第4話part3
一方その頃。
1人残されたオルテウスは増援を呼び、主に加勢しようとしていた。
「ヴァイアル様!今すぐ援護を」
「やっ、オルテウス」
「⁉テ、テンチュウ……」
オルテウスは、畏怖と驚きの混じった声で其の名を呟く。
「そうか、ルトアーで私の兵隊を全滅させたのはあなたでしたか」
「そだよー」
「良いでしょう。先ずはあなたから葬り去って差し上げましょう!」
オルテウスは、左上腕を水平に伸ばし、左下腕を垂直に伸ばす。
「出でよ、我が兵隊達!」
瞬間、暗闇から数千体の機械人形達が現れ、天誅に向ってくる。
彼女は垂直に空中へ飛び、其のまま浮遊する。
「それじゃ、少しだけ本気出しますか」
その言葉と同時に、天誅の身体が青白く発光し、何重にも分身しだした。
空中に浮かぶその数はゆうに100、否、1000を超えている。
「何をボヤボヤしているのです、撃ち落としなさい!」
オルテウスの命により、人形達は指先を伸ばし天誅達に向け、発射――
「させないよ」
する直前、天誅達は人形の背後に回り、其の中枢部に取り出した20数㎝程の長針を突き刺す。
機能停止し、倒れ伏し出来る人形の絨毯。
天誅は1人に戻ると、長針の先端をオルテウスに向ける。
「さぁどうするオルテウス、まだやる?」
「まだやる?当然でしょう!あなたはヴァイアル様にとって危険分子、それを排除するのが私の役目!」
「なら、天誅にとっての危険分子を排除するのは、俺の役目だな」
背後から聞こえる声に、オルテウスは思わず振り向く。
「ゼレイム!あなた何故ここ」
言い終えるのを待たずして、彼は向ってくる渦に飲み込まれ、消えていった。
「サンキュー、ゼレイム」
「礼なら、後の行動で示してくれ。 本当にあいつに報復とか及ばないんだろうな?」
「心配なーいよ」
軽い調子で言う天誅。
だが、その言葉には頼もしさがあった。
「其れに、ヴァイアル倒すの手伝ってくれたんだから、感謝するのは僕の方だよ」
「打倒ヴァイアルっていうのは、本気だったんだな」
「あぁ、奴は僕の目的の障壁だったからね。さて……」
天誅は、侠弐とリサの居る方向へ顔を向ける。
「後は彼らの頑張り次第だけど、多分大丈夫だろう」
其の曖昧な言葉とは裏腹に、彼女の表情は確信を得ていた。
「オノレ……ヨクモ……ヨクモ……」
怒気を多分に含みながら、ヴァイアルは正面を向く。
正面には、何百何千もの獣僕の死骸。
其の間に立つ3人と1体。
「さてヴァイアル、後はお前だけだぜ」
ガラゴが言う。
「ヨクモ、我ガ野望ノ邪魔ヲシテクレタナ!生キテハカエサンゾ!」
瞬間、ヴァイアルの精神破壊攻撃が侠弐達を襲う――
「……何ナノダ」
かに見えた。
「何ナノダ!ソノ膜ハ!」
「覚えがないかヴァイアル」
ガラゴが言う。
「蠱獄にいた期間の短さ故に誰も正体を知らなかったが、能力だけは知られた拾弐堕天の1柱……『遮動〈シャドウ〉』を!」
「遮動?……マサカ貴様ガ!」
ヴァイアルは驚愕する。
「遮動?」
リサが問い、
「叢雨君の蠱獄での呼び名さ」
渚が答える。
「侠弐が!?」
「そして其の能力は……」
侠弐は、人差し指と中指を合わせて立たせながら、言葉を紡ぐ。
「自身に仇なす力を遮る膜を張り巡らす」
「コウナレバ器ナドドウデモ良イ!貴様ラヲ排除シ、再ビ蠱獄ヲヤリ直サン!」
瞬間、ヴァイアルの前裂け目が現れ、中から黒紫の鎧が出現。
其れに憑依し、彼奴は両手に持った剣を振り上げる。
其の恐ろしい立ち姿にも、侠弐達は決して怯まない。
リサは鍔無し刀を、侠弐は印を結んだ片手と手槍を、それぞれ構える。
「行くよ、侠弐」
「あぁ」
リサの合図と同時に、侠弐は膜を展開。
ヴァイアルを飲み込み、自身のフィールドに引きずり込む。
「これで奴は能力が使えない!チャンスだ!」
侠弐の言葉と同時にリサは駆け出し、ヴァイアルに斬り込む。
ヴァイアルは両剣でもってガードし、跳ね返す。
次は彼奴の番。
剣をマンモスの牙のように構え、リサを刺し貫かんと突進する。
「壁〈バリア〉」
2者の間に、銀色の分厚い壁が出現、突進を阻む。
「小癪ナ!」
当然ながら、其れで怯むヴァイアルではない。
剣でもって壁を滅多切りにし、崩落する物体を払いのける。
が、向こう側にリサの姿はない。
「!?」
同時に、ヴァイアルは自身の背中から鳩尾にかけて、刀身が刺さっている事に気づく。
が、彼奴は動じることなく剣を逆さに握り直し、背後に突き立てる。
一瞬の静寂。
確かな手応えが、ヴァイアルに伝わる。
「終ワッタナ……⁉」
振り向くと其処には、深々と剣の刺さったリサの姿を模した銀の像があるのみ。
「!」
彼奴は次の瞬間、上から刀を振り上げ垂直に落下するリサに気づく。
すかさず、剣を上に振り上げるヴァイアル。
キィイイイイイイイイイイイイイイン!!!!
刃と刃がぶつかり合い、そして――
ズシャアアアアアアアアアアアア!!!!
ヴァイアルは縦真一文字に切り裂かれた。
リサは直ぐに彼奴から離れ、距離を取る。
「ウ……ウォオオオオ……」
ヴァイアルは、鎧の隙間から紫色の煙を発しながらリサ達の方を向く。
「キ、貴様ラ覚エテイロ……我ガ名ハヴァイアル……我々ハ『集』ニシテ『個』……『個』ニシテ『集』ナリ…ウォアアアア!!!!」
断末魔を発し、煙を出し尽くした鎧は、糸の切れたマリオネットのように力なく地面に崩れ落ちた。
「倒した……のか?」
「……あぁ、どこにもヴァイアルの姿はない」
ガラゴの言を聞き、一同は安堵の表情を浮かべる。
不思議と、歓声を上げたり飛び跳ねたりするような感情は起こらなかった。
が、其れでも彼らは、充足感に満ちていた。
やっと終わりを迎えたのだ、と。
中でも、リサは緊張状態から解放された事もあってか、その場に座り込んでしまった。
「大丈夫か、リサ⁉」
直ぐ様、駆け寄る侠弐。
「うん、平気……侠弐、私達ヴァイアル倒したの?もうあの苦しい思いしなくて良いの?」
「あぁ!!」
「……グス」
リサは、侠弐に抱きつくと、静かに泣き出した。
彼は、そんな彼女を優しく抱き留め、髪を撫でる。
「……」
解放を喜ぶ2人を、微笑ましく眺める渚とガラゴ。
「いやぁ、やっぱり愛する物同士の抱擁というのは良いものだねぇ」
其の背後から、声を掛ける者が1人。
渚達が振り向くと、黒ずくめの女――天誅がいた。
「天誅さん!」
「テンチュウ!お前何でここに!?」
「何でって、君らとほぼ同じ理由だよ」
「ほぼ……打倒ヴァイアルか」
「其の通り……ありゃ、そろそろ行かないと」
「もうですか?」
「うん、残念だけどね。オルテウスや他の堕天の動きが気になるから。あ、そうそう」
天誅は、ホッチキス止めされたA4サイズの書類を取り出し、渚に手渡す。
「これは?」
「リサちゃんに関する資料。彼に渡そうと思ったけどいらなさそうだし、渚ちゃん持っといてくれる?」
「え、えぇ、良いですよ」
「ありがと。あ、もう1つ。多分君たちだけだと帰れないだろうから、助っ人をと思ってね」
「助っ人?」
「彼」
「よっ」
「ゼレイム!」
渚達3人と1体はゼレイム達に別れを告げ、彼の作った渦を通り抜けて現世へと戻って来た。
時刻は既に、今日と明日の境目に差し掛かっていた。




