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フグに転生したら勇者少女に飼われた件  作者: 空戯ケイ
第6章  いざ、港町ベーネストへ!

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第54話  お風呂騒動


 ジェーンに連れられて辿り着いた家は、よくある民家だった。

 屋根はちょっと明るめなのが地中海チックな感覚を覚えるものの、中に入ってみるとよくある二階建ての一軒家である。


 その中に通された俺とエレナは、居間にやって来た。


「ここがジェーンちゃんのお家なんだ。すごくキレイにしてるんだね!」

「あはは。各地を動き回ってるんで、単純に生活してないだけってのもあるッスけどね」


【念動の勇者】は『滅びの呪海』に派遣された勇者の中で最も戦果を出しているんだったか。

 それで各地に引っ張りだこってわけなのかね。 


「普段はあんまり帰ってこないんで大したおもてなしはできないんスけど、どうかゆっくりしていって欲しいッス!」

「ありがとう。私たちのことは気にしないでいいよ」

「そういうわけにはいかないッス! エレナ先輩はウチの憧れの人ッスから! まさに勇者になるべくしてなった人だと思うッス!」

「……ありがとう、ジェーンちゃん」


 エレナは困ったように苦笑した。


 そう言えば、最初から気になってたがこのジェーンって勇者はやけにエレナに懐いてるよな。

 たしかエレナは【失格勇者】だと罵られて、周りの人間から卑下されていたはずだが……。


 不思議に思っている俺の思考は、次のジェーンの提案によって破壊された。


「――てな訳で、まずはウチと一緒にお風呂に入るッスよ、エレナ先輩!」

「うぇぇええっ!? お、お風呂っ!?」

「ぷくくっ!?」


 エレナは咄嗟に否定した。


「い、いやいや、いいよ! 私は後で軽く体を拭いておくから……」

「なに言ってるッスか! エレナ先輩にタオルで体を拭かせて、自分だけ悠々とお風呂に入るなんてウチにはできないッス! だからエレナ先輩も一緒にお風呂に入ってくださいッス! じゃないとウチがお風呂に入れないッス!」

「う、うぅ、でもそれとこれとは話が別じゃ……ね、ねぇ? ぷっくん?」

「ぷく」


 俺に振らないでくれ。

 なんて答えていいか反応に困るから。

 まあそもそも話せないから答え用はないんだが。


「あれ、なんすかその海魔?」


 ジェーンがエレナ越しに俺へ視線を向けた。

 まるで初めて気付いたかのような反応だ。

 こいつ、今までエレナしか見てなかったのか!


 話題が逸れたことに少し安堵した様子で、エレナが俺を紹介した。


「こ、この子はぷっくんだよ。私がテイムした使い魔なの」

「テイムッスか!? エレナ先輩が!?」


 "エレナにテイムされた"という部分にとても興味が惹かれた様子で、ジェーンが身を乗り出してきた。

 そして、至近距離でじろじろとフグの姿を眺めてくる。


「エレナ先輩は、どうしてこの海魔をテイムしようと思ったんスか? 強いからッスか?」

「それもあるけど、第一は私の命を救ってくれたからだよ。私が海で溺れてたところを、ぷっくんが助けてくれたんだ」

「へぇ~! そうなんスか! エレナ先輩を助けてくれて、ありがとうッス!!」

「ぷくぷく」


 ジェーンは裏表のない心からの感謝で笑った。

 てっきりエレナと変な関係を持ってるんじゃないかと邪推されて敵視されるかと思ったが、意外とそんなこともなかったな。

 ラスキアは俺がエレナに人工呼吸をした時にめっちゃ狼狽してたってのに。

 危うくエレナの唇を奪った罪で殺されそうになったからな。

 ヤバイヤバイ。


「じゃあ、エレナ先輩にとってこのぷっくんは大事な使い魔なんスね」

「うん、そうだよ!」

「なるほどッス! ところで、ぷっくんはお風呂に入りたくないッスか?」

「ぶく?」


 は?

 いきなりなんだ?


 ジェーンは耳を水槽に近付け、わざとらしい笑みで何度も頷いた。


「ふむふむ! そうッスかそうッスか! お風呂入りたくてたまんない~ッスか!」


 はあぁっ!?

 いや、そんなこと言ってないんたが!?


「これはこのまま水槽に閉じ込めてたら可哀想ッスねぇ?」


 ジェーンは水槽を優しく撫でながら、チラッとエレナを見た。

 ま、まさかこいつ……俺をダシにするつもりか!?


 エレナがあからさまに狼狽える。


「ええっ、ほ、本当に? ぷっくんもお風呂入りたい、の……?」

「ぷ、ぷくぷ――」

「あーーん! 熱いお風呂で体洗い流したくてたまんな~~い!! だそうッス! これは一刻も早くお風呂場に連れて行ってあげる必要があるッスね! エレナ先輩がお風呂に入らないんだったら、ぷっくんのお風呂の面倒はウチにお任せくださいッスー!」


 フグの返答を遮ってジェーンは俺の言葉を代弁する。

 つーか、なんでそんなオネェみたいな口調になってんだよ!?


 そんな俺の抗議も空しく、ジェーンはガシッと水槽を鷲掴みにして、すたこらさっさー! とお風呂場に直行した。

 遅れて、エレナも駆け出してくる。


「ち、ちょっと待って! ぷっくんを洗うなら、私がやるからー!」

「聞こえないッスー! 話はお風呂場で聞くッスー! ぐへへへ」

「ぷーーくーー!」


 拐われたお姫様よろしく叫び声をあげるフグ

 ジェーンは水槽を頭のてっぺんに乗せるように掲げて廊下をひた走り、その後を焦った表情のエレナが慌てて追いかけていた。


 全てはエレナをお風呂場に連れ出すための口実!

 このジェーン、無邪気で天真爛漫な少女かと思ってたが、めちゃくちゃいかがわしい笑い声を漏らしてんぞ!?


 そうして俺たちは家の最奥に位置するお風呂場へ騒がしく駆け込んで行くのだった。




 ●  ○  ●




 ――……カポーン! 

 浴場に小気味良い音が響く。


 お風呂騒動からしばらく、結局俺たちは仲良く全員でお風呂に入ることになってしまった。

 意外とジェーンの家の風呂が大きく、二人くらいなら何の問題もなく入れるくらいの広さだった。


 そして、浴槽の片隅に置かれた水槽。

 その中に佇む一匹のフグは、非常にいたたまれない空間で心臓がドキドキしていた。


「一緒にお風呂に入ってくれてありがとうございます! エレナ先輩!」

「あ、あぅ……私はぷっくんを洗ったらすぐに出る、から」

「なーに言ってるッスか! せっかくお風呂に入ってるんスから、エレナ先輩もくつろいでいってくださいッス!」

「うぅ……!」


 俺の目の前には、まさに楽園と形容するに相応しい空間が広がっていた。

 湯けむりの中に輪郭と露出された肌が見え隠れする、非常に色々と悩ましい光景。いや、絶景。

 エレナとジェーンが風呂場の椅子に座り、タイルに張られた鏡の前で横に並んで座っていた。

 エレナは一応バスタオルを巻いてはいるものの、ジェーンに関しては素っ裸である。

 まるで小学校低学年の男子のように、全裸を人に見られることを何も気にしていない様子だ。

 なんならむしろ見せつけてるくらいの勢いである。

 これが裸族ってやつ?


「ぷくぷく~……」


 俺の真横で、ドボドボと湯が流れ、浴槽に溜まっていく。

 これも魔法のようで、浴槽の端に青い魔石と赤い魔石が嵌め込まれた魔装具が設置してあった。

 今は赤い魔石の方に魔法陣が浮かんでいて、そこから湯があふれている状態だ。

 赤い魔石を発動させればお湯が、青い魔石を発動させれば水が出てくるのだろう。


 ちなみに俺が浴槽の端に置かれて放ったらかしにされている経緯としては、単純にジェーンが風呂場に着いた瞬間、水槽ごと俺をこの位置にセットしたからである。

 その後、脱衣所に戻り、数分後にエレナとジェーンが浴室に入ってきたので、俺は二人の着替えシーンは見ていない。


 浴槽に湯が溜まってきて、もくもくと湯気が立ち込める空間。

 水槽のガラスに粒のような水蒸気が形成されながら、俺は水の中で静かに佇む。


「わ、私、ぷっくんを洗ってくるね!」

「あ、エレナ先輩!」


 エレナがやや強引に立ち上がり、ぺたぺたと素足で浴室の床を歩いて俺の元に歩いてくる。

 必然、白いバスタオルとエレナの肌がみるみる内に近付いてくるわけで――――


「ぷっくん!」

「ぷく」


 俺は呼ばれて、短く返答する。

 エレナの顔は、湿気が多く熱い浴室の影響かほんのりと赤みがかっていた。

 エレナは中腰になって目線を俺に合わせる。


「そもそも、ぷっくんってお風呂って大丈夫なのかな? 熱くて苦しくない?」

「ぷく」

「そっか。じゃあ、軽く洗っちゃうけど、水槽から出して大丈夫?」

「ぷく」


 エレナがゆっくりと水槽を持ち上げ、胸元に抱きかかえた。

 いつもこのように抱き抱えられてエレナに持ち運びされるのだが、今回ばかりは状況が異なる。

 なぜなら、エレナの控えめながらもたしかに感じられる胸の膨らみが水槽にむぎゅっと押されていた。

 バスタオル一枚隔てただけなので、普段よりももっと女性的な柔らかさをダイレクトに感じてしまう。

 う、うぐぐ……。

 目の前の水槽越しにこんな絶景を見せられると……い、いやいやいや! 

 エレナは俺のご主人様なんだ!

 邪な考えなんて抱いたらダメダメ!!


 俺はギュッと口を閉じ、ブンブンと頭を振って邪念雑念煩悩を振り払った。

 が、そんなフグの我慢など露知らず、エレナは慎重に水槽をシャワーの前まで運んでいく。

 そしてエレナが最初に腰を下ろしていた風呂用の小さな椅子に座り直し、水槽その隣の床に置かれる。

 視点がかなり下がったなと思っていると、エレナがゆっくりと水槽に手をいれてきた。


「じゃあ、ちょっとだけ水から出すね?」

「ぷく」


 されるがまま身を任せていると、エレナの両手が優しくフグの体を下から掬い上げるように包み込んだ。

 そのままゆっくりと上に持ち上げられ、ちゃぷんと水槽から体を晒す。

 徐々に温くなっていた水槽の水から一転、浴室はだいぶ湯けむりが立ち上っていてそのむわっとした熱を帯びた水蒸気がフグボディに絡み付く。

 陸上に上げられてしまったので、エクストラスキルの〈陸上呼吸〉を発動。

 これで水中じゃなくても呼吸ができる。


「わあ、ぷっくんって水から出すとそんな感じなんスね! 魚なのにピチピチ跳ねて暴れないんスね!?」

「うん。ぷっくんは特別な海魔だから」

「ぷく」


 エレナとジェーンはフグを前にしても普通に話をしている。


 つーか、当たり前なんだがエレナもジェーンも俺がフグだから特別恥じらうような素振りもなく愛玩動物的な目線で接してくれる。

 これが後々、フグの体内に異世界人の魂が宿ってると知れたらどうなることだろうか……。

 なんか二人を騙して女湯に忍び込んでいるみたいで罪悪感を感じるな……。

 よ、よし!

 ここはできるだけ目を閉じて何も見ないようにしよう!

 特にジェーンなんかマッパだから凝視しなくても普通にその裸体が丸見え状態だし!

 エジプト風美人であるジェーンも体型はスレンダーながらやはり男の裸とは違うからな!

 美しい褐色の肌は無意識に目を奪われるが、目を閉じれば関係ない!


 ナニモミエナイ。

 ナニモミエナイ。


 俺はそう念じながら、エレナに身を任せて石鹸らしき泡がついた柔らかい手で優しくフグボディを洗われるのだった。



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