表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 厨二んぐ
1/2

悪夢の胎動

隣国との戦争に敗北し、この国の王家と貴族は2日後に処刑される。

兄のテオフラトゥス・フォン・ホーエンハイムをはじめ、

貴族家当主はすでに拘束されていた。


戦争中、国外にいたホーエンハイム家次男のボンバストゥスは、

禁域「ヘルメスの門」へ向かっていた。

理由は一つ。ハイヤーン家とフラメル家に保管されている禁書「大いなる業」(マグヌム・オプス)

そこに記された奥義、赤化(ルベド)へと至るためだ。


歴史上、錬術(れんじゅつ)をルベドまで成功させた者はいない。だが、好奇心や"史上初の称号"の誘惑につられ、ルベドを求める愚か者が後を絶たないから、マグヌム・オプスは禁書に指定されている。自分の体を素材として、錬術の全工程を100%の精度で行うなど、錬術を学ばずとも、誰でも馬鹿げているとわかる。優れた錬術師ほど、ルベドなど絵空事だと笑い飛ばすものだ。でも、僕はマグヌム・オプスを読んだ瞬間に気づいた。この国の禁域「ヘルメスの門」を使えば、ルベドに手が届くと。

そして、この国を救うためには、もうこれしか方法がない。




ヘルメスの荒野。

広大な荒野の真ん中にもかかわらず、昼間でも暗く、夏でもうすら寒い。

生物の気配はなく、シンと静まり返っている。まるで音ですら、

大地に開いた巨大な穴へ飲み込まれているかのようだ。

その異様な威圧感と、自分がやろうとしていることへの恐怖で、

心臓の鼓動が早くなる。落ち着け……。目を閉じ、深呼吸をする。

目を開き、ふと足元に視線を移すと、錬術の術式があちこちに刻まれている。

少し先の地面には、人骨らしきものが散乱していた。


自分と似たようなことを考えた奴がいたんだな。

皮肉めいた笑いがこみ上げてくる。

笑いの後はため息が出そうになったが、気を取り直してヘルメスの門へ近づく。

十数歩近づいただけで、全身の肌がピリピリと痛み出し、

目を痛みで開けていられなくなった。

なるほど、昔の人が恐れるわけだ。いや、今もか。

少し戻り、片膝をつき、地面に手をあてる。

刻まれた先人の規則破りの痕跡を消して、新しい規則破りの印を刻む。

「国が無くなるってのに、規則も何もないよな」

独り言を言いながら、術式を完成させる。東の空に日が昇るころ、

刻み終わった術式の上に乗り、深呼吸をした。吐く息が震えている。


「OK……よし……いける……」


手も震えてきた。やめようかな? 明日にしようかな?

…いや、ここまでやったんだ。


「……やるんだ……っ!」


言葉と共に術式が光を放ち、体はヘルメスの門上空へと弾き出された。

よし、座標は完璧だ。このまま落下してヘルメスの門へ……!

風でシャツがめくれ上がり、落下するにつれ全身に刻まれた錬術式が光を帯び始める。


「あああっ! いってぇえ!」


視界が真っ赤に砕けていく。やがて何も見えなくなる。

あるのは激痛と血の匂い、血の味、自分の叫び声。

それもだんだんと激痛のみに変わっていく。

そして痛みすら感じなくなった時、ふと考えた。

最期に聞いたのは風の音? 断末魔? どっちだっけ?――






――カチカチと音がする。




目を覚ます。



視界がぐらりと天井を見上げ、暗闇に還る。




カチカチと音がする。


目を開く。

視界がぐるりと机を映すと、また暗闇へ。


そんなことを何度も繰り返していた。

断片的な、見知った部屋の光景を、

ただ上から下へと、ぼたりぼたりと見つめていた――




――目を覚ます。

私は産声を上げた。ただ小さく、呻くように。

薄暗い部屋の、淡く光る円陣の中心で、

どろどろと崩れては不完全に形を成すことを繰り返している。

見慣れた机があった。何度も読んだ本があった。

時計のような小さな木箱がカチカチと音を立てている。

使い古したフラスコや錬術道具もある。


だがこの目に映る、何もかもが違って見えた。

熟知しているものを初めて知るような、得体のしれない感覚。

ここはどこだ?いや、知っている。私は誰だ?私は私。

不安定な視点に映る円陣は輝きを増している。そしてその意味を私は知っている。

なぜだ?世界の外側。内側の世界。見てきたはずだ。

巡り、忘れ、忘れたことを知っている。魂、肉体、歪な檻、

ああ、全て知っている。解らないことだらけだ。音を聞いた、世界を聴いた、

私もその内の一つであることなどとうに忘れた そうだここはあわいの内側にあるのだ。いや違うここは外側にあるこの光は赤い紅いまばゆいひかりとぜん身を刺すような痛みが いたい げきつうがわたしをいたい痛い熱いいたいおそういたい 赤い さむい 求める わたしがこんなもの あかい のぞんああ だだわけがなあれ あ つい はいたい いまこそ あかいるべど え るべど これああこれこあたすけそ やめ あつい ていあいたいいた るべどえといい たすけてたいた あかい あつい れえ るべど えいたいい さむい まっかな えれれ ひかり いあいたいいた るべと ああわわ あつい ああわいしわたいし あかい わいたいしあなまあえうぃあ るべど えしえあいあわたわなあがあまえかた るべど べどへといたるるわたたたしはぱぱぱららけるるすすすすすす






――カチカチと音がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ