幕間
ルトアー国北東部、国立第4科学研究所。
稼働を停止した筈の研究所内で、コツ……コツ……と足音を鳴らす、人影が1つ。
人影は、女の姿をしていた。
身長170cm前後の華奢な体躯。
黒スーツの上から黒マントを纏い、学帽型の黒い帽子を被った出で立ち。
端正な顔つきでありながら、どこか狂気さを孕んだ表情。
彼女は、内部を一通り歩き回ると、最奥部へと歩幅を進めた。
中央にゲートが備え付けられていたであろう入り口をくぐり抜け、中へ。
砂嵐も映らなくなったモニター群。
床には、散乱した研究資料の数々。
そして、中心部に残る巨大な爆発痕。
「……」
彼女は、爆発痕を眺めた後、視線を床の研究資料に移し、何枚かを拾い読み始めた。
視線をスライドし、1枚また1枚と読み進めていく。
そして、
「!」
ある文言が目に入った。
ホッチキス止めされたその資料には、こう書かれていた。
『未知金属ディアス10及び、その創造主たる少女型生命体に関する研究。その進展について』
「見―つけた」
彼女は、指をパチンと鳴らす。
瞬間、自身の顔が明るく照らされる。
「誰だ!そこで何をしている!」
明かりの正体は、警備員の持っている懐中電灯のものであった。
彼は足早に、彼女の方へ向かう。
彼女は資料をしまい、両手を軽く上げ、ガタイのいい警備員に向き直る。
「いやー、すみません。実は僕、ここに忘れ物をしてしまいまして、取りに来たんですよー」
「十数年も前に稼働停止したところへか?それにその服装……怪しすぎる」
案の定、警備員は疑いの目を向けてきた。
「ははは……えーと」
まぁ仕方ないか、と思う彼女。
その時だった。
「危ない!」
「うおっ!」
彼女は咄嗟に警備員を押し倒し、自身も折り重なるように倒れる。
瞬間、頭上を銃弾の雨が掠れ、奥の設備が撃ち砕かれる。
「な、なんだぁ!?」
動揺し、体を起こそうとする警備員。
「まだ伏せてて」
それを片手で押さえ込みながら、立ち上がる彼女。
その視線の先にある入り口付近に、大勢の機械人形の姿があった。
皆一様に、穴の開いた10指の先を彼女に向ける。
そして、穴から火が噴き、数多の弾丸が標的に突撃して行く。
巨大な炸裂音が部屋の壁にぶつかり、四方八方に木霊する。
どれくらい時間が経っただろうか。
音が止み、静けさが段々と戻って行く。
が、警備員は恐怖のあまり耳を塞ぎ、其の事に気付かないでいた。
そんな彼の肩がポンポンと叩かれる。
「!」
「もう終わったよ」
彼女であった。
「お、終わったって……」
「ほら」
彼女が指差す先を警備員は恐る恐る見る。
「!?」
其処には、積み重なるようにして床に倒れ伏した機械人形達の姿があった。
「こ、これ、あんたが……?」
「そだよー」
戯けた様子で答える彼女。
「信じられない……」
警備員は、驚いた表情で彼女を見つめる。
「しかし、オルテウスの兵隊がこんな所にいたなんて……」
彼女は小声で呟く。
「へ?オル?」
「いや、こっちの話。あ、そうだ、これ貰っていって良い?」
「何だ、其の書類?」
「知らないの?」
「俺は日替わりで此処を警備している内の1人だ。残存物にはなるべく触るなと言われてるから、何も知らん」
「そう……」
「というかあんた、俺がいなくても持ってく気だっただろう」
「御名答、と言いたいところだけど半分不正解だね」
「内訳は?」
「持ってく気だったのは正解。けど、この紙自体はいらない。情報さえ手に入れば良いからね」
そう言って、彼女は人差し指を立て、こめかみに当てる。
「それじゃ、僕はこれで」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
警備員が呼び止める。
「1つ聞いておきたいんだが……あんた、何者なんだ?」
「僕かい?」
彼女は振り返ると、人差し指を立て、口元に持って行った。
「……なーいしょ」
どこかの都市の、どこかの高層ビル。
その屋上に、彼女はいた。
「さて、後はこの資料を届けるだけだね」
そう言って、懐をポンと軽く叩く。
「渚ちゃんとガラゴ、元気にしてるかな」
彼女は目を閉じ、両手を広げ、風と喧騒をその身に浴びた。




