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フグに転生したら勇者少女に飼われた件  作者: 空戯ケイ
第4章  『帝王』の暴威

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第38話  フグと勇者の英雄譚


 数十メートル上空から、落下するフグ。


 その脳髄には火花のように弾ける、破壊的な快感が駆け抜けた。

 それこそが、クリティカルが発生したという紛れもない証拠だった。


 半魚人魔帝エンペラーマーマンは、魂の奥底から震え上がるような断末魔の叫びを放つ。

 衝撃波がフグの体を駆け抜け、半魚人魔帝エンペラーマーマンを中心として海面が小刻みに波立った。


「――……ギョァアアアアア、ギュギョ……ァァアアアアアアアアアア……アアアァァァァ……ッッ!!」


 半魚人魔帝エンペラーマーマンが喉を枯らし、体から徐々に力が抜けていく。

 そして、ぐらり……、とバランスを崩し、巨体が激しく海面に打ち付けた。


 ドババァァン!! と間欠泉のように大量の海水が打ち上げられる。


 海面まで残り数十メートルの距離を残しながら、俺の顔にも半魚人魔帝エンペラーマーマンが倒れた水飛沫がビチャチャとかかった。


 ――瞬間。

 俺の脳内で、無機質な音声が爆発する。


半魚人魔帝エンペラーマーマンの討伐を確認しました》

《経験値を獲得しました》

《マスターのレベルが八十一から九〇に上昇しました》 

《各種ステータス値が上昇しました》

《レベルアップにより、HP/MPが全回復しました》

《対象エレナによる付与魔法の効果が消失しました》

《条件を達成しました。称号〈不屈の闘志〉を獲得しました》

《条件を達成しました。エクストラスキル〈瀕死覚醒〉を獲得しました》

《条件を達成しました。エクストラスキル〈起死回生〉を獲得しました》

《条件を達成しました。スキル〈忍耐Lv.1〉を獲得しました》

《条件を達成しました。スキル〈浮遊術Lv.1〉を獲得しました》


 アドバイザーが次から次へと被せるように連続でアナウンスを投げつけてくる。

 ああ、この感覚懐かしいな。

 アンモナイト先輩をぶっ倒した時もこんな感じだったっけ。

 まあ、アンモナイト先輩を倒したのも昨日のことだけど。


 ビュォォオオオオオオオ、と風を感じながら落下中のフグの目の前にウィンドウが表示される。


 ――――――――――――――――――――

 名前:ぷっくん

 種族:バルーンパファー

 レベル:90

 HP:4904/4904

 MP:10999/10999


 物理攻撃力:12034

 物理防御力:6947

 魔法攻撃力:8915

 魔法防御力:7018

 敏捷性:6127(+1000【種族補正】)

 器用さ:6355

 スタミナ:6832


 種族スキル:旋風力せんぷうりき

 ユニークスキル:異種変形メタモルフォーゼ

 エクストラスキル:咬撃こうげき、水属性の大器、毒属性の大器、思念伝達、奪食だっしょく、言語翻訳、陸上呼吸、瀕死覚醒、起死回生

 スキル:鑑定、知者の導き、逃走Lv.4、高速遊泳Lv.6、瞬転しゅんてん探索サーチ、暗視、忍耐Lv.1、浮遊術Lv.1


 スキルポイント:450


 称号:転生者、フグの加護、特異成長、格上殺し(ジャイアントキリング)幼体特攻ベイビーキラー、暴君、不屈の闘志

 ――――――――――――――――――――


 おおおおおお!!

 すごいっ!!

 ついにレベルが九〇に到達し、なんか色々とスキルやら称号やらが追加されている!!


 後でステータスを確認しないとな! ……なーんて張りきっていると、体中に刻まれた痛々しい傷跡がみるみる内に治癒していった。

 痛みが瞬時に消えていき、死にかけていた奇妙な魚から一転、ピチピチのフグさんに様変わりする。


「ひゃあああああ!!」


 喜んでいたのも束の間、少女の悲鳴が海に響いた。

 目を向けてみると、戦闘の余波で破壊された中型船が大きな波に煽られて今にも転覆しそうになっている。

 あの津波のような海のうねりは、半魚人魔帝エンペラーマーマンが倒れたことによって発生したものだ。


「ぷくぅぅううううう!!」


 不味い!

 あのままだとエレナが海に落ちる!


 俺はステータス画面を閉じ、〈旋風力せんぷうりき〉で風属性スキルを展開。

 落下している俺の背中を押すようにさらに強力な追い風を吹かせ、空中を素早く泳いで彗星のごとくエレナの元に直行する。


「――ひゃ!」


 ついに、エレナが耐えきれず、しがみついていた船の手すりから手を離してしまった。

 直後、巨大な海流が発生した『滅びの呪海』に、真っ逆さまに転落していく。


 既視感。

 エレナが海に落ちるのは二度目だ。

 もっとも、彼女が落ちる様を天空から覗き見るのは初めてだが。


 だが、二度もエレナを溺れさせてたまるかッ!

 あんな苦しい思いはもうさせない!


 俺は弾丸のような速度で海に突っ込んでいく。


 そして。


 ――――ボチャァアアアアアアアアン!!


 激しい水飛沫が上がった。

 エレナが海に落下したのだ。


 ――が、少女が海の底に沈むことはない。


「……え、あれ。こ、これ……この、ぷにぷにした足場って、もしかしてぷっくんの背中……?」

「ぷくっ!」


 エレナが海に落下する寸前、俺が一瞬早く海に着水。

 ドボォン、と海の中に潜り、そこで瞬時に〈旋風力せんぷうりき〉を使って体内に空気を注入。

 爆発的な速度で空気を体内に収めた俺はボディが膨張し、少女一人が座るには十分な大きさのフグへと巨大化していた。

 例えるならちっちゃな浮島のような感じだ。

 ご主人様を背中に乗せるフグである。

 地球のフグじゃ真似できない芸当だが、異世界で進化を果たしたフグならばこれくらい容易だ。


「ぷっ、くん……? ぷっくん! し、死んでない!? 生きてるよね!? ああぁぁ良かったぁぁぁあああああ!!」


 エレナは自分が助かったことよりもまず先に俺の身の心配をし、無事を確かめるように背中に頬擦りした。

 つい一瞬前まで自分が海に落ちて溺れ死ぬかもしれなかったってのに、真っ先に出てくる言葉がそれとは……本当に根っから優しい少女だ。


 とはいえ、エレナのこの様子からしてだいぶ心配させてしまったみたいだな。

 俺は安心させるように鳴く。


「ぷくぷく~!」

「もう、ぷっくん! 勝手にひとりで突っ走ったらダメでしょ! さっきはあんなにボロボロになって……下手したら本当に死んじゃってたかもしれないんだよ!?」

「ぷ、ぷくぅ……」


 エレナに怒られた。

 まあ主人の許可も貰わず半魚人魔帝エンペラーマーマンに突っ込んでいったのは事実なので何も言えない。

 それにエレナが回復魔法をかけてくれなきゃ最後の半魚人魔帝エンペラーマーマンの一撃は耐えきれなかったからな。

 エレナには感謝してもしきれないよ。


「――でも、ぷっくんが無事で本当に良かった! 私たち、勝ったんだよね……?」

「ぷっくぅ!!」


 少し不安げに訊ねるエレナに、俺は自信満々に答える。

 安心してくれ!

 半魚人魔帝エンペラーマーマンは倒した!


 俺たちの勝利だ!!


「……ーぃ……おー、エ…………おーい! エレナー!!」


 不意に遠くから声が聞こえてくる。

 それと同時に船のエンジン音らしき振動も感じた。


 目を向けてみると、港の方から船に乗ったラスキアが身を乗り出して大きく手を振りながらこちらに向かっている。

 操縦席に立ってるのは……ダーベ村長!?

 しわしわよぼよぼのお爺ちゃんが、巧みに舵をぶん回して船を爆走させている。

 あの村長、意外とロックだな。


「エレナー! 無事か!?」

「ラスキア! うん、私は大丈夫だよ!」


 真横までやって来た船からラスキアが問いかける。

 俺の背に女の子座りで乗るエレナが返した。


「おおお……ゆ、勇者様。まさか、あの巨大な怪物を倒されたのですかな……!?」

「はい! と言っても、倒したのは私じゃなくてぷっくんですけど」

「ぷっくん……? ああ、昨日テイムされた海魔、でしたかな?」

「ぷくっ!」


 返事をした俺に、遅れてラスキアが驚く。


「つ、つーか、エレナが乗っかってるそれなんだ!? も、もしかしてぷっくんなのか!?」

「そうだよ! ぷっくんが膨らんで私が海に落ちるのを助けてくれたの!」

「ぷっく!」

「……そ、そうか。まあ、エレナが無事なら良かったけどよ」


 ラスキアは何か言いたげな雰囲気だったが、それを飲み込んで受け入れた。


 海上で長話をする訳にもいかないので、エレナはラスキアの手を取って船に乗り込む。

 俺も体内から空気を抜いて通常モードのちっちゃなフグさんにフォルムチェンジし、船に積まれてあった金魚鉢サイズの水槽の中に海水と共に入れられた。

 もう離すまいと言わんばかりに、エレナがお腹と密着させるように両手でしっかりと水槽をホールドしている。


「そんじゃあ、村に帰るか。爺さん、いっちょ派手に凱旋を頼むぜ!」

「あいや! このワシにお任せくだされ、勇者様がた!!」


 ダーベ村長は気合いが入った返事をし、ぐるぐると舵を勢いよく回して船を急旋回させる。

 そして百八十度方向転換し、港へトンボ返りしていく。


 ただ、エレナはひとり居心地が悪そうに言葉を詰まらせた。


「が、凱旋って。そんな大したことじゃないよ。それにさっきも言ったけど、頑張ってくれたのはぷっくんとラスキアだし……」

「どうだかな。それは村の奴らが決めることだろ」


 ラスキアはしたり顔で、くいくいっと背後に親指を向けた。


「少なくとも、村の連中はそこまでエレナを軽んじちゃいないみたいだぜ?」


 俺とエレナは、ラスキアの指先が示す光景を見た。

 方角的に、港の方を指し示している。


 そして、俺とエレナは二人ともハッと息を飲んだ。

 港の海岸線に並ぶ、何十人もの村人たち。

 彼らは思い思いに叫ぶ。


「勇者様ー!」

「勇者エレナ様ーー!!」

「村を救ってくれてありがとーー!!」

「見直したぜ、嬢ちゃーん!!」

「その……【失格勇者】だなんて言っちまって悪かった!! アンタはこの村のヒーローだぁああああ!!」

「魔王の手先を返り討ちにするなんてカッコいいぜッ!!」

「勇者様の使い魔もよくやったぞー!!」

「ブサイクな顔の海魔だったが、イカしてるじゃねぇかー!!」

「勇者様ばんざーい!!」

「エレナ様ばんざーい!!」


 老若男女を問わず、ずらりと並んだ村人たち。

 皆一様に、口に手を当てて声を張り上げている。

 鳴り止まない感謝の叫び。

 大きく手を振ってアピールする子供や、被っていた帽子を激しく振る男の人までいる。


 なんかしれっと俺へのディスが混ざってたような気がするが、まあ聞かなかったことにしてやろう。


「こ、これ、は……」

「エレナとぷっくんへの賛辞だよ。村の奴ら、避難してる途中であの半魚人魔のボスの姿を見ちまったらしいんだ。ま、あれだけ巨大だったら隠す方が無理ってもんだがな。それで、恐怖におののいてたところ、半魚人魔たちの侵攻を食い止めるために戦うアタシたちの姿を目撃して感動したんだとよ。アタシもさっき散々礼を言われて、離れるのに苦労したぜ」


 ラスキアは困ったような笑顔でポリポリと頬を掻いた。

 だが、口元は緩んでいるのでまんざらでもなさそうだ。


 エレナは港の一点を見つめて立ち尽くす。


「ぷく?」


 ――ぽちゃん。


 エレナの頬から、雫が落ちた。

 その雫は俺が収まる水槽の水に落下し、フグの頭上で溶け合っていく。


「エ、エレナ?」

「あっ、ご、ごめん。違うの。これは、その……嬉しくて」


 エレナは一拍置いて我に返り、涙を拭った。

 この涙には、きっと筆舌に尽くしがたい意味が込められているのだろう。

 それこそ、昨日出会ったばかりの俺なんかでは到底想像もできないような、エレナの感情の発露だった。


 ラスキアは何も言わず、ただ優しい瞳を向けて見守った。

 無言の船上。

 だが不思議と、気まずさのようなものは感じない。


 ぐしぐしと涙を拭うエレナに、ふと舵を握る村長がニヤリと笑う。


「……なれば勇者様、今夜は宴ですな! 魔王の軍団を退けた英雄として、ぜひご参加くだされ! 村の者ら総出で盛大に催しますぞ!」

「え! い、いやいや、そんなわざわざ悪いので……」

「おっ、宴か! いいじゃねぇか! この村に来てしばらく経つけどそんなに村人と交流も深めてねぇしよ。今夜は遅ればせながら親睦会も兼ねてパァーッといこうぜ!」


 遠慮がちに断ろうとするエレナの言葉を遮り、ラスキアが快活な笑い声を上げながら了承する。

 ダーベ村長もアゲアゲで船のエンジンを吹かせた。

 見た目によらずノリが若いなこの爺さん。

 

 エレナの意見は無視され、宴の開催が決定したところで船が徐々に減速しだす。

 港はもう目と鼻の先だった。

 そして船が完全に停止し、エレナはラスキアと共に港へと降り立つ。


 瞬間、勢いよく走ってくる小さな影がエレナに飛び付いた。


「勇者のお姉ちゃーーん!!」

「うわっ! ア、アレス君!?」


 エレナは驚いた顔でハグしてきた少年を見る。

 この子は、たしか昨日エレナが海で救助したらしい男の子だ。


 七、八歳くらいの少年――アレスは、にこりと満面の笑みを浮かべる。


「勇者のお姉ちゃん! あの怖い海魔をやっつけてくれてありがとう!! 僕のお父さんとお母さんもすっごく感謝してたよ!!」

「そ、そうなんだ。それなら、良かったよ……ぐすっ」

「勇者のお姉ちゃん? どうして泣いてるの?」


 感極まったエレナが顔を伏せる。

 また涙腺が緩んでしまったのだろう。


【失格勇者】と罵られて見下されてきたらしいエレナにとって、これほどの賛辞は生まれて初めてなんじゃないだろうか。

 だから真っ向から向けられる純粋な感謝の言葉に慣れていないし、これほど多くの人間から温かく出迎えられるなんて夢にも思わなかったことだろう。


 俺は涙を拭うエレナが持つ水槽で、ちゃぷん、と跳ねた。


「ぷくぅ!」

「ぷ、ぷっ、くん……?」

「ぷくぷく!!」


 俺はエレナを元気付けるように水槽内をくるくる遊泳して鳴く。


 エレナがこれまでどんな苦しい人生を歩んできたのか、俺は知らない。

 だが、今は自信を持って胸を張っていいんだぞ!

 何たって、あの凶悪な半魚人魔帝エンペラーマーマンを倒した功労者の一人なんだからなっ!


 ――――俺とエレナ、それにもちろんラスキアも。

 村人に一人の犠牲者も出さなかったこの完全勝利は、俺たち全員の力で勝ち取った代物だ。


「ぷっくんも、泣いてばっかいるんじゃねぇ! って励ましてくれてんじゃねぇのか?」

「そ、そうなの? ぷっくん……!!」

「ぷくぅ!」


 ラスキアの言葉に、エレナが潤ませた瞳で水槽を覗き込む。

 俺は頭上に浮かぶエレナと目を合わせ、ニコリと口角を上げた。

 表情に乏しいフグだが、少しでも俺の感情が伝わってくれるかな。


「――そうだよね! 私は『勇者』なんだから、俯いてばかりもいられないよね!!」


 エレナは何かが吹っ切れたように顔を上げる。

 その表情は一片の曇りなく、清々しいくらいに晴れやかだった。


 エレナはアレスを優しく離し、村人の前に向き直る。

 そして、ガシッと力強く拳を握り、高らかな宣言と共に天に突き上げた。


「村の皆さん、安心してください! 『滅びの呪海』に出現した未知の巨大海魔は、私たちの手で倒しましたーー!!」

「ま、アタシのエレナにかかりゃあこんくらい楽勝だぜ!!」

「ぷくぷく~!!」


 爆ぜるような大歓声が村人から沸き立つ。

 エレナの名と、『勇者』の栄光を喧伝するような心からの感謝の言葉。

 それらが口々に浴びせられる。


 俺たちは村人たちの歓声と感謝の言葉に呑み込まれながら、悪しき海魔を打ち倒した勝鬨かちどきを上げた。



 これは、ひょんなことから出会ったフグと勇者の英雄譚。



 のちに語り継がれる、歴史のいちページ目である。



これにて第1章完結です!(ちょうど書籍1冊分、14万字くらい)

ここまでお付き合いいただきありがとうございました!


面白かった! 続きが気になる! フグ最強! エレナちゃん可愛い!! と思われた方は、

ぜひぜひ★★★★★評価とブックマークお願いいたします!!


とても執筆の励みになります!!

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