007-ミーツの影
会議室を出ると、松田壮磨はすぐにあの若い警官を呼び寄せ、低い声で指示を出した。
「坂本美絵の通話履歴と銀行の入出金記録をすぐに調べろ。手早く動け。」
傍らに立つ北島润は小声で呟いた。
「あの両親は何なんだ?まるで吸血鬼みたいだ。子供の病気のことは何も知らず、金が振り込まれてないことだけはしっかり覚えている。」
松田壮磨の顔は険しくなった。
「坂本美絵が本当に病気だったかはまだ確認が必要だが、あの両親は……確かに……」
「クズだ!」私は彼らのそばで怒りを抑えきれずに叫んだ。
北島润は振り返って、私に向かって親指を立てて笑った。
「姐さん、けっこう強いな。松田隊長の前で堂々と言うなんて。」
「俺に言ってるんじゃない、あの夫婦に言ってるんだ!」私はまだ怒りが収まらず言った。
「どうしてこんな親がいるんだ?子供が死んで死因が不明なのに、真実を追求するんじゃなくて、金のことばかり考えている!」
「彼らは親としての資格すらない!」
感情が高ぶりすぎて冷静になった時、松田壮磨と北島润が意味深な視線で私を見ているのに気づいた。
慌てて謝った。
「すみません、感情的になってしまいました。」
松田は首を振った。
「構わないよ。それじゃあ、『ミーツ(Meet)』の話をしようか。」
取り調べ室に座って、私はぼんやりとした気分だった。まるで一日が隔てられたかのように。
「緊張するな、今回は容疑者じゃない。」松田は私の様子を見て、落ち着かせようとした。
「参考人として、『ミーツ』バーについて少し話を聞きたいんだ。」
私は頷き、深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
「私は『ミーツ』の常連です。三年前の開店当初から通っています。会員制の高級バーで、入退店の際に身分登録があるから、調べるのは難しくないはずです。」
「そこで坂本美絵を見かけたことは?」
私は頷いた。
「ええ、見ました。『ミーツ』のVIPルームは通常専任スタッフが担当していて、三、四ヶ月前に担当が彼女に変わりました。それからよく会うようになりました。」
「彼女に変わった様子はありましたか?」
私は首を振った。
「正直なところ、特に気にしませんでした。彼女は規則通りに働いていて、注文と会計以外で特別な接触はありませんでした。」
「最後に彼女を見たのはいつですか?」
思い出して答えた。
「たぶん一週間前です。最後に自分で飲みに行った時です。店の利用記録もあるはずです。」
「その時、何かおかしいと思いましたか?」
再び首を振った。
「まったく普通で、注文も会計もいつも通りでした。」
私の話が物足りなかったのか、松田壮磨はしばらく黙っていた。
「『ミーツ』には黒い取引のようなものはありますか?」
「黒い取引?」私は一瞬戸惑った。
「それは聞いたことがありません。」
彼は私からこれ以上情報が得られないと悟ったように頷き、
「今日は遠くからお疲れ様。」と言った。