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フグに転生したら勇者少女に飼われた件  作者: 空戯ケイ
第5章  次なる一手

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第43話  目的地までの道程


 ――俺たちは、中央会議場を出た。


 ふわっとした潮風が吹いている。

 土と草が所々に生える不十分に舗装された道を歩き、ラスキアがぶっきらぼうに告げる。


「エレナ。さっき言ってたことなんだけどよ。……【氷の勇者】に会いに行くってのはマジか?」


 エレナは頷いた。


「うん。『孤島攻略』は私たちだけの力じゃ足りないから。絶対に他の『勇者』の協力が必要。その中でも、【氷の勇者】の魔法が必要なんだ」

「【氷の勇者】、ねぇ。あの出不精の勇者がアタシらと会ってくれんのかよ。ましてやアポなしで」

「分からないけど、行ってみないことには進展しないし」

「つーかよぉ、孤島を支配するだけならそこのぷっくんに任せればいいんじゃねぇのか? 孤島くらいの距離ならすぐに泳いでいけんだろ?」

「ぷくっ?」


 え、俺?

 まあその孤島とやらがどれくらい離れてるか知らないが、まあ超深海から海上まで二十キロ以上の修羅の道を潜り抜けてきた俺からしたら、ただ海面を泳いでいくだけならヌルいが。


 エレナの隣でふよふよと浮く水槽の中でじっと収まりながら、ラスキアの視線を受ける。

 が、エレナは静かに首を振った。


「たしかにぷっくんなら孤島までは楽に行けるだろうし、そこらの海魔には遅れを取ることはないだろうけど、それじゃあ"安全な航路"の確保に繋がりにくい」

「……あー、本来の目的はそっちだったな。島を拠点化して軍備を整えることで、魔境の前線を徐々にこの漁村から遠ざける形で押し上げる、だったか?」

「そう。もし孤島から攻撃を出来たり、そこに戦力が常駐するような構図が取れれば、半魚人魔の上陸ももう少し楽に防げたと思う。ただ、半魚人魔のボス個体レベルになるとあんまり意味はなさそうだけど……」

「じゃあどうするんだ? 海魔の侵攻に対してはある程度効くかもしれないが、規格外の化物相手じゃいまひとつだろ。それこそ……『魔族』とかよ」


 ラスキアの雰囲気が一瞬、変容する。

 黒い瘴気のようなドロドロとした暗いオーラが滲んだ気がするが、その不穏な空気はすぐに消えてなくなる。

 エレナはあまり気付いた様子はなさそうだが、神妙な面持ちを浮かべる。


「規格外の海魔や魔族の出現には、聖属性魔法による防御結界を張ってもらえば何とか対応できると思う。特に神聖教会が誇る防御系の魔法は群を抜いた防御力を有してるから」

「そいつらを、国王に交渉して寄越してもらおうって寸法か。でも、望み薄なんだろ?」 

「そう、だね」


 エレナは静かに視線を落とし、静かに、しかしはっきりと芯の通った意思を宿した声色で告げる。


「だからもしも、国王陛下に却下されたら……その時は『神寵聖騎士ゴッドパラディン』の方に嘆願するつもり」


 その発言に、今度こそラスキアは戦いた。


「『神寵聖騎士ゴッドパラディン』って……まさかこの海を守ってるミシェルっていうやつか!? あいつは冷酷で有名なやつだぞ!? 話なんて取り合ってもらえるわけねぇ!」


 声を荒らげるラスキアに、エレナは無言で頷く。

 そして歩みを止めることなく、港を眺めるようにして目的地へと向かう。


「……うん、分かってる。だから、ベストは国王陛下に了承して貰って、戦力を分けて貰うのが良いと思ってるよ。そのためにも、まずは『孤島攻略』! さらに『孤島攻略』のために、一人目の協力者である【氷の勇者】と話をつけないと!」


 てか、ちょくちょく出てくる『神寵聖騎士ゴッドパラディン』って何者なんだ?


《『神寵聖騎士ゴッドパラディン』は、神聖教会が誇る秘奥の者らの集まりを総称した肩書きです。まさに、人類の切り札と呼べるだけの超人的な能力を宿す聖人の中の聖人でしょう》


 あー、そういや"生まれながらにして神に愛された寵児がいる"……みたいなこと前にチラッと言ってたっけ?

 もしかして、そいつらのことか?


《はい。主に『聖人』と呼ばれる者は神からの祝福を受けた者として神聖教会に重宝されるのですが、その中でも『神寵聖騎士ゴッドパラディン』は別格です。その強さは、『勇者』を凌ぐと言われています》


 え、勇者より強いんか!?

 人間って勇者以外にも戦力持ってたのかよ!

 てっきり、勇者VS魔王、みたいな構図で戦ってるのかと思ってたんだが、意外と人類にも勝機があるのだろうか?


《そして、これはあくまでも推測の域を出ないのですが》


 ん? どうした?

 アドバイザーにしては珍しい、もったいぶった口振り。


 なんかちょっと身構える。


《『神寵聖騎士ゴッドパラディン』のような特殊な肩書きを有する者には、『転生者』らしき特徴を持つ者が少数ながら現れます》


 な、なんだってーーーっっ!!?


 え、マジで!?

 その『神寵聖騎士ゴッドパラディン』に日本人がいんのか!?


《確定ではありません。あくまでも可能性の話であり、その確率は低いでしょう。加えて、仮に『転生者』であったとしてもマスターに対して友好的な感情を抱くかどうかは別問題ですので、細心の注意が必要です》


 そ、そうだな。

 ついテンション高めに話しかけて、海魔として処理されたら本末転倒だ。


 しかも勇者より強いって……この世界の勇者はエレナとゼインしか知らないから何とも言えないが、普通にめちゃ強な可能性がある。

 ちなみに、『神寵聖騎士ゴッドパラディン』って、半魚人魔帝エンペラーマーマンとサシで戦って勝てる??


《あのレベル帯の海魔であれば、余裕の完勝かと》


 わーお。

神寵聖騎士ゴッドパラディン』様、つっよ~い……!!


 てことは、今の俺じゃ殺そうと思われたらマジの瞬殺だな。

 よし。

神寵聖騎士ゴッドパラディン』の奴を探るのは、今よりももっともっとうーんと強くなってからにしよう。

 そうしよう。


 俺がそっと『神寵聖騎士ゴッドパラディン』から距離を置いていると、ラスキアが無造作に頭を掻いた。


「……ま、どっちにしろエレナの言うとおりアタシらのやることは変わらねぇし、今からんなこと考えてても意味ねぇか」

「だね! ラスキアにもすっごく期待してるよ!」

「ぷくぷく」


 適当に返事をしていると、ラスキアが不意に俺に視線を向けてきた。

 なにか探るような、糾弾するような、ジト目である。


「……つーか、今さらだがはっきりしとかなきゃいけねぇことがあるよな」

「? どうしたのラスキア?」

「ぷく?」


 突然意味深なセリフを吐き出したラスキアに、俺とエレナは頭をかしげる。

 と、ラスキアは俺にビシッと指をさしてきた。


「ぷっくん、お前……あの巨大海魔が出現した時、エレナの制止を無視して突っ込んでいったよなぁ! テイムが成功してるなら主人の命令は絶対なハズなんだが、あれはどういうことだァ!!」

「ぷくくっ!?」


 ラスキアが俺にがなった。

 言われて、思い出す。

 半魚人魔帝エンペラーマーマンの元に一匹ひとりで向かった時のこと――――エレナを置いて一人で海に潜っていった自らの独断専行を。


「ぷ、ぷくぷく~」


 ラスキアからそっと目を逸らす。


 い、一応言い訳をさせてもらうと、あの時はたしかにエレナの気持ちを無視して『滅びの呪海』に突っ込んで行ってしまったが、エレナから直接"海に行くな"というような命令は受けていない!!

 ………………はず。


 ラスキアから離れるように水槽を浮遊させ、エレナの背後に隠れる。


「あ、おいぷっくん! 逃げてんじゃねぇ!」

「ぷくぷくぅ~!」


 ガシッ! とラスキアに水槽をキャッチされた。

 金魚鉢みたいな楕円形の水槽を両手で掴まれ、ラスキアの筋肉がうなる。

 ミシミシとガラスから不穏な音が響いてくる。


 ちょおおおおおい!

 タンマタンマ!!

 そんなに力入れたら水槽が粉砕しちまうって!?


 狭い水槽の中でバタバタとヒレを動かし逃れようと泳ぐフグに、ラスキアがずいっと顔を近付けた。


「おい、テメェよぉ……まさかとは思うが、エレナのテイムが効いてないんじゃ――――」

「ぷ、ぷくぅ!?」


 や、やばい!

 ラスキアがほぼ真相に辿り着いてしまう――!


「そんなことないよっ! ぷっくんはちゃんと私の使い魔になってるもん! だからそんなにぷっくんをイジメないで!!」

「ぷく!」

「あ、エレナ!」


 エレナがラスキアから水槽を掠め取った。

 俺の平穏が再来する。

 や、やっぱり頼りになるぜ俺のご主人様は!!


「……エレナ。だが、この前のぷっくんの行動はどう説明を……」

「あ、あれはきっと私たちを助けてくれようして、ぷっくんが契約の壁を超えて行っちゃったんだよ! これは凄いことだよ! 素晴らしいことだよ! 実際、ぷっくんのおかげで私たちも、この村も助かったでしょ? それに、ちゃんと海魔を倒した後は私の元に帰ってきてくれて、今もこうしてずっと水槽の中で大人しくしてるじゃない!」

「…………うぅん」


 ラスキアは何とも言えない表情で黙る。

 エレナの言うことにも一理あるからな!

 本当に俺が謀反を起こしていたなら、とっくにエレナの元から離れて大自然の大海原に帰ってることだろうよ!

 ま、俺はあの海で一生を過ごす気は毛頭ないから、今後も是が非でもエレナに着いていくけどな!


「それに、ぷっくんが危険な真似したことは、海魔を倒した海の上でちゃんと注意しておいたから! 私は飼い主として、ちゃんとぷっくんに躾もしてるんだからね!」


 十代半ばの少女に躾される二十代半ばの元社畜。

 あかんあかん。

 文字起こししたら犯罪臭しかせんわ。


「……こいつにそんな躾なんて聞くのかねぇ? 今もふてぶてしい顔してアタシらを見下してんじゃねぇのか?」

「ぷくぷく」


 この顔は生まれつきだ。

 フグのふてぶてしさはどうすることもできない。


「とにかく、ぷっくんは私がちゃんと見てるから大丈夫! それに今度からは私もぷっくんと一緒に戦うって決めたから!」


 本来、エレナみたいな回復役は後方支援が定石なんだがな。

 勇者としての宿命なのか、エレナ生来の気性なのかは分からないが、この少女はやたらと前線にやって来たがる。


「ううむ……しかしなぁ……」


 ぶつぶつと呟き、いまいち納得しきれていないラスキアだったが、彼女の意識を逸らすように、エレナが海岸線の一角を指差した。


「あ、見てラスキア! 【氷の勇者】が住んでる『灯台』が見えてきたよ!」


 エレナが指し示した先。

 そこには、海岸線の端の堤防のような岩肌が目立つ天然の足場に聳える、一棟の()()()()()()()()()


 巨大な『氷の灯台』が、"海の魔境"を睥睨するように海岸の端に屹立していた。





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