第3話part2
10数分前 繁華街
「はぁ……はぁ……」
侠弐は、ガラゴがリサを見つけた地点に向かって駆けていた。
「リサ、何処だ、リサ」
そして街の隅々まで、両眼を動かし見回した。
けれども、リサの姿を見つけることはできない。
「はぁ……はぁ……」
侠弍は息切れを起こし、立ち止まることを余儀なくされた。
「はぁ……はぁ……ん?」
彼はふと、左手首に視線を移した。
一瞬、腕輪の一点が輝いたように見えたからだ。
光の反射であろうか。
否、輝きは点滅していた。
「なんだ……これ」
点滅は勢いを増したかと思うと、一筋の光となり、南西の方角へと伸びていった。
まるで、何かを指し示すかのように。
周りを見回しても、光に気づくものは誰もいなかった。
「……」
侠弐は、光に従ってリサを探すことにした。
光の先に、彼女がいるとは限らない。
が、闇雲に探す現状よりかは、遥かに良かった。
「よーし……」
侠弐は勢いよく駆け出し、
「うわっ」
向こうから来た通行人とぶつかってしまった。
「す、すみません。怪我は」
直ぐに謝り、負傷していないか確認する。
「だ、大丈夫です。そちらは……」
「僕も平気です。それでは、失礼します」
「あぁ、ちょっと」
「はい?」
呼び止められ、咄嗟に立ち止まる侠弐。
「貴方、もしかして誰か探しているのではないですか?」
「ど、どうしてそれを」
「遠目から見ていてもわかるくらい、辺りを見回していたものですから」
「あぁ……」
そんなに自身の姿は目立っていたか、と侠弐は振り返る。
「貴方が探しているのは、ケープを着た銀髪の女の子、ではありませんか?」
その言葉に、彼の心臓がドクンと脈打つ。
間違いない、彼女だ。
侠弐は確信した。
「そうです!その子、どこへ行きました⁉」
「ここから1㎞程離れた場所を、苦しそうに歩いていましたよ」
「苦しそう?」
「えぇ、耳を塞いで、泣きそうになりながら」
「……!急がないと」
何が起きているのかは分からないが、彼女が苦しんでいる、この事実だけが侠弐を焦り急かし、動かした。
「ありがとうございます!それでは」
「あぁ、それからもう一つ」
「はい?」
次の瞬間、通行人の口調は、先程とはまるで違うものに変わった。
「君、以前蠱獄にいたこと、あるよね?」
「は?」
不意を突いて言われた、その言葉に侠弐は固まった。
渚以外に、その言葉を知る人間がいるとは、予想もしていなかったからだ。
「否、疑問形ではないな。君は以前、蠱獄にいた」
通行人は、侠弐を指差し彼に告げた。
「……貴方は一体」
「おっと、自己紹介がまだだったね」
黒マントが、風になびく。
「僕は鴉天誅。君たちでいうところの……肆天魔さ」
同時刻
「ここだ、ここで気配が途切れてる」
繁華街から更に南西に在る巨大な雑木林に、渚とガラゴは急行していた。
彼女らは、内心動揺していた。
「ガラゴの能力を使っても追えなくなった、という事は……彼女、蠱獄に」
「其の可能性が高いな」
「まずいな……」
渚は苦い顔をした。
蠱獄にいく方法は非常に限られているからだ。
「俺が今ある力を全開放すれば……」
「駄目。来るべき時に備えて温存しといてくれって言ったでしょ?」
「じゃどうする?このまま嬢ちゃんがどうなっても良いってのか?」
「そうは言ってないだろ? ……仕方ない。ガラゴ、頼む……!」
「!」
何者かの気配を感じ、渚とガラゴは瞬時に身構える。
「誰だい?隠れてないで、出てきたまえ」
渚は平静を装いながら、札を取り出して一点を見据える。
瞬間、其の一点に渦が出現、ゼレイムが姿を現した。
「よっ、昨日ぶりだな」
「ゼレイム、悪いが今取り込み中でな、後にしてくれ」
ガラゴが言う。
「銀髪のお嬢ちゃんの事で、だろ?」
「何、知ってるのか⁉」
「さっき来たぜ。蠱獄に」
「⁉急いで行かないと……ガラゴ、頼める?」
「任せとけ」
「否、其れには及ばない」
「何故だ?」
ガラゴが問い、
「俺が送ろう」
ゼレイムが答える。
「俺の力を使えば、蠱獄へ行く事が出来る。と言っても、精密性は保証できないがな」
「何故、私達の味方を?敵の筈じゃ……」
「俺は味方になったつもりはない。というか、そもそも敵になった覚えもない」
そう言って、ゼレイムは、両手を軽く挙げる。
「どういう事?」
渚が問う。
「話すと長くなるぜ?急いでるんだろ?」
「……ガラゴ、どうする?」
「……分かった。ゼレイム、頼む」
ガラゴの返事を聞き、ニッと笑うゼレイム。
彼は、先程通った渦を閉じ、また出現させる。
「さ、これで行けるぜ」
「すまん、感謝する」
「……ありがとう」
渚とガラゴは礼を言うと、渦の中へと駆けて行った。
1人残ったゼレイムは、2人が入ったのを確認して渦を閉じ、空を見上げる。
「これで良いんだな……テンチュウ……」
渦を通り抜けた渚達は、薄暗くだだっ広い空間に出た。
「ここが、蠱獄……」
「あぁ。だが、だいぶ様子が違うな。恐らく、誰かが蠱獄内に作った擬似空間か……」
「どうした?」
「……出迎えだ」
「数は?」
「400」
「種類は?」
「人形〈ヒューマノイドタイプ〉」
「得物は?」
「無い……が、指先に妙な穴が空いてるな」
「飛び道具か……」
「だろうな……」
大勢の規則的な足音が、渚達の方へと向かって来る。
それから間も無く、音の主達が姿を現した。
「昨日の機械人形か……」
「それも、今日は団体だ」
人形達は、皆一様に両腕を水平に前へと伸ばし、指先を渚達に向ける。
「ガラゴ」
「あぁ、任せろ」
ガラゴは渚の背に回ると、羽織の中に溶け込むようにして入っていく。
瞬間、指先の穴から火が吹き、無数の弾丸が発射される。
同時に、渚も人形達に向って、猛スピードで駆け出して行った。
果たして、弾丸は渚に当たるもキンキンと音を立てて弾かれる。
彼女は瞬く間に距離を詰め、人形達の中に突入。
そして、恐るべき超スピードと超怪力で敵集団を、殴り、蹴り、握り潰し、投げ飛ばし、スクラップの絨毯を作り上げた。
その間、僅か20秒弱。
「ふぅ、一丁上がり」
「俺の力の扱い方、上手くなってるじゃないか」
「まぁね。さ、急ごうか」
人形達が来た方向へ走る事、10数秒。
そして遂に、
「!リサ君!」
力なく地面に座り込む捜索兼救出対象を発見した。
すぐさま、駆け寄ろうとする渚。
「邪魔はさせませんよ」
が、その間に長身の男が割って入る。
「誰だ?」
「私の名はオルテウス。ヴァイアル様の忠実なる下僕にございます」
「オルテウス……拾弐堕天か」
「おや、私の事をご存じでしたか」
「あぁ、俺が教えたからな」
渚の中から、ガラゴが言葉を発す。
其の途端、オルテウスの顔が憎悪に歪む。
「その声はガラゴ⁉ヴァイアル様を裏切った愚か者が、よくも私の前に姿を現せたものですねぇ!!!!」
「俺だって出したくて出した訳じゃない。お前らに攫われた其処の嬢ちゃんを取り返しにきんだよ」
「嬢ちゃん?あぁ、彼女の事ですか。フッ、フフフフッ」
「何が可笑しい」
ガラゴが問う。
「一足遅かったですね。儀式はつい先程完了しましたよ」
その言葉と同時に、リサはゆっくりと立ち上がる。
オルテウスはその傍に近づき、声をかけた。
「ヴァイアル様、御気分は如何ですか?」
「「⁉」」
「非常二……非常二良イ、気分ダ」
リサの口から、低く冷たい機械のような声が発せられた。




