第36話 互いの生死
半魚人魔帝のエクストラスキル〈殲水魔法〉。
仰々しいスキルはその名に恥じぬ威力で以て、俺に襲いかかる。
そして、秒を待たずしてフグの体はトルネードのような海水の激流に飲み込まれた。
ボロ雑巾のようにぐるぐると撹拌され、鋭く尖った水の刃が四方八方から無秩序にフグの体を切りつける。
「ぷっ、ぐぅぅぅうううううううううううううううううううううう!!!」
トルネードは真後ろに俺を吹き飛ばす。
歯を食い縛って必死に耐えていると、やがて体が楽になった。
〈殲水魔法〉の発動が終えたようだ。
「ぷ……ぐ……ぅ、……!」
俺は……生きて、……いるのか……?
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名前:ぷっくん
HP:264/4273
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ウィンドウ画面が表示される。
瀕死だが……ギリギリ……生きている……!
《〈殲水魔法〉の直撃を受けたため、甚大なダメージを負いました》
アドバイザーの声が、冷たく響いた。
体中から血が滲み出す。
皮膚は裂かれ、ヒレは千切れ、傷がない部位を探すのが困難なほど、全身がズタズタに切り刻まれていた。
まだフグとしての体の形を保てているのが奇跡なくらいだ。
「ぷっ、くぅ……!!」
八十一までレベルを上げたことによって上昇した俺の防御力のステータス。
そして戦闘前にエレナにかけてもらった『ディフェンスブースト』の付与魔法。
さらについ先ほど〈奪食〉のエクストラスキルによって獲得した、〈硬鱗〉のスキル。
これら三つの防御力を向上させる要素が組み合わさっていたからこそ、ギリギリのところで命を繋ぎ止めることができたに過ぎない。
この内、どれか一つでも欠けていたら俺はここで絶命していたはずだ。
「…………ギョギュアアァァァァ……」
遠くから、半魚人魔帝の唸り声が響く。
震える思考で〈探索〉を発動。
かなり遠くまで飛ばされたらしく、半魚人魔帝と戦っていた場所よりだいぶ離れていた。
港がかなり近い。
が、半魚人魔帝はトドメを刺すべく凄まじい速度でぐんぐんと俺との距離を詰めてきている。
「ぷ、くぅ!」
立て。
立て、俺。
立たないと、次こそ本当に殺される!
「ぷっ、くぅぅぅうううううううううううううう!!」
俺は血管がはち切れんばかりに叫び、己を鼓舞する。
同時に、〈水属性の大器〉を発動!
大量の〈水球〉を向かい来る半魚人魔帝に突撃させる。
ビュンビュンビュン!! と飛んでいく無数の水の球体は、真っ直ぐ特攻してくる半魚人魔帝に直撃。
百メートルほどの距離を開け、クリティカルダメージの手応えを覚える。
「ギョギュァアアアアアアアアアアアア!!」
半魚人魔帝の張り裂けるような声が轟く。
〈肉体分裂〉で誕生したコピーの半魚人魔帝はすでに倒したので、残るはオリジナルの半魚人魔帝だけだ。
雑魚の半魚人魔も全滅したのか、辺りには見当たらない。
正真正銘、一騎討ち。
もう死に体の俺だが……まだ希望が一つだけ残っている。
要は、アンモナイト先輩と戦った時と同じ状況な訳だ。
瀕死の俺が生き延びるには、半魚人魔帝を倒してレベルアップを果たすしかない!
レベルアップが達成したら自動的にHP/MPが全回復するからだ。
この効果のおかげで俺はアンモナイト先輩を倒して深海で命拾いすることに成功した。
それと同じことを、もう一度。
命を張って、再現する!
《恐らく、半魚人魔帝もマスターと同様の結論に至ったものと推測します》
アドバイザーのその推測と共に、宿敵が暗い海をかき分けて姿を現した。
クリティカルダメージを受けた胸部が鱗を粉砕してクレーターのような陥没が生じている。
痛々しい傷跡から、ドクドクと血が溢れていた。
「ぷっくぅ……!!」
「ギョギュァアアアア……!!」
フグと半魚人魔帝は、海中で対峙する。
自らが生き延びるために。
敵を屠らんと覚悟を滾らせて。




