第41話 今後の方針
ラスキアに連れられ、俺とエレナは村の中央会議場前までやって来た。
ちなみに俺は移動用の小さな水槽に移され、エレナの隣でふよふよと空中浮遊している。
俺のエクストラスキル〈水属性の大器〉を使用し、水槽内の水の塊を操ることで水槽ごと空中浮遊することに成功したのだ。
これを使えばぶっちゃけ水槽は不要なんだが、そこはまあ、雰囲気である。
中央会議場の入り口をくぐり、静かな廊下をカツカツと歩く。
エレナがおもむろに口を開いた。
「ねぇ、ラスキア。ダーベ村長との話し合いは、明後日の日取りじゃなかったの?」
「ああ、港の復興に時間がかかりそうだったからな。だが、もう港は大丈夫だ。すっかり元通り……とはいかねぇが、通常作業が出来るくらいには処理は完了したからよ」
「え、もう復興作業は終わったの!?」
「ああ、アタシが朝の鍛練で剣の素振りしてたら、もうちょっとで村の奴らの作業が終わりそうだったからよ。ついでってことでアタシも参加して爆速で終わらせてきてやったぜ! ま、後はもう瓦礫や破壊された船なんかの撤去っていう力作業だけだったしな!」
重労働はアタシに任せろ! と宣言して、美しく鍛えらた上腕二頭筋を叩く。
その鍛えあげられた肉体美、惚れ惚れしちゃうね。
エレナは苦笑しつつ、公民館のような造りの会議場――最奥の扉の前に到着。
そういやここ、あのゼインに呼び出された場所と同じだな。
バカ勇者&アホ貴族の肩書きを併せ持つポンコツ野郎だ。
それでいてプライドだけはエベレスト級に高いから、俺たちもアイツの従者も苦労させられる。
つーか、エレナを攻撃したことはまだ忘れてねぇし許してもねぇからな。
もし扉の先にゼインがいたらもう一発殴ってやろうかな。
「じゃ、入るぞ」
ラスキアが大きな扉を開ける。
ギギギィィ……、と軋みながら開かれた空間の先には――
「……おお! これは勇者様! お待ちしておりましたぞ!」
ヨボヨボの爺さんが曲がった腰に手を当てながら、エレナを歓迎する。
エレナは礼儀正しく頭を下げた。
「ダ、ダーベ村長! 本日はお時間をいただき、ありがとうございます!」
「勇者様、どうぞ頭をお上げください! 勇者様は、この村の救世主なのですから、我らに気を遣う必要はありませんぞ!」
その村長の言葉に、室内の他の住人たちが賛同の言葉を述べる。
どうやら会議場にいるのはダーベ村長だけではないらしい。
服装からして……他の者たちは村人たちだろうか。
あまり戦闘系の衣装をまとった人間はいない。
勇者や、その従者は不在か……?
「ぷくぷく」
キョロキョロと確認してみるが、ゼインもいないようだった。
まあ、アイツ半魚人魔帝の姿を見て無様に逃げ出したからな。
それはアイツの従者も同じだが。
「それで、ダーベ村長。今回のお話というのは……」
エレナとラスキアは会議場のテーブルに向かい、席に腰を下ろす。
俺もエレナの傍のテーブルの上にゆっくりと降り、ゴトンと水槽を乗っけた。
本題を切り出したエレナに、ダーベ村長はやや唸るように口ごもった後、続けた。
「突然お呼び立てしまい申し訳ありません。議題としましては、勇者様と同じものかと思うのですが……」
ダーベ村長が傍らの若い男に視線を向ける。
農民のような格好の男は頷いた後、用意していた地図をばさっと広げ、力強く告げる。
「村の防衛戦略と、今後の行動方針……具体的には海魔への対抗手段など。それらをぜひ、勇者様のご意見をいただきながら、話を進めていきたく思います!」
男が広げた地図は、結構大きかった。
横一メートル、縦五十センチくらいはあるだろうか。
いかにもファンタジー世界で見るような古びた地図で、さすがに日本で見るレベルで精巧な作りではない。
最低限、国土や海の位置関係、大まかな海岸線、あとは森や川、付近の街などが描かれている。
自らの正面に広げられたその地図を見下ろすエレナは、やがて村長に目を向ける。
「……やっぱり、ダーベ村長もお考えになられてたんですね」
「はい。あの半魚人魔のボス個体が村に現れた以上、もはや見過ごすことはできませぬ。今までは海魔や魔族の侵攻はなく、村にいれば安全だったということからどこか見て見ぬフリをしていたのです。今回の事件は、その我らの甘さと弱さが招いた結果。死者が出なかったのは、勇者様がいてくださったから以外の何物でもありません」
ゆえに! と村長は嗄れた声を響かせる。
「我らはもう逃げませぬ! 戦闘では大した役に立てずとも、他の何かで……我らの出来ることを最大限に行うことで! 皆でこの村を守っていきたいのです!」
「ダーベ村長……」
「爺さん……」
ダーベ村長の言葉に、他の数人の村人たちも覚悟を宿した瞳で頷く。
彼らの反応にエレナとラスキアが感動するように目頭を熱くさせた。
エレナは強く頷いた後、言った。
「分かりました。私もこの村の今後……特に海魔への対抗するための作戦を色々と考えていたところです。私たちに、力を貸してください!」
「もちろんですとも、勇者様!」
強く結ばれる、連帯感。
【失格勇者】であるからといって避けられていた、以前までのエレナとは大違いだ。
それだけ村人たちにとってはエレナが英雄視されているということか。
「で、エレナ。その考えてた作戦ってのは何なんだ? つーか、そんなことアタシ聞いてねぇんだが、一人で考え込んでたのか?」
「ご、ごめん。海魔への対処法自体は前々からずっと考えてて、一つアイディアはあったんだけど、それを実現する力が私にはなかったから。でも……」
エレナは不意に、俺に視線を移す。
「ぷっくんがいてくれたら、私が考えていた作戦も実行できるかもしれない!」
本当は明後日の会議で提案しようと思ってたんだけど、と付け加えて微笑む。
「『滅びの呪海』を突破するには、どうやったって海を渡らなきゃいけない」
そして、エレナがテーブルに広げられた地図の一つを指し示した。
細い指先の先端に描かれているのは、この漁村から程近い位置に存在する、小さな島。
「だからまずはその第一歩として、手近な島を私たちの手で落とす」
「「「――っ!?」」」
この場の全員が息を呑んだ。
エレナは静かに、しかし堂々と意思を宿した声音で宣言する。
「端的に言うなら――――『孤島攻略』ですっ!」




