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第6話  アンモナイト VS フグ ②


 アンモナイトとの激戦。


 たかがレベルいちのクソ雑魚フグである俺でも、〈フグの加護〉でブーストされたスキル攻撃なら有効打になり得る。

 勝機が見えてきた。


「ィィイイ……!!」

「ぷくっ!」


 アンモナイトから一本の触手がフグの顔面を貫くように伸びてきた。

 そこそこ速い触手攻撃だが、本体が大ダメージを負っているせいかどこか弱々しい。

 俺は体を百八十度回転させ、その触手から逃げた。

 後ろを見つつ追撃を回避する。

 逃走を選んだ瞬間、俺の動きが飛躍的に向上した。

 これは〈逃走Lv.1〉と〈高速遊泳〉の合わせ技による効果だ。

 逃げた際にのみ発動可能な、現状の俺が出せる最大速度をふんだんに利用する。

 ふっふっふ、これぞ俺の逃走スキルを活かした戦い!

 ヒットアンドアウェイ作戦である!


「ギイィ……!」


 アンモナイトは悔しそうに呻いた。

 俺はある程度距離を稼ぐと再びアンモナイトと対峙する。

 基本的には、これくらいの中距離を保ち続けて戦いを継続しよう。


 とはいえ、次の攻撃はどうするか。

 さっきの水属性スキルは発動してもアンモナイトの貝殻で防がれてしまうだろうから、もう一つの俺のメインウェポンを試してみよう。


 フグが持つ最大にして最凶の特徴――――毒スキル!

 俺は水属性スキル発動時と同様に、ぷくっとお腹を膨らませる。

 おちょぼ口になった俺の口から、紫色の塊をボッと吐いた。

 食らえ、毒球だ!


「ギィッ!?」


 毒球の接近を感知したアンモナイトは同じく貝殻で直撃を防いだが、毒球は貝殻に命中した後、ぶわっと周囲に拡散した。

 さっきの水属性スキルは所詮水の塊を飛ばしているだけだったから防御された後は周りの海水に溶けるだけだったが、毒の塊はそうはいかない。

 たとえ塊の直撃を防御したとしても、毒の粒子はしばらくその場に滞留し続ける。


 そして。

 あらゆる生物界の毒の中でも――フグ毒はトップクラスの劇毒だ。


「ギッ……ギギィィィイイイイイイ!!?」


 時間差でアンモナイトが血を噴き出し、触手を蠢かしてのたうち回る。

 絶叫するアンモナイトは紫色のヴェールに覆われた。

 周囲に滞留した毒がアンモナイトの体にまとわりつき、肉体を汚染しているのだ。


 どうだアンモナイト!

 水属性がダメなら毒属性で内側から少しずつ蝕まれていくがいい!


《毒属性スキルによる攻撃は一定の効果が認められました。このまま毒属性スキルを軸にした戦闘を推奨します》


 言われるまでもない!

 すでに次の球は装填済みだ!


 ぷくっと白いお腹を膨らませ、一発、二発、三発、と毒球を連続で飛ばしていく。


 ――びちゃ! 

 ――ばしゃ! 

 ――ぶしゃ!


「ギシィィ……!! ィィィイイイイイ!!!」


 放った毒球は全てアンモナイトに命中し、拡散。

 さらなる毒の濃霧が形成される。


 たまらずアンモナイトは毒の霧から脱出する。

 後退するかと思っていたが、俺に突っ込んでくる形で直進してきた。

 残った数本の触手を俺に差し向け、その先から黒色の魔法陣が出現。


《暗黒属性のスキル発動を感知しました。〈瞬転〉を用い、緊急回避を推奨します》


 アンモナイトの反撃だ。

 HPが三しかない俺は直撃を回避するのは当然としてその余波によるダメージでも死んでしまう。


 重要なのは、〈瞬転〉の発動タイミング。

 早すぎても遅すぎてもダメだ。

 アンモナイトの触手の先から展開される魔法陣は、徐々にその漆黒さを強めていき――――ここだ!

〈瞬転〉ッ!!


「ギシィィイイイイイイ!!」


 瞬間、触手の先から暗黒のレーザーが照射された。

 ビィィィィィィイイイイイン!! と凄まじい振動音を響かせながら、触手の数と同数となる五、六本の暗黒レーザーが深海を切り刻む。

 が、俺はレーザーが直撃する寸前で〈瞬転〉を発動。

 一秒間だけ使用可能な爆速移動による緊急回避を果たし――――それだけじゃ終わらない。


「ぶくくっ!」

「! ギィィイイ!?」


〈瞬転〉の発動によって一瞬姿を消失した俺が再び現れたのは、《《アンモナイトの真上》》だった。

 たしかに〈瞬転〉は緊急回避スキルとして利用していたが、スキル性能は"瞬間的な移動速度の爆発的上昇"だ。

 つまり、緊急回避として距離を稼ぐこともできるし、逆に《《一気に距離を殺して敵に接近する》》こともできる!


 知ってるかアンモナイト。

 『攻撃は最大の防御』という言葉を!


 俺は、くぱっ、と口を開け、揃った歯をギラリと光らせる。

 何が起こっているのか理解が追い付かない様子のアンモナイト、その頭部に勢いよく歯を突き立てた。


 ――ガブリッ!!


「ギギィィイイイイイ!!」

「ぷぐぐぐ……っ!!」


 最後は噛みつき攻撃だ!

 MPを消費しない物理攻撃で、〈フグの加護〉の効果で威力も大幅に向上している!


 アンモナイトはジタバタと暴れて振り払おうとするが、俺は顎に力を込めて絶対に離さない。

 ブシュュュウウウウ! と赤黒い血が噴き出す。

 が、さらに歯をアンモナイトの肉に食い込ませていく。


 うおぉぉぉおおおおおおおお!!

 絶対に離すもんかぁぁああああああああ!!

 

「ギギィ……ギッ、イイイイ……ィィィ……!!」


 ひとしきりアンモナイトはのたうち回ったが、次第に力が抜けて大人しくなっていく。

 やがて、アンモナイトは完全に沈黙した。

 何とか応戦していた触手も、だらんと脱力して大破した貝殻もろとも深海に漂っている。

 ズボッと噛みついてた歯を抜いてみるが、アンモナイトは何の反応もない。


 と、ということは、つまり―――――


「ぷっぷくぷぅーーーーーーーっ!!!」


 俺の勝ちだぁぁあああああああああああ!!!


 へっへっへ、見たかアンモナイト野郎! 

 レベル一の雑魚フグだってなぁ、本気出せば海魔に一矢報いることだってできるんだよっ!

 フグ魂、舐めんなぁ!


 アンモナイトの周りを悠々と泳ぎ回りながら勝利の余韻にどっぷりと浸る。

 ハッ、そうだ。

 初勝利は非常に喜ばしいことだが、肝心の目的を忘れちゃあならない。

 俺の目的とはずばり、レベルアップによるHPの全回復だ!

 さあ、アドバイザーよ。

 俺にレベルアップとHP回復の完了を告げたまえ!


 両手を広げて恩恵を享受するように、ちっちゃなヒレを大きく開けてその時を待った。

 ややあって、脳内に濁流のような音声が一斉に流れ込む。


深淵触手貝ニル・アンモナイトの討伐を確認しました》

《経験値を獲得しました》

《マスターのレベルが一から七七に上昇しました》 

《各種ステータス値が大幅に上昇しました》

《条件を達成しました。〈フグの加護〉の効果が大幅に増加しました》

《レベルアップにより、HP/MPが全回復しました》

《条件を達成しました。ユニークスキル〈異種変形メタモルフォーゼ〉を獲得しました》

《条件を達成しました。称号〈暴君〉を獲得しました》

《条件を達成しました。エクストラスキル〈咬撃こうげき〉を獲得しました》

《条件を達成しました。エクストラスキル〈水属性の大器〉を獲得しました》

《条件を達成しました。エクストラスキル〈毒属性の大器〉を獲得しました》

《条件を達成しました――――》


 ウェェェエエエエェェイト!!

 ち、ちょっと待ってくれ!!

 急に立て続けに喋ってんじゃねぇ!  

 脳ミソがパンクするわっ!

 聖徳太子じゃないんだから、そんな畳み掛けるようにいっぺんに言われて聞き取れねぇって!


 なんて文句を言っている間にも連続的にアナウンスが響きまくる。

 まるで壊れたカセットテープみたいだ。

 あまりの情報量にぐるぐると目が回ってきた。

 心なしか、体もジリジリと熱を帯び始めているような気がする……。

 せっかくアンモナイトを倒したのにまさかの情報過多で死にかけていた折、最後の人工音声だけは明瞭に聞き取れた。


《――条件を達成しました。これより、マスターの『種族進化』を開始します》


 ドクンッ! と鼓動が全身を打つ。

 刹那、魂の奥底から燃え上がるような莫大なエネルギーの爆発を感じ、カッと目を光らせて雄叫びをあげた。


「ぶ、ぷく……ぷくぅぅぅうううううううううううう!!!」


 フグのボディがボコボコと不規則に波打ち、パアアァァァ!! と眩い光に包まれた。




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