第49話 ジャイアントウルフ VS フグ
山に巣食う巨大狼――ジャイアントウルフ。
獰猛な唸り声と捕食者としての風格を惜し気もなく放ち、俺に飛びかかってくる。
「――ガルルァァアアアアア!!」
「ぷくっ!」
ジャイアントウルフの不揃いな犬歯が俺に襲来する。
が、俺はフグ特有の小回りを聞かせ、ジャイアントウルフが口を閉じる前にスルリと口内から抜け出した。
エレナの付与魔法のおかげか、いつもより体の動きのキレが良い気がする!
直後、ガチィン!! と牙が打ち鳴らされる。
うわぁ、あれ食らってたら普通に食い千切られてるんじゃね?
「ぷくぅ!」
ジャイアントウルフの噛みつきは不発に終わったが、大人しくそのまま帰してやる必要もない。
俺はすれ違い様、至近距離でウルフの顔面に水塊の一部を勢いよくぶつけた。
「ギャイイン!!」
濁った犬のような悲鳴を漏らす。
水といえども塊となって硬度を高めれば普通に凶器になり得る。
ジャイアントウルフは顔面に水塊の殴打を受け、たまらず身を翻して後退。
そのまま流れるように俺から距離を取った。
仕切り直し。
再び静まった場に、おじさんの高揚した声が響いた。
「す、すげぇ! な、なんなんだあの魚は!?」
「私の使い魔ですよ! ぷっくんって言います!」
「ぷ、ぷっくん? そりゃまた変わった名前の魚だが……頑張れー! ぷっくん!!」
「でも、危なくなったらすぐに避難してきてねー!」
エレナとドワーフの声援を受けながら、俺はジャイアントウルフから視線を外さない。
もしかしたら俺を素通りして背後の二人に狙いを変更してくるかもしれないからな。
「ぷくっ」
ジャイアントウルフに対して警戒は緩めず、思考を巡らせる。
さて、戦うにしてもどう立ち回ったものか。
毒でも撒き散らせば毒のダメージで倒せそうな気はするんだが、周囲が毒まみれになって汚染されてしまう。
万が一、人間が立ち寄ったりした際に残留毒にやられて御陀仏になるなんて事故が起こったらヤバいからな。
やっぱ〈水属性の大器〉を使用して、水責めをするのが無難かな?
《〈水属性の大器〉の使用を推奨しますが、手持ちの水量に注意してください》
だな。
俺の残弾はいま自分の体を包み込んでくれているこの水の塊だけ。
塊と言ってもそこまで大量にあるわけじゃなく、せいぜいバスケットボールよりちょっと大きいくらいのサイズしかない。
この水がなくなると魚である俺は途端に無力になってしまう。
まあ〈陸上呼吸〉のエクストラスキルはあるから窒息死することはないが、行動不能にはなるだろう。
「ぷっく!」
様子を窺うジャイアントウルフに、今度は俺から仕掛ける。
まさか向こうから来るとは思わなかったのかジャイアントウルフは一瞬怯みかけるが、強者の矜持に突き動かされるかのように応戦してきた。
俺は水の塊から一部を切り離し、散弾のようにジャイアントウルフに細やかな水の弾丸を撃ち放つ。
ジャイアントウルフは機敏な動きで右に左に素早くステップをして被弾を最小限に留める。
「ぷくぅ……!」
アイツ、俺の水が危険だって早くも学習しやがったか。
チッ、やっぱメインフィールドの海じゃねぇから戦いにくいな。
「グルル……ガルルァァアアア!!」
ジャイアントウルフの飛びかかり。
水の散弾の効果がいまひとつに終わった俺の手持ちの水量が半減し、最初よりも幾分かスリムになった水塊に、汚ならしい鋭利な歯が再来する。
「ぷっくん!!」
「魚ぁ!!」
背後からエレナとカギレレの声。
一見ピンチに思えるが、心配するな。
水が効かないなら、俺自らが行ってやるッ!!
「ぷくくぅぅ~……!」
ジャイアントウルフとの距離、数メートル。
奴はすでに飛び上がり、空中から放物線を描くように俺にターゲットを定めている。
俺はその場から動かず、自らの体を覆う水塊の水の流れを変化させる。
球体になるように形成していた水塊の内部でぐるぐると激しく水流を変化させ、俺もヒレをバタバタとはためかせてエネルギーを充填するように静止。
「ガルルァァアアアアアアアアア!!」
――俺は水流でチャージしたエネルギーを爆発させた。
瞬間、俺の小さなフグの体が弾丸のように射出される。
「ぷっくくぅぅううううううう!!」
風を切る音とフグの柔らかい皮膚が強風に揺れる。
人間大砲ならぬ、フグ大砲だ!!
俺に襲いかかっていたジャイアントウルフだが、それを上回る速度で一直線にフグが迫る。
一秒後には、ジャイアントウルフを眼前に捉えた。
うねる黒毛と獣臭さ、驚愕に染まる赤い眼光にニヤリと口の端を持ち上げる。
そして、フグの歯がギラリと光った。
「グルァアアア!?」
「ぷくくぅぅううう!!」
最後のトドメは、これだ!
エクストラスキル――〈咬撃〉ッ!!
俺は大きく口を開け、勢いそのままにジャイアントウルフの喉笛に全力で噛みついた。
――――ガブゥッ!!
硬い毛並みが層のように重なるが、そんなものお構い無しに肉へと食らいつく。
直後、圧縮されたガスのように噴出した血飛沫がフグの体を赤い斑に染めた。
「キャイイイィィイン!!」
「ぷくぐぅぅ!!」
ジャイアントウルフがじったんばったんとでたらめに体を動かし、俺を振り払おうとする。
ハッハッハ!
どれだけ足掻こうと絶対に離さんからな!
フグの咬む力を舐めたらダメだぜ!
それと一度獲物に食らいついたらしつこく何度も噛みついてくるということもな!!
「グルルルン!!」
「ぷくぅ!」
空中で暴れていたジャイアントウルフが落下し、ドゴォン! と衝撃が巨体に伝わる。
俺の体もその動きに釣られて上から下へと重力に引っ張られ、墜落の反作用で下から上へと小さなフグボディが揺さぶられる。
だが、まだまだ噛みつき続けるけどな!!
「ガルルルゥゥゥン!!」
ジャイアントウルフが体を土で汚しながら、鋭い爪を持った前脚で喉に噛みついたフグを追い払おうと引っ掻いてくる。
「ぷく、ぶくっ、ぷっく」
俺はジャイアントウルフの喉笛から口を話さず、小刻みにフグボディだけを動かすことで鉤爪の攻撃を何とかすり抜ける。
だが、ずっとやられてるといずれ爪で引き裂かれてしまいそうだ。
あと、それに……!
「ぷ、ぷぐぅぅ……」
い、息ができない!
今は水塊から飛び出してフグ本体で陸上に上がっているので、呼吸ができないのだ!
だが、まあここはエクストラスキル〈陸上呼吸〉で命を繋ごう。
取っといて良かった、〈陸上呼吸〉!
おかげで、スゥーと新鮮な空気がフグの体内を心地よく満たす。
「ぷくぅ!」
だが、あまり時間をかける必要もない!
あとはお決まりの必勝パターンで沈めてやろう!
その名も――噛みついた箇所に俺の猛毒を注入してやる作戦だ!
いざ、〈毒属性の大器〉!!
俺の口元が紫色に輝き、内部からドポォン……、と毒の塊が生成される。
その大量の毒液は俺が噛みついた歯の傷跡から瞬く間にジャイアントウルフの体内に回り、そして――――
「……ゥガ! ガ、ガガ、……ガルルゥ……ゥウウ……ッ!!」
あれだけ元気に暴れていたジャイアントウルフの体が硬直、すぐに痙攣。
直後、その巨体を不規則に震わせて大地にくずおれる。
ビクッビクッと頭部を震わせ、赤い瞳は虚ろに濁って焦点が曖昧で、ぶくぶくと白い泡が獰猛に開かれた口と犬歯の隙間から溢れてくる。
《ジャイアントウルフの討伐に成功しました》
不意にアドバイザーの声が響いてきた。
どうやらジャイアントウルフを倒せたらしい!
やったぜ!
だが、アナウンスはまだ終わらなかった。
《エクストラスキル〈奪食〉の効果が発動しました。ジャイアントウルフが有するスキル――〈追跡〉の奪取に成功しました》
お、思わぬ所で新スキルGET!?




