみ、みました」

「……」

「ど、どうかな?」

「……腕輪?」

「う、うん?」

「ウェディングリングは指輪、だったと思うんだけど」

「え⁉ご、ごめん、直ぐ創り直すね!えーとえーと」

「いや……いいよ」

「え?」

「これが、良いんだ。リサが一生懸命作ってくれたこれが」



故にあの日、連れ去られていくのを止められなかった悔しさが彼の心には常に渦巻き、以降の原動力と化していた。

「待っててくれよ。必ず助け出して、守って見せるからな」

侠弍は、かざした手を降ろし、握りしめ、そして緩める。

「さて、封印も済んだことだし、早く帰って明日の鍛錬に備……え?」

侠弐は、おかしなことに気づいた。

「なんで……塞がらないんだ?」

通常、中から怪物が飛び出してきた後、裂け目は自動的に修復され、元の空間に戻る。

多少の時間差はあるにしても早くて数秒、遅くとも数十秒でテレビの逆再生のように、破片が戻っていくのだ。

だが、今彼の眼前に在る裂け目には、その気配がまるでない。

寧ろ、段々広がってさえいた。

「な、なんで……まさか」

このような状況で起こりうる事態を、侠弐は師から聞いていた。

裂け目が広がり続ける時。それは、もっと恐ろしいモノ、即ち――


『魔神』が、向こう側からやって来る合図。


「まずい!」

侠弐は、懐から札を何枚も取り出す。

「急げ、急げ!」

慣れない手つきながらも、急いで術の発動準備を行う。

彼は動揺していた。

師から、滅多に起こる事ではないと言われていたのもあるが、心のどこかで、まぁ遭わないだろうと、高をくくっていた事が大きかった。

(何をやっているんだ俺は!想定外の事態くらい想定しとけよ!こんなんで、意味がどうの言ってんなよ!)

自身を叱咤しつつ、なんとか準備を整える侠弐。

「よし、出来た」

彼の手の中には、札が4枚、三角状に纏めて折りたたまれていた。

「睦・錐ノ(むつ きりのかご)!」

叫びにも似た詠唱と同時に、先程よりも太く長い物体が団地跡の四方の隅から空高く、斜めに伸びていく。

向かう先は全て、中心地点の遥か上空。

物体達はそこで合わさり、巨大なピラミッド状の結界を築き上げる。

錐ノ籠。侠弍が師から教えられた術の中では、最高の頑丈さを誇る代物である。

師からは、余程の緊急事態の際にのみ使うよう言われている。

彼女曰く、周囲への被害を最小限に抑える事と、自身に異変を知らせるのが役割、との事。

「さて、俺も直ぐに逃げ……あ」

言いかけて、侠弍は気付き青ざめた。

自身が結界の範囲内にいる状態で発動した。即ち、中に閉じ込めてしまった事に。

「まずいまずいまずいまずい!」

全身から汗が吹き出しながらも、彼は可能な限り中心地点から離れようと、全速力で走り出した。

そして、結界のすぐ側まで来た、その時であった。


ガシャアアアアン!!!!!


ガラスが勢いよく砕け散る音が響き、土煙が舞い上がった。

侠弍は振り返り、腕で砂埃から目を守りつつ、暗視鏡を取り出して中心地点を見据える。

やがて煙は晴れ、状況が鮮明に現れる。

「うわっ!?」

突如、カメラのフラッシュを間近で見たかのような閃光が、彼の目を襲った。

直ぐに暗視鏡を退け、裸眼で再度見る。

そこには、異常とも言うべき光景が広がっていた。

(なんだこの明るさは!?それに、あれは!?)

夜空とは余りにもミスマッチな輝きが中心地点から発せられる。


其処には、2体の魔神が向かい合い、対峙していた。


1体は2メートルを超える偉丈夫であった。

昔の潜水服を彷彿とさせる体に、ヘルメットとクラゲが融合したような頭部。

太い首元からは、何十本もの細長い触手が伸び、身体中に絡みついている。

極め付けは、頭上を浮遊旋回する3つの光玉。

この玉達が、昼間の如き明るさを生み出していた。

クラゲの魔神は、正面に向かって指を差し、遠く離れた侠弍にも聞き取れる程の大声を発した。

「無駄な抵抗は止め、今直ぐ我らの軍門に降れ!!!!」

侠弍は再度暗視鏡を取り出し、光の直撃を避けつつ、指の差された方向――もう1体の魔神に視線を向ける。

魔神は、少女の姿をしていた。

太ももまでかかる、燻んだ銀髪。

所々が赤黒く変色した無地のドレスに、ゴシック調のケープ。

その出たちに、彼は見覚えがあった。

「ま、まさか」

背丈が少々伸びているが、間違いなかった。

間違えるはずがなかった。

ずっとずっと想い続け、助け出し守り抜く事に人生を捧げると誓った相手を。

「……リサ?」

彼の心音は、バクバクと速くなり続ける。

それは、恋人と再会出来たことへの喜びから――だけではなく、

(ち、違う。何かが)

彼女の変貌振りへの動揺も含まれていた。

一つは、彼女の持物、否、得物である。

(あれは、刀か?)

鍔の無い刀 所謂長ドスに似た物が、彼女の左手に握られていた。

鋭利な刃先が、模造刀ではなく真剣である事を、侠弍に感じ取らせる。

もう1つは、彼女の表情である。

顔自体は、侠弍の記憶にある通り、目鼻立ちのはっきりした綺麗なものに変わりない。

が、その顔に彼の知っているあどけない微笑みは欠片もなく、何千何万或いはそれ以上の修羅場を潜り抜けてきた、力強くも冷たい猛者の面構えがそこにはあった。

(一体、何があったっていうんだ……)

動揺する彼をよそに、2体の魔神は臨戦態勢を取る。

クラゲ頭は、両掌から光球を生み出し、構える。

少女も、片手で刀を構え、正面の相手を見据える。

その眼の奥には、確実に相手を仕留めるという決意の炎が、静かに燃えていた。

構え始めて、数秒後――

「うおおおおおおお!!!!」

先手は、クラゲ頭であった。

掌の光球を、少女目掛け、全速力で投擲。

衝突する寸前で、少女は上空高く飛び、回避する。

そのまま宙がえりをし、同時に――

槍弾スピアブレット

空中に円錐状の銀色の物体を無数に生み、クラゲ頭に降り注がせる。

「馬鹿め!!!!」

そう叫ぶクラゲ頭、無数の光球を同じように生み出し、迎撃する。

果たして、物体と光球は相打ちとなり、互いが互いの威力を相殺していった。

「貴様ごときが俺に敵うと思うか!!!!……ん?奴はどこだ!!!!どこに消えた!!!?」

光球の輝きを目くらましにし、少女は姿を消した。

「さては、逃げたか!!!?」

否、その逆である。

「!!!!」

光と闇の隙間から少女は飛びかかり、銀色の刀身を振りかぶる。

「小癪な!!!!」

クラゲ頭は胴体前に、先程よりも大きな光球を生成し、少女に投擲。

「!」

彼女は、咄嗟に体勢を変えて回避するも、間に合わず直撃した――

シールド

かに見えた。

少女は瞬時に、壁状の物体を空中に生成、その身を守り地面に降り立つ。

お互い一切引くことのない、人知を超えた戦い。

そんな魔神達を、侠弐はただ見ていることしかできなかった。

(畜生、あんなのにどうやって割り込めっていうんだよ!!)

直ぐにでも少女に加勢したいのが、彼の本音であった。

が、彼女が相対している者が、彼が今まで対峙、封印してきた者達とは比べ物にならない強さを持っているのが、目に見えていた。

(俺はどうするべきなんだ、戦うべきか、それともここにいるべきか)

彼は思考し続ける。

(考えろ!考えろ!考えろ!考えろ!)

が、脳をフル回転させればさせるほど、ネガティブな考えが浮かび上がってくる。

(よく考えたら、あの少女は本当にリサなのか?間違いないと思ったが、その根拠はどこから?もし、リサじゃないとしたら、加勢するべきではないのでは?)

それらは、ある意味身体を死地に送り込まないための脳の働きかけとも言えるものであった。

戦いが終わるまで、この思考を続けていれば、彼は傷つかずにすむからだ。

そんな折、戦況に変化が起こった。

今まで拮抗していたバランスが崩れ、クラゲ頭の方が優勢になっていた。

原因は主に2点考えられる。

1点は、スタミナの差。

先程の戦闘からわかる通り、クラゲ頭は動きこそすれ、最初に降り立った地点から離れる事は一切なかった。

一方、少女は攻撃の回避動作が非常に多く、如何に俊敏といえど、体力を消耗する事は必然である。

もう1点は相性差。

少女が創出している物体は金属の類。

対し、クラゲ頭の光球は高熱を帯びた発光体。

融点や沸点といったものは現時点では不明であるが、大量の熱源を何度もくらっては、少女が不利になるのは目に見えていた。

「……」

相変わらず、少女の表情は冷静且つ冷徹にクラゲ頭を見据え、刀を構える。

が、その顔には僅かながら疲労が見え、肩がゆっくりと上下し、呼吸を整えている。

「はっ!!!!」

クラゲ頭が、掌から光球を放つ。

少女は咄嗟に回避するも、それはブラフであった。

「!」

避けた位置へと1直線に向かってくる本命。

(シールド)!」

すぐさま、防御壁を展開するが、光球の威力はそれを上回っていた。

「ぅあっ!」

直撃は防げるも、余波で身体は吹き飛び、地面に強く打ち付けられる。

素早く立ち上がる少女。

が、ダメージは彼女の想像以上のものであった。

「うっ!……」

ズキリと痛みが走る左腕は、袖が焦げ、血が滴っていた。

(あ、あれは!)

が、侠弍が注目したのはそこではなかった。

(あの左手首の腕輪は!)

彼は、左手首に目をやる。

大きさこそ多少違うが、紛れもない同型の腕輪。

瞬間、彼は確信し、後ろ向きな考えを振り払うかのように、両手で頬をバチンと挟む。

(あれはリサだ、間違いない!)

そうと決まれば行動あるのみ、と言わんばかりに、彼はポケットから素早く札を取り出す。

爬虫類擬きに使用した札の上位互換、貼り付け念じれば魔神級の相手でも封印する事のできる、強力な代物である。

「仕損じれば最悪、否確実に命はない」

侠弍の心に、死への恐怖が芽生え、広がっていく。

(えぇい、何を躊躇っている!俺はリサを救い、守るために今まで頑張って来たんだろ!?ここで動かず、いつ動くんだ!)

彼は自身を鼓舞し、視線を中心地点へ戻す。

「!」

状況は、クラゲ頭が完全に優位に立ち、少女は追い詰められていた。

衣服の所々は焼き焦げ、顔は無表情ながら疲労の色が濃く現れている。

それでも闘争心は失われておらず、刀を構え標的を見据える。

対するクラゲ頭も、優勢でこそあるが、光球の生成過多故か息切れを起こしていた。

「はぁ……はぁ……随分と手こずらせてくれたなぁ!!!!」

クラゲ頭は、右手を真っ直ぐ上に伸ばし、掌をかざす

「トドメだ!!!!」

瞬間、空中に先程までとは比べものにならない巨大な光球が出現した。

輝きを放つソレは、小さな太陽と形容しても過言ではない代物であった。

地面に着けば、辺りは焦土と化すは必至。

ソレが今、少女に向けられていた。

この距離では、防御しても回避しても間に合わない。

万事休すであった。

が、それは裏を返せば、少女に意識を集中してイレギュラーの発生を

「くらえぇ!!!!」

光球を衝突させようと左手を少女にかざそうとしたその時――

「封!」

クラゲ頭の背後から、声が響いた。

「何!?ぐああああ!!!?」

背中が急速に吸い込まれるかのような感覚に襲われるクラゲ頭。

否、感覚ではなく実際に吸い込まれているのだ。

まるでブラックホールのような途轍もない吸引力を持つ何かに。

「う、うおおおお!!!!」

それが自身の背後にあると知ったクラゲ頭は、空中の巨大光球を縮め自身の頭部程の大きさにし、左手を曲げて背中に態と衝突させた。

自身の衝撃と熱が背中に広がるが、同時に謎の吸引力も消え去った。

呼吸を整え、後ろを振り向くクラゲ頭。

そこには、焦りと恐れと闘志の入り混じった表情を浮かべた少年が立っていた。

「今のは、貴様か!!!?音もなく近づいたというのか!!?」

クラゲ頭の怒声に、思わず体が竦む侠弍。

自身の出来る最大限の攻撃が不発に終わり、尚且つ標的に気付かれる最悪の状況。

(まずいまずいまずいまずい……!)

思考回路が焦燥と恐怖で埋め尽くされかけるも、僅かに残った闘志を奮い立たせ、キッと目の前の魔神を睨み付ける。

「なんと脆弱な……よもや貴様のような者に不覚を取るとは……だが2度目はないと知れ!!!!」

クラゲ頭は左手を掲げ、光球を生成――

「ぐあっ!!!!」

しかけた瞬間、叫びを上げ地面に倒れ伏し、動かなくなった。

「な、何が……」

侠弍は困惑しつつ、クラゲ頭が立っていた場所に視線を戻す。

そこには、切先を地面に向け、死体を見下ろす少女が立っていた。

その目には一切の哀れみはなく、冷徹さだけがあった。

「……」

少女はゆっくりと頭を上げ、侠弍の方を見る。

「……」

「っ!」

自身を見る目の余りの冷たさに、侠弍は反射的に両手を上げてしまう。

袖が少し下がり、露出した左手首に嵌められた腕輪が、月明かりを受けてキラリと光る。

ソレが少女の視界に入った。

「……え?」

か細い声だった。

同時に、彼女の目から冷たさが消え、驚きと動揺が現れる。

魔神と相対しても、微塵も感情の入っていなかった彼女の目に、である。

瞬間、彼女は侠弐へ駆け寄り、彼の胸元に飛びつく。

「久しぶり、リサ」

無言で頷くリサ。

そんな彼女を、侠弐は優しく抱き留める。

「おや、錐ノ籠が発動したから急いで来たが、どうやらお邪魔だったようだね?」

侠弍達は、声のした方へ顔を向ける。

そこには、女性が1人立っていた。

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