第4話part2
同時刻
「やっぱ……人質って……効果、あるねぇ」
渚は、リサの身体を乗っ取ったヴァイアルに、大苦戦を強いられていた。
其れも其の筈。
リサの類まれなる戦闘能力とヴァイアルの非情さが合わさったことによる容赦のない攻撃。
更に、リサの肉体及び精神はヴァイアルに人質にされているといっても過言ではない為、渚達は迂闊に強力な技を繰り出せないのである。
(こうなったら、『朔』で動きを封じて……!)
渚は、羽織のポケットから結界発動用の札を取り出そうとする。
が、其れを見逃すヴァイアルではなかった。
彼女の手がポケットに入った瞬間、其の手と胴体と反対の腕を取り囲むようにして銀色の鎖を出現させ、収縮。
腕の自由を奪い、札の発動も困難にさせてしまった。
「し、しまっ」
銀色の脚の追撃が、彼女の腹部に直撃する。
「がっ……!」
彼女の身体は数メートル吹っ飛び、地面に叩きつけられる。
其れには目もくれず、ヴァイアルは喜びに震えていた。
「凄イ……地面二足ヲ付ケラレル、直接敵二攻撃ヲ加エラレル……コレガ我ガ肉体、我ガ器!!」
「な、何が我が肉体、だ……ただ強引に乗っ取っただけじゃ……ないか」
息も絶え絶えな状態で、渚はフラフラと立ち上がる。
「直ぐに体を。嬢ちゃんに返すんだ。でなきゃ、もっと痛い目に、合うぜ」
「ハッ、こけおどしは見苦しいですよ!何ができるというのいうのです!絡みついた鎖を引きちぎれすらしないあなたに、何が!」
オルテウスの言う事も尤もであった。
ガラゴは渚の身体に入り、自身の力を与え超スピードや超怪力を発揮させていた。
が、如何に渚が肉体強化をしていようとも、彼女にかかる負荷は尋常ではない。
故に、鎖を解くのは簡単であるが、渚の腕が千切れてしまう危険もあるのだ。
更に敵のホームグラウンド、傷の修復などさせてくれるわけもない。
万事休すであった。
「……ガラゴ……我ハ貴様ノ肉体ヲ高ク買ッテイタ、故二刃向カッテコヨウトモ殺サヌヨウオルテウス達ニモ命ジテイタノダ……」
ヴァイアルは物体を操作し、巨大なドラゴンの頭を出現させる。
「ガ、ソレ以上ノ肉体ヲ手二入レタ以上、貴様ヲ生カス理由ハ消エ失セタ」
ドラゴンは口を大きく開きながら鎌首を上げ、
「サラバダ、ガラゴ」
渚達の方へ襲いかかかった。
「っ……!」
「……渚」
「何!?」
「……あの子と幸せにな」
瞬間、ガラゴは分離し、ドラゴンに向って突撃する。
「ヴオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「ガラゴ!」
本来の姿に戻り、ドラゴンの首を掴んで後方へと追いやりながら、ガラゴは暗闇へと消えていった。
「愚カナ、焦ッテ勝機ヲ見失ッタカ」
ヴァイアルは、掌に刀を現し、握る。
「コノ物体ハ無限、故二奴ノ行動二意味ハナイ」
「……意味なら、あるさ」
渚は言った。
「何故なら、勝機を失ったのはお前の方だからさ」
「リサちゃん、そんな奴に自分の身体を好き勝手にされてて良いのかい?」
「叢雨君と共に居たい、君はずっとそう思い続けていたんじゃないのか。其れを終わらせられても良いのかい?」
「フッ、何ヲ言ウ。コイツノ意識ハ既ニ……!?」
ヴァイアル、否リサの身体が硬直する。
「バ、馬鹿ナ……意識ハナイモ同然の筈……!」
「ないも同然、つまり完全には消え去っていないというわけだね」
「エェイ!小癪ナ真似ヲ!」
ヴァイアルは、体の主導権を再度奪い、刀を振り上げる。
が、渚の眼に諦めの2文字はない。
虚勢か、それとも――
「死ィネェエエエエ!!!!」
彼女の脳天に、刀が振り下ろされ――
「!?」
「間に合ったか」
る寸前、透明な膜のようなものが彼らを飲み込んだ。
「ウ、ウオオオオ!?」
同時に、リサの身体からヴァイアルが引きはがされ、後方に吹き飛ばされた。
「ヴァイアル様!」
オルテウスは主に駆け寄る。
一方、支配から解放されたリサは静かに前方へと倒れ行く。
そんな彼女を、優しく抱き留める者が1人。
「大丈夫か?リサ」
ゆっくりと目を覚ますリサ。
「……侠弐?」
「遅くなってすまない。立てるか?」
「うん」
リサは自身の力で立つ。
「あのね、侠弐」
「ん?」
「ヴァイアルに乗っ取られてる時に思った。私、自分の考えばかり先走って、侠弐の気持ち考え切れてなかったって……ごめん」
「……其れは俺もさ。お互い、相手の事を考えているようで自分の事を考えてしまっていたな」
「うん……」
「でも、自分の事を考える事自体は悪い事じゃない。だからさ、リサ」
「?」
「もう守るなんて言わない。その代わり、一緒に戦わせてくれないか?」
「!……」
リサは目を閉じ、そして開く。
「私も同じ事、言おうとしてた」
「そうか、なら次俺が言おうとしてる事も」
リサは頷く。
2人は互いの隣に立ち、ヴァイアルを見据える。
「……オノレオノレオノレオノレェエエエエ!!!!」
ヴァイアルの叫びと共に、空間に大量の裂け目が発生、夥しい数の獣僕達が姿を現す。
が、侠弐もリサも全く臆してはいない。
理由は1つ。
隣に立つ愛する人が、支えてくれると信じてるから。
「「アイツを倒して、一緒に帰ろう!!」」
2人は駆けて行った。
そんな彼らを眺める渚。
腕に巻かれた鎖は、ヴァイアルの分離と同時に消滅した。
「非常に、良いカップルだ」
「だな」
そして、いつの間にか戻ってきていたガラゴ。
「さっき叢雨君の気配に気づいてからのブラフ、良い時間稼ぎになったよ」
「名演技、だっただろ?」
「まぁね。にしても叢雨君、あんな能力を持っていたなんて知らなかったよ」
「あの力、ひょっとして……」
「何か知っているのか?ガラゴ」
「……いや、今は後回しだ」
そう言うと、ガラゴは正面に顔を向ける。
「……そうだな」
渚達も正面を向き、跋扈する獣僕の大軍を見据える。
「さ、ここからは私達も」
「あぁ、遠慮なく暴れさせてもらおうか」
2人は再度合わさり、侠弐達の後を追った。




