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愛しき人はコドクより蘇り  作者: 五槍暴君
第1部『ヴァイアル編』
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第3話part1

得物を握り壁に寄りかかりながら、リサは夢を見ていた。

否、夢というより、思い出していた、といった方が合っているかもしれない。

蠱獄での、いつ終わるとも知れぬ凄惨苛烈な日々。

耳を通り越し、心に直接刻み込んで来るように聞こえて来る、恐ろしい声。

其の声に、彼女は何度精神が破壊されそうになったか。

が、其れでも自身を保っていられたのは、侠弐の存在があったからだ。

彼に再び会いたい。

その1点が、彼女が彼女を繋ぎ止められた唯一の理由である。

が、彼と再開してからは其れが懸念材料の側面も併せ持つようになってしまった。

彼は、自身を守りたいと言って、強さを誇示したり無茶をして自身の援護をしようとしたりした。

が、彼女にとって其れ等は無謀且つ無鉄砲な行為に見えた。

(私が今まで頑張ってこられたのは侠弐がいたからなのに、どうして危険な事をしようとするの? どうして無茶して……どうしてどうしてどうして……)

彼女の問いは数を増やし、思考の空間を埋め尽くして行く。

「殺セ……」

「!?」

リサは目を見開くと素早く戦闘体制を取り、部屋を見回す。

敵の姿はない。

「殺セ……殺セ……死ニタクナケレバ殺セ……」

が、声は未だ彼女の内に木霊している。

彼女は焦りの表情を見せた。

あの声だった。

蠱獄において彼女を苦しみ蝕んで来た、あの声。

現世に帰ってこられてからは聞こえる事のなかった、あの声。

彼女を何度も破滅へと誘って来た、あの声。

「どうして、また聞こえて……」

「殺セ……殺セ……」

「うっ!」

リサは堪らず耳を塞ぐ。

「……着けないと……決着」

彼女は侠弐の寝姿を見た後、意を決した顔をして部屋を出て行った。


数時間後。

「リサ君がいなくなった?」

「はい、部屋のどこにもいなくて……どうしよう、昨日の事未だ謝れてないのに……」

「一先ず部室に来てくれ。其処で対策を練ろう」

其れから10数分後。

息せききりながら、部室の扉を開けた侠弐の顔は、焦りに満ちていた。

「早かったね叢雨君。まぁ、それも当然か。今、ガラゴに頼んで探してもらっている所だ」

そう言って渚が目を向けた先には、羽を羽ばたかせて空中に留まるガラゴがいた。

「……見つけた!」

「場所は、場所は何処ですか!?」

侠弐が問う。

「駅前通の繁華街だ。時速2.3kmの速さで西に移動中……」

「いってきます!」

「あ、おい叢雨! ……行っちまいやがった」

「恋人が危機に陥っているかもしれない状況で、落ち着いてはいられないだろうからね」

渚はそう言うと、先程かけた羽織をハンガーから外し、袖を通す。

「私達も行こう。ガラゴ、案内頼むよ」

「了解」

ガラゴの先導に従い、渚は部室を後にした。


「はぁ……はぁ……」

リサは1人、街の中を彷徨っていた。

行く先は彼女自身にも分からない。

ただ、何かに誘き寄せられるようにして、歩いていた。

「殺セ……殺セ……」

リサの脳内には今も、禍々しい邪悪な声が響き渡る。

耳を塞げど、その声が小さくなることはない。

たまらず路面にうずくまるリサ。

「あの、大丈夫ですか?」

見かねた通行人が手を差し伸べてきた。

が、その手を払いのけ、彼女は警告する。

「ち……近寄るな……」

「ひっ!」

端から見れば、非常に無礼な態度ではあったが、今のリサに他者の心配を気にする余裕などなかった。

彼女は耳を塞ぎながら立ち上がり、またよろよろと歩き始めた。


そんな彼女を、ビルの屋上から見下ろす者が1人。

「……これは少々まずいな……」

其の者はマントを翻すと同時に消え去った。


リサは尚も歩き続けた。

歩き歩き歩き、歩き続けた。

そして――ふと、下に向いた顔を前へと向けた。

「ここは……」

其処には、暗くだだっ広い空間があった。

彼女が昨日、連れてこられた空間と酷似している。

が、斜め前方にぼんやりと天井らしきものが在るのが分ることから、どうやら違うらしい。

「殺セ……殺セ……殺セ!」

「うっ、うぅ……」

段々と威力が高まっていく破滅の誘いに、リサの理性は限界に近づいていた。

其の時であった。

「大したものですねぇ、ここまでヴァイアル様の御言葉に逆らう事ができるとは……」

呆れ混じりの称賛が、足音と共に前方の暗闇から聞こえてきた。

数秒後、声の主は姿を見せた。

ゼレイムとはまた違った種類の笑みを浮かべる長身の男。

リサは、彼が見方でない事を一瞬で見抜き、刀を出現させ構える。

「おやおや、挨拶もせず行き成り戦闘態勢ですか、物騒ですねぇ。仕方ありません、私の方から名乗りましょうか」

男は、慇懃な口調でそう言う。

「私の名はオルテウス。ヴァイアル様の忠実な下僕にございます」

「ヴァイ……アル……」

リサは一昨日のレクチャーを思い出した。

自分達を蠱獄に攫い、殺し合わせた張本人。

侠弐と離れ離れにさせた憎き元凶。

そして今も尚、自身を苦しめている敵。

其の配下とあらば、容赦はしない。

リサは、オルテウスへ切っ先を向ける。

「私は決着をつけに来た。お前を倒し、ヴァイアルを倒し、残った獣僕全部倒して、もう侠弐が戦わなくても良いようにするために」

「ヴァイアル様を、倒す?ハッ、何と身の程知らずな事を!逆ですよ逆、あなたはヴァイアル様の依代となる為に、ここへ連れてこられたのですよ!」

「依代?一体何の……!?」

突如、背後に恐ろしい気配を感じ、リサは振り向く。

其処には、紫色のオーラを放つ半透明のフード付きローブが、人の形をとって浮かんでいた。

(前の奴は、囮……!)

リサは思わず、後ずさった。

後退は不利につながる確率が高い事を、彼女はよく知っていた。

其れでも、後ずさってしまった。

「はぁ……はぁ……」

彼女の呼吸が乱れ、体が震えだす。

「さぁ、ヴァイアル様!本懐を!」

オルテウスの促しと同時に、ヴァイアルはリサに覆いかぶさるようにして、彼女の身体に入っていく。

瞬間、

「!?か……はぁ……!?」

彼女の精神を、理性を、圧倒的にして絶対的な恐怖と戦闘欲求が飲み込んでいく。

其の強さに比べれば、彼女が蠱獄で散々浴びてきた精神干渉能力など子供だましであった。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!!!」

自身が自身で無くなっていく、別の何かが自身を塗りつぶしていく感触に、必死に抗うリサ。

が、其れも無意味であった。

自身の意識が急速に薄れてゆく最中、リサは想い人の事を思い出していた。

(侠弐……! 侠弐……!)

名前を呼び、力なく手を伸ばすリサ。

(侠弐……! 侠弐……! 侠)

そして、彼女の精神は、完全にヴァイアルに飲み込まれた。

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