第34話 〈奪食〉スキルの真価発揮!
《エクストラスキル〈奪食〉の効果が発動しました。半魚人魔帝が有するスキル――〈硬鱗〉の奪取に成功しました》
アドバイザーの無機質な声も、今回は少し明るい色味を帯びているような気がした。
しかし、俺は眉をひそめる。
フグに眉毛はないが、フグなりに眉をひそめた。
「ぷくぅ?」
エクストラスキルの〈奪食〉って、たしか捕食した相手のスキルを低確率で奪うことができる、ってやつだったよな?
え、でも半魚人魔帝を捕食してないが??
《捕食の定義上、必ずしも捕食対象が死亡している必要はありません。相手に攻撃を加え、体の一部を体内に取り込むことができれば、広い意味でのスキル発動定義において『捕食』と判断されます》
な、なるほど。
そうなのか。
意外と『捕食』の定義って緩いんだな。
ということは、俺が〈咬撃〉スキルで半魚人魔帝の鱗を破壊して肉の一部を食い破ったから、それが『捕食行動』として判定された訳か。
そして幸運にも、〈奪食〉のエクストラスキルが発動したと。
《ご認識の通りです》
なるほど。
経緯は理解した。
それで、〈硬鱗〉ってのはどんなスキルなんだ!?
――――――――――――――――――――
硬鱗:全身を硬質な鱗で覆うことができる。物理防御力と魔法防御力が上昇する。
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ほう、防御力がアップするスキルか。
見たところ、自分で発動を制御できるタイプのアクティブスキルかな?
まあいいや。物は試しだ。
早速使ってみよう。
〈硬鱗〉――発動!
「――――ぷくぅ!」
〈硬鱗〉を発動してみると、ぷにぷに柔らかなフグの体に、ペキペキペキ……、と鱗が走っていく。
フグの見た目にはそう変化はないが、光を当てるとステンドグラスのようにキラキラと鈍色の輝きを乱反射させた。
が、すぐにその光は収まり、俺の体はまたぷにっと柔らかそうな皮膚に戻る。
え、これちゃんと発動できたのか?
アドバイザー、俺のステータスを表示してくれ!
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名前:ぷっくん
種族:バルーンパファー
レベル:81
HP:1754/4273
MP:8617/9653
物理攻撃力:12594(+2000【パワーブースト】)
物理防御力:10426(+2000【ディフェンスブースト】)
魔法攻撃力:8001
魔法防御力:8143
敏捷性:5529(+1000【種族補正】)(+2000【スピードブースト】)
器用さ:5699
スタミナ:6104
種族スキル:旋風力
ユニークスキル:異種変形
エクストラスキル:咬撃、水属性の大器、毒属性の大器、思念伝達、奪食、言語翻訳、陸上呼吸
スキル:鑑定、知者の導き、逃走Lv.4、高速遊泳Lv.5、瞬転、探索、暗視、硬鱗
スキルポイント:0
称号:転生者、フグの加護、特異成長、格上殺し、幼体特攻、暴君
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おお!
ざっと見たところ、『物理防御力』と『魔法防御力』の二つのステータス値が二千ポイントずつ上昇してるな!
これはすごいじゃないか!
大体エレナにかけてもらう付与魔法一発分の上昇効果があるなんて!
幸か不幸か、見た目はそんなに変わらなかったが……。
ただ、これでさらに相手の攻撃は通りにくくなるだろう。
しかし、俺は別の問題に頭を悩ませた。
「ぷくぅ……」
防御力が上昇した喜びよりも、HPが半分以上削られている絶望感の方が精神にキている。
もう二千も割って、千七百しかHPがない。
これは……いよいよ悠長に事を構えていられないな。
「ギョギュアアアアアアアアアアアアアア!!」
「ギュギョアアアアアアアアアアアアアア!!」
半魚人魔帝が同時に波状攻撃を仕掛けてくる。
クッソ!
〈硬鱗〉で多少防御力が上昇したところで、格上であるコイツら相手じゃ焼け石に水だ!
あと一発でも攻撃が直撃したら死ぬだろう。
つーかコイツら、こんなに強いんならなんで昨日は俺の〈暴君〉で逃げたんだよ!
〈暴君〉が機能したから俺よりも格下なのかと思ってたのに、詐偽もいいところだぜっ!!
《マスター。その件に関して、一つの推測があるのですが》
アドバイザーが告げる。
そういやさっきアドバイザーが何か言いかけてたな。
半魚人魔帝が攻撃を仕掛けてきたから聞きそびれてたけど。
《昨日、マスターの前から逃げ去った半魚人魔を率いていた個体は、マスターよりもレベルが下であった可能性が高いです》
……どういうことだ?
《何らかの作用により、半魚人魔帝はごく短時間で特異進化を遂げ、マスターを上回るステータス値を手に入れたのではないかと》
……その、何らかよ作用ってーのは、つまり――
《はい。半魚人魔帝が『称号』として有している、〈ゾラの眷属〉です》
たしかに俺も気になっていたところではある。
つまり、そのゾラって奴が半魚人魔帝をここまでの怪物に仕立て上げた黒幕だって言いたい訳か。
《まだ推測の域は出ませんが、一つの可能性として考えられます》
フンッ、そうか。
もし半魚人魔帝にこれほどの力を与えられる存在がいるのだとしたら、相当な脅威だろう。
だが、今は――
「ギョギャアアアアアアアアアアアア!!」
「ギュギョォォオオオオオオオオ!!」
二体の半魚人魔帝が再び攻勢に出る。
俺は素早く冷たい海の中を泳ぎ、激しい連続攻撃を回避していく。
この状況じゃ、まずは半魚人魔帝を潰す方法を考えるのが先決だ!
「ぷくっ……!」
しかし現状、〈咬撃〉と〈毒属性の大器〉しか有効打がないのもまた事実。
他のスキルは使い物にならないから、どうしたものか……。
「ギュギョォォオオオオオオオオ!!」
半魚人魔帝が拳を振り上げた。
俺は緊急回避しつつ、半魚人魔帝の顔面にダメ元で水の球を射出する。
その水属性スキルは、半魚人魔帝の硬い鱗に弾かれるかと思ったが――――
「ギッ、ギョァァアアアアアアアアアアアアアア!!」
ガキィィィイイイイイン!! と痛快な感触を覚える。
まるでフルスイングした金属バットでホームランを打ち上げたような爽快感が全身を突き抜ける。
《マスターが有する称号〈格上殺し〉の効果が発動しました。半魚人魔帝にクリティカルダメージが入りました》
〈格上殺し〉?
あ!
たしかに俺の『称号』のところにあったな!
その効果って、なんだっけ?
《〈格上殺し〉:自分より高レベルの個体と戦闘を行う際、攻撃時に低確率でクリティカルダメージを与えることができる》
そうか!
半魚人魔帝は俺よりもレベルが高い『格上』の存在だから、〈格上殺し〉が発動したんだ。
この称号は深海でアンモナイト先輩を倒して手に入れたものだったからな。
あの時はレベル一の雑魚フグだったわけだから、その時に比べたら全然ジャイアントキリング度は低い。
続けてアドバイザー。
クリティカルダメージって、どんぐらい入るもんなの?
《マスターが〈格上殺し〉を発動させた半魚人魔帝のHPを表示します》
――――――――――――――――――――
名前:半魚人魔帝
HP:3966/6519
――――――――――――――――――――
おお、結構削れてるじゃねぇか!
事前に与えていた〈咬撃〉と〈毒属性の大器〉による継続ダメージを考慮しても……千くらいのダメージは与えたのか?
《おおよそ、その認識で相違ないでしょう》
つまり、クリティカル一発で千ダメージか。
てことは、あと四回クリティカルを発動させれば、ステゴロ半魚人魔帝の方は討伐可能。
槍を持ったオリジナルの方はまた別途倒さないといけない計算か……。
《マスター、噛みつき攻撃と毒属性攻撃に平行して、水属性の連撃も行うことが半魚人魔帝に有効となる可能性があります》
ん?
だが、水属性攻撃はほとんどダメージが入らないぞ?
《水属性スキルそのものに攻撃を頼るのではなく、攻撃の手数を増やすことで意図的に〈格上殺し〉の効果を誘発させることが狙いです》
っ!
そ、そうか!
水属性攻撃は雑魚でも、クリティカルが入れば一気に千ポイントもHPを削り取ることができる!
これは一撃の技の威力としては、噛みつき攻撃や毒属性攻撃よりも大幅に優れた数値だ。
「ぷくぅ!!」
活路が見えた!
MPをふんだんに消費し、周囲に無数の水の球体を出現させる。
〈水属性の大器〉を用いれば、この程度造作もない。
「ぷっくぅぅぅうううううううううう!!!」
俺は爆発させるように、無数の水球を四散させた。
いくつもの水球が半魚人魔帝に着弾。
その瞬間。
――――ガキィィィイイイイイン!!
狙い通り、『クリティカルダメージ』が発生した手応えに全身が震えた。