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第4話  敗走、気絶、瀕死!


 ぷかぷかと浮遊感を覚えながら、俺はハッと目覚めた。

 こ、ここはどこだ!?

 さっきのシーラカンスはどうなった!?


深淵古魚竜ニル・シーラカンスからの逃走に成功しました》


 脳内に人工音声が響く。

 もはや安心感を抱きつつある、〈知者の導き〉スキルことアドバイザーさんだ。


 その言葉に、俺は胸を撫で下ろした。


「ぷくぷくぅ~」


 何とかシーラカンスから逃げることができたようだ。

〈瞬転〉をフルスロットルで発動させてギリギリあのブレス攻撃を回避できたから助かった。

 だが、ブレスによって発生した激流までは対処しきれずどこかへ流されていって……そこから先の記憶がない。

 あれ、俺はどうなっていたんだ?


《マスターは先ほどまで軽度の気絶状態になっていましたので、記憶が錯誤しているものと思われます》


 き、気絶!?

 あの激流に呑まれて俺は気絶していたのか……!

 たしかに四方八方ランダムに体を揺さぶられ、回転させられ、平衡感覚もとっくに失ってしまっていた。

 あれなら気を失っても仕方ないよな。


 それじゃあ、今いるこの場所はどこなんだ?


《ここは『ニルの深淵』エリア、水深二一七〇三メートル地点です》


 水深二一七〇三メートルか。

 たしかさっきシーラカンスと遭遇した地点が水深二〇九九九メートルだったから……さらに深層に潜ってんじゃねぇか!?


「ぷくっ!!」


 さらなる深海の奥底に押し込まれた事実に驚愕した瞬間、体にズキン! と痛みが走った。

 い、痛ぇ……!

 と、突然なんなんだ……!?


深淵古魚竜ニル・シーラカンスのブレス攻撃の余波によるダメージを受けたことが原因だと推測します》


 ブ、ブレスの余波か。

 気絶しただけじゃなく、ダメージも負っていたんだな……!


《ステータスを確認しますか?》


 イエス。


 ――――――――――――――――――――

 名前:フグ(仮)

 種族:ノーマルパファー

 レベル:1

 HP:3/25

 MP:60/100


 物理攻撃力:100

 物理防御力:50

 魔法攻撃力:50

 魔法防御力:50

 敏捷性:20

 器用さ:50

 スタミナ:50


 スキル:鑑定、知者の導き、逃走Lv.1、高速遊泳Lv.1、瞬転しゅんてん


 スキルポイント:0


 称号:転生者、フグの加護

 ――――――――――――――――――――


「ぷくくっ!?」


 HPの項目を二度見、いや三度見する。

 HPの値が三しかないんだが!!

 これ明らかに瀕死だよな!?


 い、一応、希望的観測も込めて聞いておこう。

 このHPの数字がゼロになったらどうなるんだ?


《死亡します》


 ですよねー。

 たった五文字だっていうのに、すーんごいインパクト満載の返答ありがとうございます。


 あ、ちなみにもし俺がフグとして死んだらどうなるんだ?

 もう一回人生、いやフグ生を謳歌できるのか?


《その質問は現在のシステム権限では回答不能です》


 んん??

 回答不能だと。

 てっきり、不可能です、なんてピシャリと断言されるものと思っていたのに。

 だが、何となく良い返事ではないような気もする。

 当たり前だが、やはり命だいじに戦略を徹底し、死ぬことだけは絶対に避けねば。


 それで、HP回復したいんだけど、回復スキルとかないの?


《回復系統のスキルはありますが、現在マスターのスキルポイントがゼロのため取得が不可能です》


 そうだったーー!!

 俺ってば情報系と逃走系のスキルに全振りしちまったせいでもうスキルポイント残ってないんだった!


 そ、それじゃあ回復スキルを取得する以外の回復手段って何かないのか!?

 あ、もしくはスキルポイントをゲットできる方法でもいいんだが!


《スキルに頼らないHPの回復には、『捕食』と『レベルアップ』の二つの方法があります》


 捕食とレベルアップ?


《マスターが獲物を捕食することによって、僅かながらHPの回復が見込めます。ただし、HPを全快するには相当量の獲物を食らう必要があり、回復速度も緩やかであるため迅速な回復効果は期待できません》


 ううむ、なるほど。

 まあ捕食から回復するっていうのは、いわば肉体に備わっている自己修復機能で回復を行うってことか。

 捕食して外部からエネルギーを取り込み、そのエネルギーを使って体の傷の回復を促進させる的な。

 まあ、フグの肉体再生能力がどの程度のものなのかは知らんけど。


 じゃあレベルアップの方は?


《マスターが他生物を討伐することで経験値を獲得できます。蓄積された経験値が一定の基準値に達すると、マスターのレベルが上昇します》


 そう言えば、俺のステータス欄にも『レベル』の項目があったな。

 最弱フグである俺のレベルはもちろんいちだ。


《レベルアップを達成すると各種ステータス値の上昇、稀に新スキルの獲得が可能です。また、副次的な効果として自動的にHP/MPの全回復が行われます》


 マジか!

 レベルアップ最高やん!


 HPだけでなくMPも回復できるとは……!

 さっきは俺のHPばかり見てしまっていたが、MPの値も減っていた。

 あれは恐らく〈瞬転〉のスキルを発動したことによるMPの減少だろうが、MPが無くなれば緊急回避もできなくなるので結果的に俺は死ぬことになる。

 HPが最重要ではあるものの、MPもそれに匹敵するくらい超重要な指標だ。

 それら二つがレベルアップによって全回復できるとは、非常にありがたい!


 ……まあ、それはそれとして。

 ぶっちゃけアドバイザーの考えとしては捕食とレベルアップ、どっちが良いと思います?


《『ニルの深淵』エリアはレベル数百から数千の海魔が多数生息している世界屈指の危険地帯であるため、現状のマスターのステータス値で他生物を討伐するのは非常に困難であると推測します。そのため、捕食による回復がよりマスターの生存確率を高めるものと考えます》


 そうだよなぁ。

 海魔とやらがどういう生物たちなのかあんまり分かってないけど、さっきのシーラカンスを見た後だと戦う気なんて起きるわけがない。

 次にシーラカンスに遭遇したらもう生きては帰ってこれないと思うし。

 今回逃げられたのは、ビギナーズラックのようなものだと考えている。

 次はない。


 じゃあ消去法で捕食からの回復になるのかぁ。

 ん、ちょっと待てよ?

 捕食するにしても、結局他の海魔とやらを倒さないと食えないんじゃないのか?


《捕食はすでに死亡している生物を食らうことでも達成可能です。海魔に発見されないよう慎重に行動しながら、海魔の死骸を捜索することを提案します》


 つまり、スカベンジャールートってことですか。 

 フグの体に転生した上、瀕死である今の状態を鑑みれば四の五の言ってられないんだが、やはり人間であった頃の俺の心情的に動物の死骸を漁るってのは忌避感があるな……。

 とはいえ、背に腹は代えられない。

 魚の死骸を食うだけで助かるっていうなら、甘んじて受け入れよう。


《海魔の死骸を捕食するのであれば、海底付近を捜索するのが効率的であると推測します》


 死んだ大型生物とかは海底に沈んでいくからか。

 運が良ければおこぼれにあずかれるかもしれない。


 そんじゃあアドバイザーのアドバイスに従ってさらに下に潜ってみるとするか……。

 俺は体の痛みに気を遣いながら、ぱたぱたとヒレを動かして泳ぐ。


 キョロキョロと周囲を見回してみるが、相変わらず紺色の闇が広がっているばかりで何か特徴的な物体は見当たらない。

 今さらだけど、俺の視界はまるでどこかから淡い光が当たっているような感じで朧気ながら周囲が視認できる仕組みになってるんだよな。

 俺自身が発光してるわけじゃないんだが、不思議なものである。

 本来なら太陽の光なんて一切届かないはずの場所なんだが、これもフグの力なんだろうか?

 全く、この異世界といいフグといい、疑問符ばかりが募っていく。


 そのまましばらく拙い泳ぎで斜め下に進んでいると、突如脳内に声が響いた。


《頭上から落下物の飛来を確認しました》


 なにっ!

 早速、生存競争に敗れた海魔の死骸が降ってきたのか!?


 俺は急いで顔を上げる。

 気を抜くと上下感覚がなくなりそうなくらい辺り一面に闇しかないが、上からかすかな気泡と共に物体がゆっくりと落下してきていた。

 その輪郭がはっきりしてきたところで、鑑定が自動発動する。


 ――――――――――――――――――――

 名前:深淵触手貝ニル・アンモナイト


【鑑定が無効化されました】

 ――――――――――――――――――――


「ぷくぅ!?」


 お、おいおい嘘だろ!

 まさか新手の海魔か!?


「……ィ…………ギィィ……」


 闇から徐々に姿を現したのは、大きなうずまき型の貝から幾本の触手を遊ばせる誰しも一度は見たことがある古代生物――アンモナイトだった。

 しかし、様子がおかしい。

 アンモナイトはぶくぶくと空気を漏らしているだけでなく、赤黒い液体も海水に滲ませていた。


 俺は眉をひそめる代わりに、口をすぼめた。

 脳裏に一つの可能性が浮かぶ。


 もしかしてあのアンモナイト……死にかけてんじゃね?



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