第51話 港町ベーネストに到着!
ジャイアントウルフの解体を終え、大量の毛皮の素材を手に入れた俺たちだが、ここで新たな問題が一つ。
「……この大量の毛皮、どうやって持って帰ろうか?」
「ぷくぅ」
エレナの呟きに、俺は気の抜けた返答をする他ない。
俺たちの目の前には、大地に広げられた黒い毛皮が一面に広がっていた。
それはかなりの大きさがあり、俺たちが寝転がってゴロゴロだらけても十分に余りあるくらいのスペースを提供してくれるだろう。
ちなみに毛皮を剥ぎ取られたジャイアントウルフは桃色の筋肉素肌を露出させていて、モザイク必須の状態になっている。
カギレレ曰く、このまま放置してたら鳥や小型の魔物が肉を食いにやって来るので、死体処理はそいつらに任せれば良いだろうとのこと。
幸いなことに周囲に人里はないから、ここに魔物が集まってもそこまで問題ないという判断だ。
しかし、これほど大量の毛皮が取れるとは……どうしたものか?
困った俺たちに、カギレレが意外そうな顔をした。
「なんだ、アンタらはアイテム袋は持ってないのか」
アイテム袋?
なんだ、アイテムボックス的な機能がついた袋か?
俺の疑問と同時、カギレレが懐をまさぐって中から巾着袋のようなものを取り出した。
「ほら、こういうやつ。冒険するなら必要じゃないか?」
「拠点から遠くに旅をする場合は必要になるんですけど、私たちはこの『滅びの呪海』の海岸線からほとんど動いていないので、あまり大量の荷物を持ち運びする機会がないんですよね……。でも、今後は『滅びの呪海』を攻めていくつもりなので、必要になると思います! ベーネストに着いたら買ってみようかなぁ?」
「そうかい! だったら、コイツをやるよ!」
カギレレは手にしていたアイテム袋を手渡してきた。
「ええっ!? い、いやでも悪いですよ!」
「気にすんな! そいつは念のためにサブで備えてた用のアイテム袋だからよ!」
遠慮するエレナにアイテム袋を押し付け、半ば強引に受け取らせる。
エレナは遅れて、ありがとうございます、とお礼を言った。
「それよりも収納量を多くしたけりゃ、上位互換のアイテムバッグを使うといいぞ! ま、そのアイテムバッグでも詰め込みすぎるとこんな風にパンッパンに膨張しちまうんだがな!」
カギレレは背負っていたリュックサックをバンバンっと叩き、豪快に笑う。
あ、それってアイテムバッグだったんだ。
にしても、アイテム袋よりも容量が多いアイテムバッグですらそんなはち切れんばかりに膨らんでるって、中にどんだけ大量の物品を詰め込んでるんだ!?
エレナは受け取ったアイテム袋の口を開き、その口を大地に広げられたジャイアントウルフの毛皮に差し向けた。
「たしか袋の口を開けて、収納したい物体にかざすんでしたよね。えーと、こんな感じかな?」
――ビュオオオオオン!
エレナの手元にジャイアントウルフの毛皮が雪崩れ込み、アイテム袋の口に吸収された。
あっという間に全ての毛皮を回収し、俺たちの足元には土色の大地が広がった。
「わあ、すごい! アイテム袋ってあんまり使ったことなかったんですけど、こんな感じで収納されるんですね!」
「おうよ! 冒険するならいずれ必要になるから、いまの内に慣れとくと便利だぜ! 取り出す時は袋の口の中に手を突っ込んでまさぐってれば目当ての奴が指先に触れるからよ!」
カギレレの丁寧な解説に、エレナは改めて笑顔で頭を下げた。
よし、これで今後大量の品物を持ち運ばなきゃいけなくなったとしても、何とかなりそうだな!
カギレレは地面に置いた巨大なリュックサックを持ち上げ、よっこらせっと背負い上げた。
「んじゃ、行くか! この調子で歩けば、今日の夕方には港町ベーネストに到着するはずだ!」
「はい! 道中もよろしくお願いしますね!」
「ぷくぷく!」
そうして俺たちは再び海岸線を歩みだし、目的地の港町へと先を急ぐのだった。
● ○ ●
流れるように吹き抜ける潮風。
地中海を匂わせる雰囲気の町並み。
眼前には、カラフルな屋根の数々が広がり、港にはいくつかの大きな船舶が停船し、いくつもの木箱や酒樽のような物品が積み込まれていた。
少し小高い丘から夕焼けに染まる町を見下ろす俺とエレナは、同時に息を呑んだ。
「わあ~! ここが、港町ベーネストっ!!」
「ぷくぷく~!!」
すげぇー!!
港町ベーネスト、めっちゃ賑やかじゃん!
つーか、何よりも人が多い!
たくさんの人たちが盛んに交易を行い、至るところに露店が開いていて客を呼び込む声が活発に飛び交っている。
「ぷくぷく」
なんていうか、意外だ。
ここは『滅びの呪海』だって聞いてたから、もっと住民は消極的な活動しかしていないのかと思っていた。
現に、エレナが拠点にしている漁村ではあまり大胆な活動はしていない。
今でこそ『滅びの呪海』攻略に向けて活力に満ちているものの、依然は海魔に怯えて細々と隠れ潜むように生活を営んでいたはずだ。
だが、少なくとも俺たちの目の前を行き交うベーネストの住民たちはみんな笑顔で、希望に満ち溢れた表情をしていた。
カギレレがテンションを上げて言う。
「おお! 話には聞いてたが、こいつはすげぇ! 前に来た時よりもさらに町全体に活気が出てやがる!」
「カギレレさんは、以前にもベーネストに来たことが?」
「ああ! 偶然この町に用があって、少し滞在してたことがあるんだよ。つっても、三、四ヶ月前のことだがな。その時はここまで住民たちも溌剌とした様子じゃなく、むしろ沈んだ陰鬱としたオーラが漂ってたもんだが……それを一変させちまったのが、例の【念動の勇者】様さ!」
ほう、ここで出てくるのか。
噂の【念動の勇者】――ジェーン。
「俺が【念動の勇者】様に出会ったのもその時でな。同時にある品物を頼まれたんだよ。もしも"それ"が完成して、自分の思うように配置することができたら、きっとこの港町はもう大丈夫だー、なんて逞しい口振りで豪語してたっけな」
カギレレはくつくつと可笑しそうに笑う。
聞いている感じ、人当たりの良さそうな勇者なのかな?
【氷の勇者】のリセはめちゃくちゃ人見知りでずっと『氷の灯台』に引きこもってるという勇者だったが、果たして【念動の勇者】ってのはどういう人物なのか。
そもそもます男か女かも分かってねぇしな。
「カギレレさんは、ジェーンちゃんと待ち合わせはしてるんですか?」
「いや、細かい場所の指定はしてねぇ。【念動の勇者】様は忙しいし、俺も何時ごろに到着できるか確定できなかったからな。だが、今日中にベーネストの町に到着することは伝えてあるから、もし【念動の勇者】様が近くにいるならそこで取引の詳細を詰めるつもりだ。もし会えなかったら適当な宿を取ってまた明日、港の前で待つとするかな。港で待ってりゃ、いつかは会えるだろうからよぅ!」
カギレレの言葉にエレナは、うーん、と悩ましげに唸った。
「となると、今日は先に宿を探した方がいいかなぁ。カギレレさん、もしジェーンちゃんに会ったら、私が探してたって伝えてもらってもいいですか?」
「おう、それくらいお安いご用だ!」
「ぷっくんも今日は色々と歩きっぱなしで疲れちゃったよね? それにジャイアントウルフも倒してもらっちゃったし」
「ぷくぷく」
まあ俺は別に大した消耗はしてないから問題はない。
歩きっぱなしとはいっても俺はずっと水槽の中でエレナに随行してただけだから、足使ってないしな。
「宿についたら、ぷっくんのご飯もあげないとだね! なにかいいご飯ないか一緒に見に行こっか!」
「ぷっく!」
それはいい考えだ!
ベーネストなら漁村よりも発展してそうだし、もっと美味い食べ物があるかもしれない!
「予定は決まったようだな! んじゃ、宿に向かおうや! 俺の行きつけでよけりゃ、良い宿を紹介するぜ!」
「本当ですか! 楽しみです!」
「ぷくく~」
そうして俺たちがベーネストの町に向けて一歩を踏み出そうとした、その時。
「――あああああああああああ~~っ!!!」
どこからともなく、不気味な叫び声が響き渡った。
直後、ドッパァァアアアン!! と近場の海から水柱が上がる。
「な、なに!?」
「ぷくぅ!?」
まさか、新手の海魔か!?
反射的に身構える俺とエレナとは対照的に、カギレレは目蓋の上に手を当てて、水柱が飛び散る方角へ目を凝らした。
「……ん? ありゃあ、もしかして……」
カギレレの言葉を遮るように、キラーンと空に何かが飛び上がる。
オレンジ色に染まる夕焼けをバックに素早く空中を闊歩するその謎の個体は、上空から少し高めの大声で叫び散らした。
「エーーーーレーーーーナーーーーせぇーーーーんぱぁぁあああああああいっ!!!」
「きゃああああああっ!?」
夕空から墜落してきた謎の人間は真っ直ぐエレナに飛び付き、勢いそのままにゴロゴロと転がっていく。
その拍子にエレナの手から水槽が離れ、俺が宙に投げ出される。
エ、エレナぁあああああ~~!!




