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008-名前も、誕生日も、顔さえも——同じ彼女

松田壮磨は、いつも通り私を警察署の前まで送ってくれた。

タクシーを待っている間、彼が先に口を開いた。ちょっと気の抜けたような口調だった。

「最近、仕事には行ってないのか?なんか、呼べばすぐ来るって感じだよな。」

私は小さく頷いた。

「今、荷物をまとめてるところ。東京に戻る準備してて。」

その言葉に、松田は少し驚いた様子だった。

「急にどうしたんだ?ここに根を下ろすつもりかと思ってたけど……。実家で何かあったのか?」

私は一瞬、言葉を選んだ。

「歳も歳だし、親も早く落ち着いてほしいって言うの。それに、親ももう年だから、そばにいてあげたくて。」

松田は私の全身をじっと見つめ、口元にうっすら笑みを浮かべた。

「ふーん……その落ち着いた感じ、三年間で何度も飲酒運転で捕まった人とは思えないな。まさか、こんなに親孝行だったとは。」

飲酒運転の話を持ち出されて、私は少し気まずくなった。

「うん、あの頃は……ほんとにバカだった。最近は、もう何ヶ月も何もやらかしてないし。いつまでもその話しないでよ。」

そう言いながらも、私は平然を装った。もう慣れたやり取りだ。

私が話を逸らそうとしてるのを察したのか、松田はそれ以上突っ込まず、話題を変えた。

「そういえばさ、お前と坂本美絵、同姓同名だけじゃなくて、生年月日まで一緒なんだってな。」

すぐ隣にいた北島潤きたじま じゅんが、驚いたように割り込んできた。

「そんなことある?もしかして、双子とかだったりして?」

「たしかに顔も、なんか似てるよな。」

北島の目がじっと私を探るように見てきて、松田も考え込むような表情を見せる。私は思わず目を逸らした。

――その時、ちょうどタクシーが来た。

「じゃ、また。」

私はそう言って、逃げるように車に乗り込んだ。

窓の外、流れていく景色を眺めながら、私はぼんやりと思考を巡らせていた。

……松田の様子からして、彼はまだ坂本美絵の事件について決定的な情報を掴んでいないようだった。

今は、法医学者や坂本の両親からの情報を手がかりに、少しずつパズルのピースを集めている段階。

でも、私は知っている。

あの人は、もうある程度の推測を持っているはずだってことを。

だって、彼の周りには“ミーツ”バーの裏事情に詳しい人間が何人もいる。私が出向かなくても、いくらでも調べられる。

――つまり、私の反応を見てたんだ。

胸の奥が冷たくなった。

隠し通せると思っていた秘密。もう過去のことだと割り切っていたはずのあの出来事が、少しずつ、でも確実に暴かれようとしている。

そして、その真実をつまみ上げようとしているのが……松田壮磨。

家に戻ると、私はすぐに森太郎もり たろうに電話をかけた。今の私にとって、唯一の味方だ。

電話が繋がるや否や、私は不安を隠すことなく、心の底からの恐怖をぶちまけた。

「どうしよう、森太郎……あの人、絶対に気づいてる……!」

森太郎は落ち着いた声で私をなだめ続けた。

「大丈夫、美絵。まだ確証はない。ただの憶測だよ。俺たちの計画は完璧だ。」

「例のアレだって、彼女が自分で買ったものだし。酒も自分で飲んだ。死因は完全に偶然。俺たちとは無関係だ。」

「今、一番気をつけるべきは……七年前の“近藤 結”の件がバレないか、そこだけだ。」

その声を聞いているうちに、私はだんだんと冷静さを取り戻していった。

「……わかった。じゃあ、必要なものをまとめておく。東京に戻ろう。」

「今日の夜、出るぞ。」

「え、今?もう三時半だよ。そんな急に……。」

「今夜だ。」

森太郎の声には、いつになく強い決意がにじんでいた。

「五時間後にフライトがある。あと三時間で荷物をまとめろ。俺が迎えに行く。」


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