第33話 攻防激戦
仲間の半魚人魔帝の腕を犠牲に、繰り出してきた槍の一突き。
小さいフグである俺は巨大な半魚人魔帝の腕に噛みつくだけで精一杯。
視界が完全に塞がれていたので、一瞬反応が遅れた。
それでも攻撃が完全に行われる前に回避はしたのだが、HPは半分ほど削られる。
いや、もし事前に回避してなければ恐らく顔面から尾ヒレまで槍が貫通していただろうから、命拾いしたことを喜ぶべきか……。
「ぷ、ぷくぅ……!」
にしても、痛ってぇ……!!
『滅びの呪海』の深海から海面に上ってくるまで幾度となく死にかけ、瀕死の重傷を負うこともしばしばだったが、やはりこの痛みだけは慣れないものである。
が、今はそんなことを言っている場合ではない。
回避したと言っても、まだ半魚人魔帝はすぐ近くに二体もいる。
気を抜けば、すぐに殺される!!
「ギョョョオオオオオ!!」
「ギュギョォオオオオ!!」
槍で腕が千切れた半魚人魔帝が、もう片方の手で襲いかかってきた。
槍を握る半魚人魔帝も、再度武器を構え直し、海中を立体的に動いて俺を撹乱する。
「ぷくぅ!!」
半魚人魔帝の水かきが着いた指先をすり抜け、真下から突き上げるような槍の突進も寸前で回避。
「――『ギョゥウオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』」
オリジナルの半魚人魔帝が咆哮を放つ。
この、声は……!
数秒遅れて、海の中からドドドド……、と迫る魚群が現れる。
全て半魚人魔。半魚人魔帝の手駒だ。
ったく、雑魚のストックどんだけあるんだよ!
また港に侵攻させてた半魚人魔の一部を連れ戻してきたのか?
ったく、面度クセェな!
「ギョゥウオオオオオ!!」
「ギュプァアアアアア!」
「ギョギョプァァァアアアアア!!」
――〈嵐風刃〉!!
周囲に襲いかかる半魚人魔の群れを風の刃で細切れにする。
が、如何せん数が多すぎるので全てを完全に除去できない。
しかも二体の半魚人魔帝も常に攻撃を仕掛けてくるため、ぶっちゃけ気が休まる暇がない!!
そして、体を動かす度に走る衝撃的な痛み。
半魚人魔帝の槍に裂かれたフグの体も、まだ癒えていないのだ。
《半魚人魔帝が有するスキル〈裂傷〉により、槍でダメージを受けた傷を回復せずに動くとHPが徐々に減少していきます。注意してください》
そんな、こと、言っても、よォ!?
この連撃、停止して優雅に躱せって方が無理難題ってモンだろ!?
雑魚の半魚人魔の兵隊たちに対処してたら、一体の半魚人魔帝が殴る蹴るのステゴロを仕掛けてきて、それに気を取られてたら不意打ち的に槍を持った半魚人魔帝が即死攻撃を撃ち放ち、それらデカブツにばかり目が言ってると今度は通常の半魚人魔の物量に押し潰されるハメになる。
「ぷ、くぅううう……!!」
……ヤバイ。
これ結構マジで本格的にヤバイかもしんない!!
半魚人魔の群れだけなら何体いても相手してやれる。
半魚人魔帝だって、槍を持った個体だけならまだ対応策はある。
ステゴロの半魚人魔帝は、武器を持っていない分、さらに対処の難易度は下がるだろう。
――しかし。
これら三つの戦力それぞれと戦うなら勝利を収められたとしても、それらが互いに組み合わさり、連合のような形を取られると一気に攻略難度が跳ね上がる。
単純に、多勢に無勢というやつだ。
向こうは何百匹と個体がいるのに対し、こちらはフグ一匹!
アドバイザーをカウントに入れたとしても、たった二人しかいない!
戦力差は優に百倍を超えてるぞ!!
《ちなみに、マスターが戦闘を放棄し、逃走だけに集中してこの場から離脱した場合、その逃走成功確率は九〇%以上です》
分かってる……が、それはできない。
俺が逃げ出すということは、自動的にあの漁村を見捨てるということになる。
別にあの漁村にも村の連中にも特別な恩義を感じてるわけじゃない。
何せ俺が村に来たのは昨日だし、特に村民と触れ合う機会もなかったからな。
しかし村を放棄してしまえば、エレナは確実に莫大な罪悪感に押し潰される。
自身の弱さと無力さに打ちひしがれ、『勇者』としての存在意義さえ見失ってしまうくらいに自らを追い込んでしまいそうだ。
村の連中に義理はない。
だが、俺はエレナのために、ここで半魚人魔帝を倒すッ!!
「ぷっ、くぅぅぅぅううううううう!!」
〈毒属性の大器〉を発動し、海中に猛毒を大量放出。
ブワッ! と毒が瞬く間に海洋を汚染する。
雑魚の半魚人魔はすぐに毒に飲まれて死ぬ。
半魚人魔帝も、僅かに動きが弱まり、この毒を恐れるように様子を窺っていた。
毒の霧には迂闊に手出しできないようだな。
その学習が進んできたなら、こちらはさらにその上手を行くまで!
続けて発動――〈嵐風刃〉!!
「ぷくぅぅうううううっ!!」
毒霧で目隠し状態になった敵に、暴風の刃が降り注ぐ。
「「「ギョァァアアアアアアアアアアアア!!!」」」
「ぷくぅ」
視界不良に陥っていた半魚人魔たちは反応が遅れ、たちまちバラバラに切り刻まれてしまった。
が、半魚人魔帝はいまだ健在。
まあ、お前はこれくらいじゃ倒れないよな。
俺の〈嵐風刃〉を真っ向から受けながらも、全身を覆った鈍色に光る鱗にガードされ、ほとんどダメージは通っていない。
半魚人魔帝が槍を突き刺してきたので、それを回避。
もう一体の半魚人魔帝のパンチも華麗に躱す。
「ぷっ、ぷくぅ」
海中を縦横無尽に高速で泳ぎ回りながら、半魚人魔帝に効果があった攻撃を脳内で整理する。
水属性スキルはダメ。
風属性スキルもダメ。
毒属性スキルは効果アリ。
噛みつき攻撃も効果アリ。
――こんなところか。
こうして攻撃が通ったか否かを列挙して表すと、自ずと狙い目が見えてくる。
やはり半魚人魔帝には、噛みつき攻撃を主軸にして体内に毒を注入するという戦略が効果的か……!
名付けて、モスキート戦法である!!
「ぷぐっ!!」
がぷっ! と隙を見せた半魚人魔帝の背中に噛みつく。
硬い鱗を噛み砕き、すかさず猛毒を大量にぶちこんだ。
「ギョ、ギョァァアアアアアアアアアアア!!」
「ギュギョギョォォォオオオオオオオオ!!」
「ぷくんっ!」
噛みつかれ毒を入れられた半魚人魔帝が絶叫し、それを聞き付けたもう一体の半魚人魔帝が俺に攻撃。
それを避け、俺は再び半魚人魔帝と距離を取った。
毒を注入してやった方の半魚人魔帝は、口から気持ち悪い血のような体液を吐いて悶絶している。
よし、この方法ならいけるか……!?
そう思った瞬間、体にビシッ! と裂けるような痛みが走る。
半魚人魔帝が持つスキル〈裂傷〉によって付けられた継続ダメージが響いていた。
このモスキート戦法は一定の効果はありそうだが、長期戦になるのは覚悟しないといけないか……!
となると、どちらがより早くHPが尽きるかの勝負になってくる。
と、アドバイザーが僅かに声色を変えた気がした。
《エクストラスキル〈奪食〉の効果が発動しました》
続けて、告げた。
《半魚人魔帝が有するスキル――〈硬鱗〉の奪取に成功しました》
…………なんだって?




