第35話 クリティカル撃破
――――ガキィィィイイイイイン!!
バットの芯でボールを捉え、盛大に打ち上げたような高揚感に全身が打ち震える。
直後、断末魔の叫びが共鳴した。
「ギョァァアアアアアアアアアアアアアア!!」
半魚人魔帝が絶叫を上げ、身悶える。
アドバイザーの予想通り、〈格上殺し〉の称号が持つクリティカルダメージの威力は凄まじいらしい。
「ギュギョ!?」
相方である、オリジナルの半魚人魔帝が表情を変える。
まだ状況を完全には理解できていないようだが、俺が何か別の手を仕掛けてきたのは察したようだ。
僅かにたじろいだ後、槍を構え俺に向かってきた。
「ギュギョョオオオオオオオオオオ!!」
「ぷくくっ!」
もうお前の動きは見切ってきたぜ!
俺は槍の切っ先を眼前で眺めながら、寸での所で回避。
そして、オリジナルの半魚人魔帝にも水属性スキルを多数着弾させた。
十発、二十発、三十発。
それら多数の攻撃の一つが、爆ぜる。
――――ガキィィィイイイイイン!!
「ギュアアアアアアアアアアアアア!!」
クリティカルが発動!
オリジナル半魚人魔帝の絶叫が弾けた。
これぞクリティカル誘発に全てを懸けた物量作戦!
俺は海の中をぐんぐんと泳ぎ回り、適切な間合いを見極めて〈水属性の大器〉を繰り出していく。
半魚人魔帝は図体がデカく一撃の重みは凄まじいが、如何せん動作が大振りだ。
その点、俺はちっちゃなフグとして小回りが効く。
「ぷくぷく!」
まずは残りのHP的に、〈肉体分裂〉で新しく誕生した方――武器を持たないステゴロ半魚人魔帝から集中的に潰すか!
そう決意した俺は、早速動き出す。
手ぶらの半魚人魔帝を集中攻撃し、クリティカルを連発させた。
「ギュアアアアアアアアアアアアア!!」
もうHPも残り幾ばくもないだろう!
これで、終わりだッ!!
数十発の〈水球〉を展開。
激しく泳ぎ周りながら、俺は一斉に丸腰の半魚人魔帝に突撃させた。
そして。
ついに、『その時』が訪れる。
――――ガキィィィイイイイイイイイイン!!
会心の一撃。
〈格上殺し〉を帯びた水球が綺麗に半魚人魔帝の顔面にクリティカルヒットする。
「ギョアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!!」
海を割らんばかりの大絶叫。
それと同時に、半魚人魔帝の肉体がボロボロと崩れていく。
「ぷっくぅぅうううううううううううう!!!」
よっしゃぁぁあああああああああああ!!
どうだ! 見たかこの野郎!
フグでもお前みたいな巨大怪獣をぶっ倒すことなんざ訳ないんだよ!!
ハッハッハー!!
これで残りはあと一体!
俺とイーブンだぜ!
次はお前の番だぞ、オリジナルの半魚人魔帝ッッ!!
「ギュプォオオオオオオオオオオ!!」
「ギャプァァアアアアアアアア!!」
「ゲュプァァアアアアアアアア!!」
勝利の歓喜に浸っていると、今度はノーマル半魚人魔が周囲を取り囲んだ。
新手の雑兵だ。
いまお前らに用はない!
邪魔をするな!
「ぷくぅぅうううう!!」
俺は〈嵐風刃〉を発動させ、周りの半魚人魔を細切れにした。
気色悪い半魚人魔の血が霧のように拡散する。
が、俺は〈探索〉のスキルで半魚人魔帝の動向も把握している。
俺に向かってきてはいるが、まだ接近しきってはいない。
急げば間に合う!
そう理解した俺は種族スキル〈旋風力〉で適当に風属性スキルを展開。
周囲に漂う半魚人魔の肉片と血霧を吹き飛ばした。
――――刹那。
鋭利な刃が視界をジャックした。
「――――ぷ、ぐぅぅうううううう!!」
馬鹿な!?
半魚人魔帝はまだ俺に近付いていないはず!
なぜ槍がもうこんな所まで……ハッ。
まさか、投擲!?
あの野郎、一本しかない自分の武器を手放して俺に投げつけてきやがったのか!?
いや、今はんなことどうだっていい!
間に合え――〈瞬転〉ッッッ!!
一秒間の超高速移動。
ギュン……、と肉体が爆発的な推進力を生み、真横に飛び退く。
緊急回避。
スローモーションになる思考。視界。
ゆっくりと、だが確実に俺の命を貫かんと迫り来る巨大な槍の先端部が、フグの頬を掠めた。
ジジジ、とジャージのチャックを開けるように俺の頬を切り裂いた槍は、果たして。
――――ギュウウウウウウウウウン!!
「ぷ、くぅううう……!!」
〈瞬転〉の効果により、海中で軽いソニックブームが起こる。
俺は……まだ生きてる!
頬を裂かれた傷口からは血が滲んでいた。
恐らく、半魚人魔帝の〈裂傷〉のスキルでこれも俺が動くたびに継続ダメージが入るデバフ効果もあるんだろうが、何とか即死は免れたぞ!!
《――大規模な魔力反応を確認。この場からの緊急回避を推奨します》
え?
だが、槍の投擲攻撃は回避したんだが――直後。
心臓を握り潰されるような殺意の波動が全身を灼いた。
「ギュギョギョ……ギョァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
半魚人魔帝の雄叫び。
魔力が可視化できるほどに光る。
《半魚人魔帝のエクストラスキル〈殲水魔法〉と推測》
無機質なアドバイザーの言葉。
その瞬間、トルネードのような莫大な水の激流が向かってくる。
空間ごと押し潰すような、暴力的な水属性の大規模魔法。
昨日、エレナを救出していた頃、不意に意識外から食らった水属性攻撃に似ていた。
……否、あれよりもさらに進化した一撃。
〈瞬転〉は、発動から十秒間のインターバルが必要だ。
つまり、たった今使ったばかりの俺は〈瞬転〉を発動できない。
では。
俺に待ち受けているのは。
―――――――――――――死。
脳裏にその単語が掠めた瞬間、俺の全身が海中のトルネードに巻き込まれていった。




