第8話 海底遺跡は立ち入り厳禁
アンモナイトは、思いのほか美味かった!
海水と一緒に飲み込んでるから水で薄めたイカの刺身みたいな感じだったが、まあ悪くはない。
あの触手に醤油でも垂らして食ったらもうちょい美味くなるかも?
触手を食うのはちょっと抵抗もあったが、いざ齧ってみるとコリコリ歯応えがあっていけないこともないぞ。
もしアンモナイトを食す機会があったら参考にしてくれ。
「ぷっぷく、ぷっぷく、ぷっぷくぷ~♪」
アンモナイトをペロリと平らげた俺は、鼻歌(?)混じりに深海を急浮上していた。
ぐんぐんと真っ直ぐ上に向かって深海を一気に駆け抜ける。
ぺったんこだった腹部は、今やフグ特有のぽっこりお腹に変貌していた。
このお腹の中には捕食したアンモナイトと、大量の空気が充満しているのだ。
《――お知らせします。ただ今、『ニルの深淵』エリアを抜けました。現在の水深は一五〇〇〇メートル――深層『死海』エリアに突入しました》
くっくっく、了解だアドバイザー!
これぞ進化したバルーンパファーの真骨頂!
バルーンパファーは風属性スキルに適正があるため、自在に空気を生み出すことが可能となる!
そして、フグと言えばぷく~っとお腹を膨らませるあの特徴的なフォルムを一度は見たことがあるだろう。
俺はお腹の中に空気を出現させて気体で満たし、獲得した浮力とバルーンパファーが併せ持つ敏捷性を利用して急速に浮き上がる。
みるみる内に上昇する俺は、ものの数十分で一気に六千メートルくらい海面に近づいたのだ!
……とはいえ、依然として海面まで一五〇〇〇メートルもあるからまだまだ先は長いんだが。
だけど、少しは海面に近付いたからか、周囲の環境がほんのちょっとだけ変わったような?
紺色の闇が広がっているのは相変わらずだが、俺は先ほど新たに入手した二つのスキルを併用する。
この六千メートルの浮上中、呑気に鼻歌だけを歌っていたわけではないのだ。
スキル発動!
〈探索〉! そして〈暗視〉!
俺の体を起点として、全方位にサーチがかかる。
3Dモデリングのように網目状の正方形が無数に展開されていき、地形の凹凸などが立体的に脳内に流れ込んできた。
さらにこの〈探索〉のスキルは周辺の魔物の存在も教えてくれる。
が、魔物に関しては赤い丸マークで存在する位置のみ示してくれるだけなので、どんな魔物がいるのかは実際に近付いて確認しないといけないのは難点だ。
ついでに魔物の強さや危険度なんかも〈探索〉のスキルに紐付いてくれりゃあいいんだけどな。
しかし!
こんなこともあろうかと俺は〈暗視〉スキルも手に入れた!
このスキルの効果により視界が一気に開け、今までは暗闇ばかりで何も見えなかったのだが、今はちょっと薄暗いが視界にちゃんと周辺環境が映っている!
とはいえ、ずーーーっと断崖のような地層の裂け目が続いてるだけだから五分もすれば飽きるがな。
とはいえ、真っ暗の手探り状態で活動していた当初と比べたら爆発的に生存確率が上がり、娯楽性も高まった。
これぞ深海のライフハックだぜ!!
この〈探索〉と〈暗視〉の両スキルのおかげで俺は魔物との接触を避け、無傷で『ニルの深淵』エリアを抜けることに成功したのだ。
保有しているスキルポイントはまだまだあるから、海面に出て落ち着いたら追加スキルを購入するか検討しよう。
「ぷくぷく~」
周囲への警戒は継続しつつそのまま真っ直ぐ急浮上に身を任せていると、ふと視界の端に気になる造形物が映った。
ん? あれはなんだ?
「ぷく~……?」
広がっていたのは、美しい珊瑚がひしめく海底。
その最奥に、神殿が聳えていた。
だいぶ朽ち果てているが、西洋の神殿のようなものが
なんだあれ……古代遺跡か?
「ぷく」
気になったのでちょっとだけ近付いてみる。
と、予想以上に巨大な建造物であることを理解した。
一見ちょっとした規模の神殿遺跡かと思っていたが、思ったよりも遠い場所にあり、近付けば近付くほどみるみる内にその遺跡の本来の大きさが感じられる。
フグに転生したことで体長がかなり縮んだせいか、体感としては一つの小山を見上げているような感覚に襲われた。
「ぷっ、ぷくぷくぅ」
圧巻の美しさ。
海底に長らく放置されていたからかそこら中に海藻やら貝やらが引っ付き、一部はほとんど珊瑚と一体化しているような状態だが、その遺跡から放たれる荘厳な迫力は健在だ。
「ぷくぷくぷく」
そう言えば、俺って家がないんだよな。
フグだから当然だろと言われればそうなんだが、でも自然に生息するフグだってずっと海の中を泳ぎ続けてるわけじゃないはず。
時には海底の岩の隙間なんかで体を休めることもあるだろう。
そういう小休憩的な意味合いでは、ちょっと一服この海底遺跡でくつろいでいっても良いのかも?
中がどんな感じなのか興味があるし。
瞬間、脳内に警報が鳴る。
《――超規模の空間系スキルの発動を感知しました。大至急この場からの離脱を推奨します》
その警報と同時、海底遺跡の真上にブラックホールのような闇が現れる。
フグに転生して数時間の俺でもビリビリと肌で感じる、圧倒的かつ膨大な魔力の波動。
対峙しているだけで引き潰されるようなこの威圧感はシーラカンスと同等か、それ以上。
人は突発的な恐怖には体が動かなくなってしまう。
その一瞬の判断の鈍りが、闇の中から莫大な魔力の主を呼び寄せる時間を与えてしまった。
「グルルァァァ…………!!」
フグの瞳に超巨大な海魔の姿が映った。
同タイミングで、鑑定が発動する。
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名前:滅淵龍リヴァイアサン
【鑑定が無効化されました】
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ド、ドドドド、ドラゴン~~~ッ!!?
眼前に顕現したのは、紛うことなきドラゴンの堂々たる巨体。
全身を青黒い鱗で覆い、頭から禍々しい角を伸ばし、紅い二つの眼球が小さな俺の姿を捉えて怪しく輝く。
『滅淵龍リヴァイアサン』は、海が戦慄くような災厄の咆哮を轟かせた。