006-無慈悲な算盤
会議室に入ると、坂本美絵さんのご両親と対面した。
祖父母くらいの年齢に見える、老夫婦だった。
夫は背を丸め、警戒心の強い眼差し。
妻は顔色が青ざめ、虚ろな表情をしている。
長年待ち望んだ娘の死か、あるいは失った悲しみで一夜にして白髪になったのか――
どちらにしても、彼らの前に立つ私は、自然と深い哀れみを感じずにはいられなかった。
私は深く一礼した。
「はじめまして……私は坂本美絵さんの納棺師です。先週、彼女の遺体を整えました。私のこれまでの経験から申し上げますと、彼女の表情はとても穏やかで、苦しまずにこの世を去ったことを確信しています……そのことを、ぜひお伝えしたいと……」
言葉が途中で途切れ、手首を強く引かれた。
振り向くと、松田壮磨だった。
いつもよりさらに陰鬱な顔つきで、低い声を張り上げる。
「お前は何をしている?家族を刺激するために会わせたのか?」
私は一瞬言葉に詰まった。
「刺激?いや……ただ、彼女が安らかに逝ったと伝えただけです。
それは……家族にとって、一番の慰めになるはずでは?」
彼は私をじっと見つめ、言葉を返さない。
私は声を抑え、必死に説明した。
「私たちの仕事では、最後のお別れの際、いつもこう伝えます。
嘘ではありませんし、慰めのためでもありません。ただの事実です。
もし誤解を招くのなら、すぐに謝罪します。」
松田が答える前に、私はそのまま会議室に戻った。
先ほどの言葉を、ご両親に繰り返すために。
老夫婦は無言で頷くばかりだった。
そして、会議が始まった。
私は隅に座り、松田壮磨と北島润が事細かに事件の経緯を説明していくのを聞いた。
「……こちらが体内から検出された主な薬物成分です。」
北島は資料をめくりながら、色分けされたラベルを指差した。
「これは重度のうつ病に使われる抗うつ薬です。」
「こちらはパーキンソン病のドーパミン調整薬。」
「そして、こちらは依存性の高い処方覚醒剤です。」
「医学的に判断すると、坂本美絵さんの死因は、この覚醒剤の過剰摂取によるものと考えられます。」
母親の顔は戸惑いでいっぱいで、父親は眉間に深いしわを寄せた。
松田は続ける。
「彼女の過去三年間の健康保険記録と処方薬購入履歴を調べましたが、うつ病やパーキンソンの診断は一切ありません。
だから、彼女がそのような病気の話をしたことがあるか、あるいは最近変わった様子はありませんでしたか?」
両親は互いに顔を見合わせ、ゆっくりと首を横に振った。
「私たちはずっと新潟の実家にいます。」
父親が言った。
「彼女も長い間帰ってきていませんし……病気の話は聞いたことがありません。」
「ただ、変わったことといえば……彼女はここ数ヶ月、家に送金していません。」
彼は眉をひそめ、思い出すように話す。
「以前は毎月何万円か送ってきていたのに、この二ヶ月は一銭もなし。弟の学費もまだ払っていない。」
突然、父親が顔を上げた。
「警察の方、うちの美絵みたいな場合、もし亡くなったら、口座の預金は家族が相続できますか?
彼女はもう十年近く働いていたから、貯金もかなりあるはずで……百万くらいはあるんじゃないかと。」
妻も慌てて頷いた。
「ええ、ええ。美絵は普段節約していて、きっとたくさん貯めているはず。
私たちはもう歳だから、彼女に頼って暮らすつもりで……」
私はただ、黙って座っていた。
その瞬間、初めて「冷酷」という言葉の意味を肌で感じた。
それは、大声で罵ることでも、泣き叫ぶことでもなく——
死の前で、ただ金銭だけを静かに計算する、冷たい計算だった。
彼らは彼女の死を気にかけていないわけではなかった。
ただ――
「遺産」を数えているだけだったのだ。
こんな親が、この世にいるのだろうか。