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フグに転生したら勇者少女に飼われた件  作者: 空戯ケイ
第6章  いざ、港町ベーネストへ!

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第55話  お背中、流させてくださいッス!


「はい! 終わりだよ、ぷっくん!」


 無心でゴシゴシと優しくエレナの手で体を洗われていた俺は、パッと告げられたご主人様の声に意識を戻した。

 よ、ようやく終わったか。

 エレナの洗い方も優しくてマッサージを受けてるみたいで気持ち良かったし、何より眼福成分が多すぎる。

 まあ後者の方は俺の鋼の意思で極力視界に収めないよう努力していたんだが。


 エレナの手の上で、ぐてん、と寝っ転がっていたフグは、ゆっくりと金魚鉢みたいな水槽に戻された。

 ちゃぷん、と水にエレナの手が沈み、俺も水中に入れられる。

 ゴボゴボッ、と小さな気泡が出てきて、俺は水槽の底に佇んだ。


「ふふふ、綺麗になったねぷっくん! 気持ち良かった?」

「ぷくぷく!」


 すい~っと水槽の中を泳いで応える。

 たしかにさっぱりして気持ちよかったかも!


 日本のフグでは味わえない快感だっただろう。


 不意に、ジェーンが怪しい動きでエレナの背後に回った。


「じゃあいよいよメインディッシュ――エレナ先輩を洗わせていただくッスー!」


 泡でもこもことしたタオルを片手に、ジェーンが力強く言い放つ。

 フグに気を取られてて虚を突かれたエレナは、いつの間にか後ろに忍び寄っていたジェーンにビクンと肩を震わせる。


「な、なにジェーンちゃん!?」

「ぜひウチにお背中お流しさせていただきたいッス~!」


 ジェーンはしたり顔でエレナに近寄る。

 そして、笑顔のまま俺に告げた。


「あ、ぷっくんは邪魔なんでどかしちゃうッスねぇ~」


 ジェーンは流れるような手付きで俺に人差し指を向ける。

 と、水槽全体が淡く光り、そのまま勝手に空中を浮遊し、浴槽の端まで飛ばされていく。

 あいつー!

 お得意の〈念動魔法〉で俺を飛ばしやがったなー!!


「ぷくぷくー!」

「ぷっくん!」


 水槽ごとふよふよと移動し、浴槽まで飛ばされた俺にエレナが反射的に振り返った。

 が、そのエレナの前に全裸のジェーンが立ちはだかる。


「さあさあ、エレナ先輩は前を向いてて欲しいッス! じゃないとお背中流せないッスからねぇ……ぐへへへ」

「ジ、ジェーンちゃん、本当にそんな気を遣わなくても……」

「大丈夫ッス大丈夫ッス! じゃ、行くッスよぉ~!」


 ぴと、とジェーンの指がエレナの肩に触れた。


「ふひゃ!」

「ううむ、体を洗うのにこのバスタオルは邪魔ッスねぇ。ええい、思いきって取っちゃえッス~!」

「きゃあああ!!」


 ジェーンは〈念動魔法〉を巧みに使用してエレナのバスタオルをほどき、ぽーいと勢い良く剥ぎ取ってしまう。

 エレナはいきなりバスタオルを剥がれたことですっぽんぽんになってしまい、反射的に自分の身を守るように腕で隠し、体を縮こまらせる。


「ジェーンちゃん!」

「ふふふ~、良いではないッスかぁ~! あっはっはっはー!」


 ジェーンの泡まみれの魔の手がエレナに忍び寄る。

 そうしてしばらくの間、エレナのなんとも言えない吐息混じりの声とジェーンの楽しそうな笑い声が浴室に響き渡るのだった。




 ●  ○  ●




 ジェーンの背中流しも終わり、その後お返しにということでエレナがジェーンの背中を流したりといった様子で洗いっこを遂げ、今は二人とも湯船に浸かっていた。

 互いに向き合う形で大きな浴槽に身を沈める二人の少女。

 その体積分の水がざばぁー、と流れ出ていく。


「ふぃ~、極楽ッスねぇ~……!!」

「う、うん。気持ちいい~……!」


 溢れ出た湯水は浴槽の端に置かれた俺の元まで流れてきて、水槽の周囲に緩やかな波がやって来る。

 浴槽のふちに左腕をだらんと垂らして天井を見上げるジェーンは、ふと気付いたように俺に視線を向けた。


「あ、ぷっくんも湯船に浸かってみるッスか?」

「ぷく?」

「良かったらどうぞッス~。気持ちいいッスよ?」


 ジェーンが〈念動魔法〉で水槽を真横に傾けた。

 水槽内の水がゆっくりと湯船の中に投入されていく。

 え、マジで? 

 俺も湯船に入る感じ?

 う、うーんこれ乗ってしまってもいいのだろうか。

 さすがにフグに転生して人間ではなくなってしまったとはいえ、さすがに十代の少女と混浴なんて展開を受け入れるわけには――


 ――ずるっ。


「ぷく?」


 頭の中で思考を巡らせていたら、途端に浮遊感を覚えた。

 遅れて、理解する。

 思考に集中するあまりジョロジョロと流れる水槽内の水に少しずつフグの体が押し流されていたということに!

 当然ながら水槽の口から飛び出した俺は、そのまま落下していく。


 そして、ぽちゃあああん! と小さく水柱を上げながら俺は湯船にダイブしてしまった!


「ぷくくー!」


 ゴボゴボゴボッ! と溢れる気泡と水の流れる音。

 熱い湯の温度を全身から感じる。

 そして視界に移るのは――二人の少女の一糸まとわぬ姿。

 湯船に入っているので、バスタオルを持ち込んでいる者はいない。

 湯が少し濁っているので鮮明には見えないものの、目を凝らせば普通に色々と認識できてしまいそうで――――!


「――ぷっくぁぁああああ!!」


 ザブァァアアン! と一本釣りされたマグロのように勢い良く湯船から顔を出した!


「あ、出てきたッス」

「ぷっくん、大丈夫ー!?」

「ぷく、ぷく、ぷく!」


 二人の言葉を無視し、俺は呼吸を整えた。

 が、全く落ち着くわけもない状況。

 ジリジリと削られていく俺の理性。


 や、やばい!

 なんか色々意識するとのぼせちゃいそう!


《――現在の気温・水温ではマスターに実害はありません》


 アドバイザーから無機質な訂正が入る。

 あのね、アドバイザーさん。

 俺は茹だるような湯船の熱さを懸念してるわけではなく、この心臓がドキドキする理性の消耗が、ね? 分かるかな??

 

 アドバイザーさんがいくら優秀といえども、まだ純粋な男心というものまでは理解しきれないらしい。

 すると、湯船から顔だけ出した状態のフグの体をジェーンがツンツンと突っついた。


「にしても、ホントに変わった魚ッスね、ぷっくんって」

「可愛いでしょ!」

「はい! 味がある顔してると思うッス!」

「ぷくくっ」


 クッ!

 これはどこを見ればいいんだ!

 左にはエレナ、右にはジェーン。

 普通ならどちらかしか見えないかもしれないが、フグの広い視界だと二人のあられもない姿をしっかりと同時に脳裏へ焼き付けることができる! 

 できてしまう!

 だからこそ、俺は彼女たちへの裏切り行為にならないよう、努めて紳士的にこの両端に広がる楽園から目を背けなければならない!

 だからあんまフグボディをツンツンしてんじゃねぇ、ジェーン!


 ジェーンはひとしきり俺の体で遊ぶと、思い出したように身を乗り出した。


「てか、聞いたッスよエレナ先輩! 『滅びの呪海』に面した漁村に上陸して襲いかかってきた半魚人魔の群れを撃退したって! しかも、その半魚人魔を使役してた見たことないようなボス個体も討伐したらしいじゃないッスか! いやー、さっすがエレナ先輩ッス!!」

「あはは、ありがとう。でも、あれは私だけの力じゃないよ。仲間の力もだいぶ借りたし、それにここにいるぷっくんの助力がすごくおっきいんだ!」

「ぷくぷく」

「へぇ、そうなんスか! ところで、ぷっくんってそんなに強いんスか?」


 ジェーンの純粋な疑問に、エレナは自信満々に肯定した。


「うん! 詳しくは分からないんだけど、多分レベル百くらいあるんじゃないかな……? 少なくとも、レベル五十は越えてると思うけど」

「ええぇっ! レベル百ッスか!? それ『滅びの呪海』をそこそこ進んだ海域でようやく出没するようなレベル帯ッスよ!? そんな化け物、よくテイムできたッスね!?」


 そうなのか。

 まあたしかに『滅びの呪海』の表層付近ではあまりレベル三桁に到達してる海魔は見ないな。

 この前の半魚人魔帝エンペラーマーマンが漁村にまで攻め込んで来たのは、本当にイレギュラーな事態だった。


「私も密かにテイム魔法は練習してたから。でも、ぷっくんがこんなに強いなんて知ったのは、本当に最近だよ。それこそ、あの半魚人魔のボスが襲ってきた時からかな。それまでも結構強い部類ではあったと思うんだけど、まさかあんな大きな怪物に一人で立ち向かって行っちゃうなんて……。しかもそれでしっかり討伐しちゃうんだから、ぷっくんは本当に凄いよ」

「ぷくぷく~」


 あれは俺だけの力じゃなかったさ。

 エレナの付与魔法で俺のステータス値が強化されていたというのも大きいし、最終局面ではエレナの回復魔法がなかったら普通に死んでいたはずだ。


 だけど、話すことができない俺はこの気持ちを伝える術がない。

 ゆえに謙遜したエレナの『ぷっくん武勇伝』が事実としてジェーンに伝わってしまう。


「そうなんスか!? ぷっくんって見かけによらずやり手の海魔なんスね!?」


 ジェーンがまるでピュアな少年のような瞳で俺にキラキラとした眼差しを向けてくる。

 一方、そんなジェーンの対面にいるエレナは、意を決するように前を見た。

 ちゃぷん、と湯船に波紋が広がる。


「あのね、ジェーンちゃん。今日、私がジェーンちゃんに会いに来たのは、お願いしたいことがあってのことなの」

「お願いッスか? エレナ先輩のお願いなら全力で応えるッスよ!」


 ジェーンは相変わらずの全力投球で応える。

 尊敬する先輩であるエレナの頼みならできる限り叶えたいというのは、彼女の本心からの思いだろう。


「ジェーンちゃんが計画してる明日の作戦が一段落ついたら、私に力を貸してくれないかな?」

「力、ッスか?」

「ジェーンちゃんがベーネストの町から海魔を遠ざけようとしているのに近いんだけど、私も自分が拠点にしている漁村の人たちの生活から不安や危険をできる限り排除してあげたいんだ。それに私たち『勇者』はいずれ魔界に降りたって魔族たちと戦わなきゃいけない。だから、私は『滅びの呪海』を本気で攻略しようと思ってるの」


 ジェーンが、おお! と感嘆の声を漏らした。

 エレナは神妙な面持ちで続ける。


「それで、まずは漁村の近くにある孤島を攻略しようと思ってるんだ。そのために色々と準備をしてて、必要な人たちに力を借りれるよう声をかけて回ってるの」


 そして、エレナが『孤島攻略』作戦の概要を説明する。

 ジェーンは、ふむふむと頷いてエレナの話を大人しく聞いた。

 やがて一通り説明が終わる。


「なぁるほど、エレナ先輩のお考えは理解したッス」

「それで、どうかな? あとはジェーンちゃんが来てくれたら私の計画も進められるんだけど……」


 エレナが窺うように言葉を萎ませながら訊ねると、ジェーンは自身の胸をドンッと叩いた。


「もちろん、ウチの協力は惜しまないッスよ! ぜひ、エレナ先輩の作戦に協力させて欲しいッス!」

「ほんと!? ありがとう、ジェーンちゃん!」

「エレナ先輩の素晴らしい作戦の一助になれるなら、これくらいお安い御用ッス!」


 どうやら、上手いこと話はまとまったらしい。

 二人の美少女と同じ浴槽に浮かぶフグとして、呑気に安心する。


「よーし、そうと決まったら明日は朝からガンガン『魔除柱モノリス』を海底に打ち込んでちゃっちゃと作業を終わらせちゃうッスよ~!」

「私たちも何か手伝えることがあったら言ってね」

「ぷくぷく~」


 やる気マンマンのジェーンだが、俺たちも協力は惜しまないつもりだ。

 まあ、フグにやれることがあるのかは分からんが。

 それよりも、今はこの状況に変な気を起こさないよう理性を律するのに手一杯である。

 カァ、と体が熱くなっているのは、きっと湯船に浸かっているからだろう。

 

 俺はアヒルのおもちゃのようにぷかぷかと湯船に浮かびながら、悶々とした気持ちを抑える。

 そして、エレナとジェーンと一緒に熱いお風呂で一日の疲れを吹き飛ばすのだった。



更新日の変更に関するお知らせです!

リアルの仕事で時間が取りにくくなってきた関係で、本作の更新を【毎週金曜日】の週1更新に変更させていただきます…!


読者の方にはご迷惑をお掛けしますが、ご承知おきいただけますと幸いです!

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