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舞台の袖で、私は見ていた

作者: ごはん
掲載日:2025/08/01

その劇場は、扉を開けるたびに姿を変える。

 誰かの声が響いていたり、誰もいない客席に光が差していたり。

 そこは、私の中にある小さな劇場だった。


 ある日、その舞台に、五人の“私”が立っていた。



 舞台中央に立つのは、身体の私。

 静かに呼吸し、鼓動を打ち、今この瞬間だけを生きている。

 その存在は透明で、けれど確かだった。


 その隣では、思考の私が椅子に座り、ノートを開いていた。

 問いを重ね、言葉を探し、時に答えを持たないまま黙り込む。

 けれど、その沈黙には静かな熱があった。


 舞台の奥から、記憶の私がゆっくりと現れる。

 懐かしさと痛みを抱きながら、

 遠い過去の景色に足を止め、影の中に自分の姿を重ねていた。



 やがて、観客席の方から足音がして、感情の私が走りこんできた。

 その姿は揺れていて、誰かに近づくたびに震えたり、

 笑ったり、言葉にならない声をあげたりしていた。


 そのすぐ後ろに、他者の目を意識する私が舞台へ上がる。

 姿勢を正し、誰かの期待に応えようと笑みを浮かべてみせる。

 けれどその表情の奥には、見えない緊張が宿っていた。



 舞台の袖から、それを私は見ていた。


 「どれが本当の私なんだろう」と思ったこともある。

 けれど今は、静かに思う。


 私は、これらすべての“私”の舞台を用意する存在。


 身体も、思考も、記憶も、感情も、他者の目を気にする自分も。

 どれもが、私の中で生きている。

 どの“私”も、否定することなく、そこにいていい。


 舞台の灯りが少しずつ落ちていく。

 誰も台詞を話さなくても、その沈黙の中に確かな意味があった。


 そして私は、そっと深呼吸をした。


 ――この舞台に、また明日も光が灯るだろう。

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