表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フグに転生したら勇者少女に飼われた件  作者: 空戯ケイ
第5章  次なる一手

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/63

第40話  エレナの部屋でまったりフグ生活


 ――――朝。


 漁港から鈍く響く船の駆動音と、外から漏れてくる村人たちの活気のある声。

 その声を水槽の真ん中、凸凹した岩の隙間に身を寄せながらぼんやりと聞く。

 すると、この部屋の片隅から大きなケースを引っ張り出してきた一人の少女が溌剌な笑顔で俺の目の前に現れた。


「ぷっく~ん! 今日の朝ご飯だよ~!!」


 エレナはご機嫌な様子でケースの中から漁獲用のエサを手にする。

 俺は短く答えた。


「ぷくぷく」


 ――半魚人魔帝エンペラーマーマン討伐から数日が経過。

 色々と後始末でバタバタとしていたが、それもようやく落ち着いてきたところだ。

 ここ最近エレナは働きっぱなしだったのにも関わらず、港の修復と半魚人魔の死体処理の傍らで、フグが食べられそうなエサも漁師に聞いて回ってくれていたのだった。


 以前はエレナに対して否定的だった村人たちも、先の半魚人魔帝エンペラーマーマン撃退の功労者であるエレナを『勇者』として認め、前よりも好意的に接してくれるようになったそうだ。

 そこで漁師から使っているエサを全種類譲ってもらい、それを片っ端から俺のジャッジを仰ぎ、フグのご飯が決定した。


 俺が首を縦に振ったエサは、主にエビと貝類、それに魚の切り身などである。

 虫系やそれに類するようなエサ――ユムシ、イソメなど――は断固拒否させてもらった。

 体はフグでも心は人間なので、ガチの魚よろしく芋虫などをガツガツ貪る気は起きない。

 多少空腹でもノーサンキューだ!


「はーい、ぷっくんたんとお食べ~!」


 エレナが水槽の上から投入する小さなエビ。

 ふよふよと水槽の底に落下してくるその小エビを、俺はぱくっと吸い込んだ。


「わあ! 食べた食べた! どう、ぷっくん! 美味しい!?」

「ぷくぷく!」

「良かったぁ! ご飯はまだまだあるから、いっぱい食べてね~!」


 エレナはご機嫌にエビをたくさん投入してくれる。 

 ぶっちゃけそこまで腹ペコってわけでもないんだが、水槽のガラス越しにこんな嬉しそうな満面の笑みを見せられては、エビを残すことはできない。


 そうしてしばらくエレナの朝ごはんを楽しんでいると、不意に彼女の手が止まった。


「あ、もうそろそろ止めた方がいいかな……? たしか、あんまりご飯をあげすぎるのも良くないんだよね。この前ラスキアにも注意されたばっかりだし……」


 エレナはフグのことになると盲目的になる一面があり、少々甘やかし過ぎな部分がある。

 まあ俺の体は特別製なのか、めちゃくちゃ食っても腹に入るから問題はないんだが。

 自分の体の何十倍、何百倍もありそうな海魔も完食してきたからな。


「一旦、今回はこれまでね! またお昼にご飯あげるから、それまで待ってて!」

「ぷくっ」


 エレナからのエサやりタイムが終了し、俺はアクアリウム内の岩の隙間に身を寄せる。 

 やっぱ何か壁のようなものがあると落ち着くな。

 この隙間はすっかり俺の定位置と化し、お気に入りの寝ぐらとなっている。


 そうして岩影でじっとして休んでいる俺を破顔したエレナがしばらく眺めている。

 こうしてエレナに見つめられるのにもだいぶ慣れてきた。

 最初はドキマギしたものだが、人もフグも環境には慣れるものらしい。


「あ、たしか今日は朝から海魔処理の最終作業があるんだったっけ。作業開始の時間は……もうすぐか」


 エレナは時計を眺め、残念そうに眉を曲げる。


「ごめんね、ぷっくん。私、ちょっと用意しないといけないからあんまり遊んであげられなくて」

「ぷくぷく」


 気にするな。

 俺はこうして一匹ひとりでじっとしてるだけで良いからな。

 つーか、これまで色々とバタバタし過ぎだったからちょっと心を落ち着けたいくらいである。

 死闘の末、半魚人魔帝エンペラーマーマンを倒したこともそうだが、その後の処理も結構手伝ったからな。

 重労働も多く少し疲れたが、それでもエレナの使い魔として村人たちにうっすらと周知されたのは良かった。

 今後俺を見かけても驚いて襲いかかってくるような村人はいないだろう。


 エレナが部屋の端に向かい、荷物のチェックなどをし始めた。

 誰もいなくなった水槽越しの世界で、俺はもう一人の『相棒』を呼んだ。


 やあやあ、アドバイザー!

 元気かい!?


《何かご用でしょうか》


 無機質なAIじみた返答が帰ってきた。

 一見すると心が籠っていない淡白な回答に聞こえるが、俺はアドバイザーに全幅の信頼を置いている。


 久しぶりに今は暇だし、ちょっとステータスのチェックをしたいんだけど、いいっすか?


《かしこまりました。現在のマスターのステータスを開示します》


 ――――――――――――――――――――

 名前:ぷっくん

 種族:バルーンパファー

 レベル:90

 HP:4904/4904

 MP:10999/10999


 物理攻撃力:12034

 物理防御力:6947

 魔法攻撃力:8915

 魔法防御力:7018

 敏捷性:6127(+1000【種族補正】)

 器用さ:6355

 スタミナ:6832


 種族スキル:旋風力せんぷうりき

 ユニークスキル:異種変形メタモルフォーゼ

 エクストラスキル:咬撃こうげき、水属性の大器、毒属性の大器、思念伝達、奪食だっしょく、言語翻訳、陸上呼吸、瀕死覚醒、起死回生

 スキル:鑑定、知者の導き、逃走Lv.4、高速遊泳Lv.6、瞬転しゅんてん探索サーチ、暗視、忍耐Lv.1、浮遊術Lv.1


 スキルポイント:450


 称号:転生者、フグの加護、特異成長、格上殺し(ジャイアントキリング)幼体特攻ベイビーキラー、暴君、不屈の闘志

 ――――――――――――――――――――


 ズラリ、と俺のステータス画面が表示される。

 フグに転生した当初はスカスカのステータスだった気もするが、今では随分とごちゃごちゃとしてきたもんだ。

 自分が強くなったことを示すスキルがずらっと並べられ、若干の感動を覚えながら俺は一つずつ確認していく。


「ぷくぷく~」


 主にチェックするのは、半魚人魔帝エンペラーマーマンを倒した時に追加で獲得したスキルやら称号やらだ。

 チラッと確認するだけに留まっていたこれらを、いま改めてしっかりと把握しようと思う。


 アドバイザー、半魚人魔帝エンペラーマーマンを倒した時にゲットしたスキルやら称号やらを一覧で説明してくれ!


《かしこまりました。まずはエクストラスキルを表示します》


 無視質な答えの直後、ステータス画面の上から被さるように小型のウィンドウ画面が複数展開される。


《〈瀕死覚醒〉:残存HPが総HPの5%を下回った際、ステータス値が上昇する。以降、HPが減少するごとにステータス値の上昇割合が増加する》

《〈起死回生〉:残存HPが総HPの5%を下回った際、スキル強度が大幅に上昇する。以降、HPが減少するごとにスキル強度の上昇割合が増加する》


 おお、なにやら凄そうなスキル……だが、どっちも効果が似てるな。

 要約すれば、どちらも俺が瀕死になった時に発動するスキルっぽい。

 まあ、半魚人魔帝エンペラーマーマンは死ぬギリギリで倒したから、こういうエクストラスキルを獲得したのかもしれない。


 てか、〈起死回生〉の方に出てる『スキル強度』ってなんなん?


《『スキル強度』とは、スキルが有する地力を表します。本来、スキル効果というものは扱う個体によって有意に差は生じません。それはスキルごとに『強度』が定められているからであり、あらゆるスキルはこの『強度』の範囲内でスキル効果を発揮します》


 ……つまり、その『スキル強度』を上昇するってことは、同じ攻撃でも威力が上がったりするということか?


《攻撃系スキルであればご認識の通りです。防御系スキルであれば防御性能が、回復系スキルであれば回復能力が、デバフ系スキルであればデバフ効果が、『スキル強度』を上昇させることによってそれぞれ有意に増加します》


 なるほど。

 例えるなら同じパンチを繰り出したとしても、『スキル強度』によってそのパンチの威力はある程度の範囲内で定まっているようなものか。

 人によって差はあれど、人間が打ち出すパンチの威力は上限値が定まっているだろう。

 しかし、ゴリラが放つパンチであれば人間の何倍もの威力を軽々と繰り出すことができる。

 これは生物的な肉体の造りの違いによって生じる差だが、このスキル版が『スキル強度』という概念だ。

 いわば、『スキル強度』が上昇することで人間であったとしてもゴリラのようなパンチを出すことができる、的な理解だと分かりやすいだろう。


 ……そういや、半魚人魔帝エンペラーマーマンが〈肉体再生〉のスキルを使って分裂した時も、通常よりもスキル効果が上昇してる可能性があるとかアドバイザーが言ってたな。

 あれはこの『スキル強度』という概念が深く関係していた指摘だったのかもしれない。

 まあ、あの時は戦闘で手一杯で熟考する余裕なんてなかったが。


 よし、そんじゃあ次は普通のスキルの方の解説を頼む!


《〈忍耐Lv.1〉:攻撃を堪え忍ぶスキル。防御に専念することで、HPの減少率が微減する》

《〈浮遊術Lv.1〉:空中における浮遊移動能力が上昇する》


 そうそう、たしかこの二つだったな。

〈忍耐Lv.1〉は使えそうだな。

 まだLv.1だからそう大した力は発揮されないかもしれないが、これからスキルレベルを上げて育てていけば強いスキルに化けるかも。


 ただ、問題はもう一個のスキルだ。

 なんかこれだけ場違いじゃないです?

 これ海魔が持ってるスキルか?


《〈浮遊術Lv.1〉は、主に鳥類系の魔物が有するスキルです》


 いや、わしフグなんですけど。

 このスキルを獲得した理由は、恐らく俺が半魚人魔帝エンペラーマーマンの〈殲水魔法〉の直撃を受けて上空遥か高くまで吹き飛ばされたからだろう。

 空から落下しながら半魚人魔帝エンペラーマーマンにトドメを刺して討伐したことでゲットしたスキルだ。


 ただ、見上げるべき対象である雄大な空を滑空する鳥が持つスキルを持ってても、使い道なくね?

 フグは空を飛べないぜ?


 ……まあいいや。

 最後は『称号』かな?

 たしかこれも何かあったと思うから、いっちょ解説頼むぜ!


《〈不屈の闘志〉:残存HPが総HPの5%を下回り、かつその状態で即死攻撃を食らった際、HP1で復活することができる。ただし、同じ対象には一度しか〈不屈の闘志〉の称号効果を発動させることはできない》


「――――ぷくぷくぅぅううううっ!!?」


 えええええええええええっ!!?

 マ、マジでぇぇえええええええええええ!!?


 思わずウィンドウ画面を二度見、いや三度見する。

 あまりの驚きの拍子に、ゴンッ! と頭を岩にぶつけたが、その痛みも気にならない!


「ぷっくん?」


 水槽からの鈍い音にエレナが反応したが、今はエレナの反応も耳に入らない。


 こ、この効果って、つまりHPがゼロになっても復活できるってことだよな!?


《はい。ただし、同じ対象には一度しか〈不屈の闘志〉を発動できませんので、注意してください》


 そ、そうだな。

 少し冷静にならないと。

 称号効果のデメリット面もしっかり把握する必要がある。


 同じ対象に一度まで、ということは、二回以上即死系の攻撃を同じ敵から食らうとアウトってことか。

 それに〈不屈の闘志〉の発動条件が"残存HPが総HPの5%を下回る"ことだから、HPが余ってる状態で即死攻撃を食らったら一撃お陀仏ということだ。


「ぷくぷく~」


 俺は少し落ち着きを取り戻し、ステータス画面の下部を見る。

 そこには、『スキルポイント』の項目と、四五〇という数字。


 このスキルポイントも新たに獲得したもので、大事に使わないといけないな。

 ちょっと自分でも回復する系のスキルとか持っておいた方が良いかもしれないが……まあおいおい考えていこう。


 そういや、半魚人魔帝エンペラーマーマンなんていう超強大な敵を倒したんだから、アンモナイト先輩を打倒した時みたいに新しい種族に進化できるかと思ったが、今回は不発だったな。


《種族進化は、一定レベルに到達した場合と特殊条件を達成した場合のいずれかで発生します》


 一定レベルって、いくつくらいなん?


《次回の種族進化を果たすレベルは、『百レベル』です》


 百レベル!

 三桁の大台だな。

 そのレベルを突破したら、新たな種族に進化を果たせるということか。

 現状だと初期状態の『ノーマルパファー』と、敏捷性アップと風属性スキルに長けた能力を持つ『バルーンパファー』の二種類の種族を保有している。

 が、ぶっちゃけ『ノーマルパファー』に特殊能力のようなものはないので、消去法的に『バルーンパファー』モードでずっといる状態だ。

 これも使える種族ではあるんだが、その他にも種族ストックがあると嬉しい。

 なにせ俺にはユニークスキルの〈異種変形メタモルフォーゼ〉があるからな。

 一度獲得した種族を自由に切り替えることができるのだ。


「ぷくぷく~」


 これでステータス確認は終了だ。

 大雑把にだが、ある程度は把握できた。

 あとは実戦で使ってみて、って感じだな。


「……ぷくぅ」


 俺は岩影に収まりながらヒレを動かし深呼吸する。

 お腹の下にサラサラとした砂を感じ、視界の角にゆらゆらと揺れる水草のダンスを収めつつ、エレナの私室の壁を眺める。


 振り返るのは、これまでのフグの軌跡。


 そういや俺、格上と戦う時はいっつもギリギリの戦闘してたもんなぁ。

 俺の辞書には、格上と戦闘になった時には敗走か辛勝のどちらかしかない。


 できればもうあんな命を張った勝負はしたくないぞ。

 いや、マジで。


 だが……。


「――ぷく?」


 俺は岩肌から身を出し、部屋の端で荷物を詰め込むエレナを覗き見る。

 エレナは『勇者』として人々を救うため、そして脅威となる海魔を屠るためにこの漁村に派遣された。

 非常に強い正義感と自己犠牲精神を持ち合わせていて、このまま行けばいずれ彼女は海魔よりももっと恐ろしい存在と対峙することになるだろう。

 それが彼女の『運命』といえる。

 そんなエレナのペットになり、彼女に着いていくと決めた以上、その『運命』の余波から俺も逃れられない。


 つまり、俺たちはこれから先、半魚人魔帝エンペラーマーマンよりももっと凶悪な敵を相手にする可能性が高いのだ。


「ぷくくっ!」


 ――だが、今はあまり深く考えないでおこう。


 ここ数日は港の復興に精を出したものの、村は以前よりも活気づいているように見える。

 これも、勇者エレナの功績だ。


「それにしても、ラスキア遅いなぁ。朝の鍛練に出掛けたっきり、まだ帰ってこないし。もしかして、先に港の方に行っちゃったのかなぁ?」


 エレナが困ったような顔で時計を見上げる。

 その瞬間。


 ――――バァン! と扉が開いた。


「ひゃう!?」

「ぷくっ!?」


 俺とエレナは同時に体を跳ねさせる。

 な、なんだぁ!?

 ビックリしたな!


 音が聞こえたのは、玄関の方だ。

 エレナの私室は一階にあるので、玄関から生じた音が廊下を抜けてこの部屋まで響いてくる。

 そして、ドタドタと慌ただしい足取りで一人の人物が入ってくる。


「エレナァ! エレナはいるかァ!!」


 荒々しい言動でエレナを呼ぶのは、仲間の女剣士ラスキア。

 露出度が高い服のおかげで小麦色に焼けた肌が露となっている。

 汗ばんだ体を震わせ、ラスキアはエレナの肩をガシッと掴む。


「村長が次の行動をエレナと考えたいって言ってたぞ! だから今すぐ、村の中央会議場まで来てくれ!!」


 ラスキアの言葉に、俺とエレナは「へ?」と頭を傾げた。



これから毎週月・金に投稿いたします!

引き続きよろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ