第52話 【念動の勇者】
謎の叫び声と同時、夕空から墜落してきた人物にエレナが衝突された。
その拍子に俺は空中に投げ出されるが――反射的に〈水属性の大器〉を使用して水槽内の水を操り、ピタリと静止。
空中で傾いた状態で動きを止めた水槽をゆっくりと立て直し、事なきを得る。
俺は問題ないんだが……!
「ぷくぷくー!」
エ、エレナはどうなった!?
眼前にはゴロゴロと地面を転がり回った形跡と、大量の土煙が広がっている。
お、おいおい嘘だろ……!?
あんな衝撃で物体が体に激突したら、絶対に無事じゃ済まないぞ……!!
俺は急いで水槽ごと移動し、エレナの元に向かう。
だ、大丈夫かエレナーー!!
「う、うぅ……」
土埃の中から、二人の人間の輪郭がおぼろげに現れる。
その内の一人、何者かにのし掛かられていたエレナが、ゆっくりと体を起こした。
見たところ……大きな怪我をした様子はない。
ほっとひと安心した所で、もう一人の人間――エレナに抱きついて覆い被さっている人物に目がいった。
その人物は、ガバッと上体を起こして元気に声を発する。
「エレナ先輩! やっぱりエレナ先輩ッスよね!? お久しぶりッス!!」
「あ、ジェーンちゃん!?」
ジェーン……ってことは、これが目当ての【念動の勇者】!?
エレナに名前を呼ばれたジェーンは、少女だった。
黒髪で褐色、顔の雰囲気はエジプト風の美少女という感じだ。
体は華奢であるものの全体に無駄のない筋肉がついていた。競泳水着をビキニにしたようなデザインの露出度が高い装いなので、ボディラインが丸見えだ。
フグでなかったらこうもガン見することは躊躇われるだろう。
やや遅れて、背後からカギレレがドタドタと小走りで追いかけてきた。
「お、おーい! 大丈夫か!?」
「は、はい。私は平気です」
「当たり前ッスよ! 憧れのエレナ先輩に怪我なんてさせるわけないじゃないッスか! このウチを何だと思ってんスか!!」
カギレレに言葉を返すエレナとジェーン。
エレナはまだ混乱が抜けきっていない様子だが、ジェーンは顔だけ後ろを向いてカギレレを避難するように睨み付ける。
ジェーンは凄んでいるが、体はコアラのように全力でエレナに抱きついていた。
「ジ、ジェーンちゃん、久しぶり……! あの、ちょっとだけ離れてもらってもいいかな……?」
「えぇ~! せっかくエレナ先輩に出会えたのにぃぃ~~!!」
ぶぅー、と残念そうに言葉を漏らしながらも、ジェーンはおずおずとエレナから退いた。
ようやく体が解放されたエレナは少しふらつきながら立ち上がる。
さっきジェーンも言っていたが、本当にエレナの体には傷一つついていないようだった。
あれだけ衝撃的(物理)な出会いを果たしたっていうのに、本当に無傷とは……これが【念動の勇者】が使うとかいう〈念動魔法〉の効果か?
《〈念動魔法〉は物体の運動を操る魔法です。対象エレナと衝突した際、体が直撃する前に薄い膜を〈念動魔法〉で生み出して緩衝材にしたのでしょう。その後、地面を転がった際も同様に対象エレナ・対象ジェーンの周囲に薄い膜を張って衝撃とダメージを吸収したものと推測します》
そういうカラクリか。
〈念動魔法〉ってのは物体を動かすだけじゃなく、物体同士の衝撃やダメージなんかにも干渉できるようだな。
ジェーンはエレナから離れ、カギレレに向かって頭を傾げる。
「で、アンタは誰ッスか?」
「カギレレだよ! 前に会った時に例のブツの製作を頼んだだろう! それを持ってきたんだ!」
「カギレレ……あー! あのドワーフの方ッスね! どうもッス! あ、そう言えば会う約束してたのって今日だったッスか!」
「もしかして、と前置きするまでもなく忘れてたな……!」
「あっはっはー! 申し訳ないッス! でも、アレを作ってくれたのは感謝感激ッス!!」
ジェーンは頭に手を当てて、うっかりうっかり! と笑った。
なんかあらゆる物事に全力投球で、『破天荒』を絵に描いたような少女だな。
これが【念動の勇者】……うん。案の定、予想外の人物像だったわ。
そんなジェーンとのやり取りに疲弊した様子のカギレレさんを尻目に、エレナが言った。
「ジェーンちゃん。カギレレさんに一体何の製作を頼んだの?」
「ええー! ウチに興味があるんスか、エレナ先輩!?」
まあ、ウチにって言うか、ジェーンがカギレレに発注した物品に興味があるんだと思うけどね。
俺はしがないフグなのでそのことを伝える術はないから心の中にしまっておくが。
エレナも困ったように笑っていると、ジェーンがガバッと人差し指を天に掲げた。
そして、港の方に、ぐるぅん! と指を動かして挑戦的に笑う。
「良かったら、エレナ先輩も見学して行くッスか!? ウチが考えた超スペシャル海魔撃退作戦――通称、『海魔に嫌がらせしてどっかに追い払ってやろう作戦』の決行を!!」
…………えっと、今なんて??




