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フグに転生したら勇者少女に飼われた件  作者: 空戯ケイ
第4章  『帝王』の暴威

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D-3  残された者にできること


「――ぷ、ぷっくん!!」


 エレナは手を伸ばして使い魔の名前を呼ぶ。

 が、その返答は、ぽちゃん! と海に着水する音だった。


 ぷっくんは、一匹ひとりで『滅びの呪海』へと行ってしまった。

 海の地平には、醜悪な相貌を笑みで飾った巨大な海魔がこちらを窺っている。

 いや、半魚人魔たちの侵攻を楽しむがごとく観戦しているようなスタンスに思えた。


 明らかに、アレは一般的な海魔の枠に収まる個体じゃない。

 まさか、魔王の幹部だろうか?

 分からない。

 エレナにはそれが判別できるほどの実戦経験はなかった。

 ただ、これだけは言える。

 アレが、半魚人魔を支配しているボスだ。


 そして、ぷっくんはその訳の分からない、災厄を体現したような恐ろしい海魔に突っ込んでいったのだ。


「ぷっくんは……行っちまったのか……!」


 ラスキアが呟いた。


 ゼインのせいで半魚人魔の不意打ちを食らってしまったが、エレナの回復魔法のおかげでだいぶ持ち直したらしい。

 装備には血が滲んでいるものの、すでに傷は塞がっている。


「う、うん……。どうしよう、ぷっくんが死んじゃったら……! 私が目の届かない所で致命傷を負ったら、回復してあげることもできないよ……!!」

「…………」


 ラスキアは顔を青くするエレナをじっと見る。

 そして、剣を担いで喝を入れるように少女の肩に手を置いた。


「エレナ! 今はぷっくんのことは忘れろ! もしあのデカブツを仕留めてくれるんなら好都合だ! アタシたちは、目の前の敵を倒すことに集中するんだよ!」

「ラ、ラスキア……」


 エレナは真剣な表情で迫るラスキアに息を呑み、やや押された。

 が、すぐに頭を振るう。

 ラスキアの言う通りだ。

 今この場でぷっくんの安否を心配していても事態は進展しない。

 テイムをした使い魔を信じるのも主人の務め。


 エレナは、エレナにしかできないことをするべきだ。


「――ラスキア、まだ戦える?」

「ハッ、愚問だな」

「ありがとう。もう少しだけ、力を貸して。ぷっくんが半魚人魔のボスを倒してくれているなら、私たちは半魚人魔が村に行かないよう絶対にこの港で食い止める!!」

「その言葉を待ってたぜ、勇者様!」


 ラスキアは剣を構える。

 目標は、四方に散らばる上陸した半魚人魔だ。


「本当はあんまり重ね掛けし過ぎるのは危険なんだけど、この戦いは長期戦にはならないはずだから、踏ん張ってラスキア! パワーブースト! ディフェンスブースト! スピードブースト!!」


 ラスキアの体が光る。

 エレナの付与魔法が発動した証拠だ。

 付与魔法は短期間でかけ過ぎるとその後の反動が大きくなり、最悪の場合重篤なダメージを負って死に至ったケースもある。


 が、エレナはラスキアのタフさを信じ、本日二度目の付与魔法をかける。

 これで、ラスキアの能力値はさらに上昇した。


 ラスキアは肩に負った傷などものともせずに、豪快に剣を構え、地を蹴った。


「ありがとよエレナ! 後はアタシに任せろ!!」

「気をつけてね!」


 ラスキアの背を見送り、エレナも村の方に駆ける。


 エレナは勇者の中では個人の戦闘力は最下位で、並の冒険者にも劣るほどの戦闘力しか持ち合わせていない。

 だけど、最低限の武器は持っている。

 腰に提げた小さなナイフ。

 その柄を握った。


「パワーブースト! ディフェンスブースト! スピードブースト!」


 エレナは自らに付与魔法を発動。

 走っていた動きがさらに滑らかに、素早くなる。


「私だって勇者なんだ! 村には、一匹足りとも踏み込ませない!!」


 目標は、無防備に村に侵攻を行っている一体の半魚人魔。

 エレナは、その半魚人魔の背後からうなじを切り裂くようにナイフを突き立てた。




 ●  ○  ●




 エレナとラスキアが港を駆け回り、半魚人魔の駆除を開始してから、しばらく。

 必死に半魚人魔の討伐を続けていた彼女たちは酷く時間が経過しているように感じたが、実際に経過した時間はずっと少ない。


「おっらぁあああああああ!! 死にやがれぇぇえええええええ!!」

「ギュプァァアアアアアア!!」


 吠えるラスキアと、断末魔の叫びをあげる半魚人魔。

 ラスキアは剣を振り、刃に付着した半魚人魔のドロっとした血を弾く。


「これで、倒れて!!」

「ギュ、ギュァアアア……!!」


 エレナも半魚人魔の喉元にナイフを突き刺した。

 その他にも半魚人魔の体には無数の刺し傷、切り傷が刻まれており、エレナが懸命に戦った痕跡が見て取れる。

 本当ならラスキアのように剣の一振りで葬り去れたら楽なのだが、如何せん戦闘力が乏しいエレナではどうしても一体倒すのに工数がかかってしまう。

 エレナが一体の半魚人魔に手こずっている間に、ラスキアはすでにその何倍もの数の敵を倒していることだろう。


 が、海から上陸してくる多数の個体をラスキアが、村に侵攻を行っている少数の個体をエレナが担当して役割分担することで、何とか二人でも港の防衛をギリギリ保てている。

 欲を言えばあと数人戦える人材がいればもっと戦況は楽になるのだが、すでにゼインやそのパーティメンバーは逃げた後だ。

 この場には、もうエレナとラスキアしかまともに戦える人間は残っていなかった。


「これで……百体目ェッ!! はあ、はあ……そ、それなりの数は減らしたか……!?」


 ラスキアは顔の輪郭を伝う汗を拭いながら、周囲に目を向けた。


「ラスキア! こっちは結構片付いてきたよ!」

「エレナ! 怪我はないか!?」

「うん! あともう一踏ん張りだから、頑張ろう!」

「……だな! まだまだこれからだ! やってやんぜ!」  


 強気なセリフを吐いて自身を鼓舞するラスキアと、その言葉に背中を押されるエレナ。

 両者が再び戦場を駆けようと踏ん張った――その瞬間。


 海底から湧き上がるような絶叫の重低音が港を揺らした。


「「「「「!! ギュプブァ!!」」」」」


 半魚人魔が同時に背後の海を振り返った。

 次の瞬間、ノロノロと緩慢な走りで一斉に海に飛び込んでいく。

 村への侵攻のため行軍を続けていた個体も、一目散に踵を返した。


「な、なんだ……? 半魚人魔たちが、一斉に海に戻っていくぞ!?」

「こ、これは……!」


 予期せぬ半魚人魔の行動に、ラスキアがたじろぐ。

 エレナも意図が読めない半魚人魔の動きを疑問に思い――そして一つの可能性に思い至った。


「ま、まさか……ぷっくんが……!?」


 ぷっくんは半魚人魔の王のような海魔の元に向かい、現在進行形で戦闘が行われている。

 海中戦であるため地上にいるエレナたちの視点ではどのような戦況なのか確認することが難しいが、それでも先ほど半魚人魔の王が佇んでいたエリアでは激しく波が打ったり、紫色に変色した海水などが見て取れる。

 

 エレナはラスキアの元まで走っていく。


「ラスキア! これって、もしかしてぷっくんが何かしてくれたんじゃないかな!?」

「……もしかして、アイツが半魚人魔のボスを倒したってのか?」

「それは分からないけど……でも、ぷっくんが何かしてくれたとしか思えないよ!」


 エレナは静かになった港に目を向ける。


 ラスキアが懸命に剣を振るい、戦ってくれたおかげで、上陸していた半魚人魔はあらかた倒すことができた。

 ぷっくんのおかげとは確定していないが、上陸していた半魚人魔が一斉に海に戻っていったのも、港から半魚人魔を一掃できた要因の一つだ。


 呆然と取り残されるエレナとラスキア。

 彼女らに、まだ戦闘は終わっていないことを告げる一撃が現れる。


 ――――ドゴゴォォオオオオオン!!


「な、なんだ!?」

「あそこの海だよ! 水柱が上がってる!」 

「あの辺りは……さっき半魚人魔のボスが出現していた付近か?」

「やっぱり、ぷっくんが戦ってくれたから……!」


 エレナは拳を握りしめる。

 ぷっくんの行動に感謝するように、そして自身の無力さを嘆くように。

 なにか力になりたい。

 戦闘では直接役に立たなくても、自分ができる最大限の力でぷっくんに寄り添いたい。

 共に、戦場にいたい。


 ――――大変なことはぷっくんに全部丸投げで傍観してるだけなんて、嫌だ!!


「ぷっくん! 私だって、力になるよ!」

「あ、おい! エレナ!?」


 エレナは港の一角に停留していた一隻の中型の魔法船を発見。

 同時に体が動いた。


『滅びの呪海』では、ぷっくんと巨大海魔による激しい戦闘が繰り広げられている。



 ――――エレナはそれをじっと傍観できるほど、利口な勇者ではなかった。



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