第0話
少年は、力や強さと無縁の日々を送りたかった。
何かを得ようとするのに力を欲すれば、必ず争いが起こる。
ならば、何かを欲しようとしなければよい。
そう考えていたからだ。
ボロ小屋で想い人と平穏に戯れる、この慎ましくも幸せな日々。
それさえあれば、何も求めなかった。
が、少年はまだ気づいていなかった。
その現状の幸せを維持することにも、一定以上の強さが必要であることに。
「ぅあっ!!」
投げ飛ばされ、うつ伏せに地面に倒れされる少年。
「全く末恐ろしいガキだ!生身で俺達相手にやり合うなんてよ!」
彼の視線の先には、特殊部隊のような恰好の大人達。
「もう構うな。目的物は入手した。撤退だ」
そして、彼らに担がれ連れていかれようとするリサ。
「待……て……」
力なく右手を伸ばすも、届くことはない。
不意に大人の1人が立ち止まり、少年の方へ歩いてきた。
「こういうのは、後々厄介になるからな」
そして、彼の額に銃口が向けられた。
(ああそうか、口封じかよ)
不思議と、少年は恐怖心を抱くことはなかった。
現実離れした状況を脳が正しく認識できていない、からであろうか。
代わりにあったのは、途方もない無力感であった。
この危機的状況を脱する力も、想い人を助け出す力も、その方法を思考する力すら、彼は持ち合わせていなかった。
(畜生、畜生畜生……力が、力さえあれば……)
少年の眼から流れた涙が頬を伝い、左手首に嵌まった銀色の腕輪に零れ落ちる。
瞬間、世界は闇に包まれた。




