第30話 殺ろうか、生存競争
海の中にダイブし、泳ぐ。
「ぷくぷくぅ……」
と、目の前には半魚人魔の大群がうじゃうじゃと泳ぎ回っていた。
まるで通勤ラッシュ時のサラリーマンのようだ。
皆、思い思いに動きながらも、続々と港に上陸するべく同じ方向に進行している。
「ギュプブァァアア!!」
「ギュァァアア……!!」
「ゲュプブァァァ……!!」
俺を発見した半魚人魔たちが、銛を構えて突撃してきた。
陸上じゃ動きは鈍かったが、海の中ではやはり俊敏に動くことができるらしい。
が、俺の敵じゃないな。
俺は数体の半魚人魔の特攻を華麗に回避する。
「ぷくぷく」
コイツら数が多すぎるから一匹ずつ倒してたんじゃ時間がかかるな。
それに俺のメインはあの半魚人魔帝である。
あんまり雑兵相手に手こずっている時間はない。
《〈毒属性の大器〉による、全体攻撃を推奨します。半魚人魔程度であれば、濃度が薄まったマスターの毒でも十分に殲滅効果を期待できるでしょう》
だな。
ここは毒で一掃といこう。
俺は、ぷっくぅ! と体を膨らませる。
でんっ、と膨張した白い腹の中にパンパンに詰まった、超強力な毒をブレスのように勢いよく吐き出した。
「ぷっくくぅぅぅううううううううーーー!!」
ぶっしゅぅぅぅううううう!! と、噴出された毒が一気に海の中に拡散。
その毒を浴びた半魚人魔はもがきながら数秒で息絶え、近くにいた半魚人魔も僅かでも毒を体内に取り込んだ個体は体を痙攣させて行動不能となった。
やはりフグ毒は最強だな!
地球に生息してるフグが持っている毒よりもパワーアップしてる気はするが、そんなことは今さらである。
こんな海魔が蔓延るようなエリアなので、海洋汚染は見逃してくれ。
「ぷくくぅ」
だが、いまだ半魚人魔は大量にいるな。
視界は毒霧のせいで紫色に滲んでいるが、今の毒攻撃で倒せたのは全体の一割くらいか?
《あまり半魚人魔に固執し過ぎると、本命である半魚人魔帝を取り逃がす可能性が上がります》
そうだな。
せっかく今出てきてくれてんだから、この場で倒し切った方がいい。
それにアイツの意識が村に向かい、半魚人魔帝が村に侵攻してきたらヤバいことになる。
「ぷくっ!」
俺は毒の海を突っ切り、直進した。
が、何も半魚人魔たちを村まで素通りさせるというわけじゃない!
俺は毒を大量に含んだ海水を〈水属性の大器〉で凝集し、まとめ上げる。
そうして、俺の頭上には毒水の槍が誕生していた。
これぞ新たに考案したオリジナルのスキル、〈毒水槍〉である!
「ぷっくくぅぅうううう!!」
全長数メートル以上ある〈毒水槍〉を発射。
俺の進行方向にたむろしている半魚人魔の集団に突き刺し、ボムのように毒を爆発させて毒殺。
それを繰り返し、俺はどんどん半魚人魔帝の元に接近していく。
よし、これならいけるぞ!
一度使った毒を再利用できるし、エコな攻撃だ!
「ぷくく!」
ヒレを巧みに動かし、全力で海の中を泳ぐ。
なあ、アドバイザー!
今さらなんだが、半魚人魔帝に対する勝率ってどんくらいだと思う!?
ステータス見た限り俺より格上っぽかったが!
《半魚人魔帝は現状のマスターよりレベルが上であり、一部ステータス値は相手の方が上回っている状況です。楽な戦闘にはならないことは覚悟しておいた方が良いでしょう。真っ向から戦った場合、マスターの勝率は約五十%です》
あれ、五十%もあるんだ。
もっと低いのかと思ってたが、割りと勝機はあるってことか?
「ぷくくっ!」
〈探索〉で半魚人魔帝の位置を確認。
あまり最初の位置から動いていないな。
俺は海中を真っ直ぐ泳ぎ、目標の元まで最短距離で突っ込んでいく。
「ぷくぅ~!」
今の内に、追加の〈毒水槍〉を二本追加しておく。
俺の頭上、左下、右下の三ヶ所に毒の槍がトライアングルを描くように展開された。
――――そして。
「ギュウウオオオオオ……!!」
半魚人魔帝のドデカイ図体を目視!
鱗に覆われた巨大な人間の肉体が朧気に見える。
足をバタつかせて泳ぐ気配すらなく、海の中で堂々と直立していた。
《半魚人魔帝もマスターと同じ〈探索〉のスキルを保有していたため、マスターの接近には勘づいているものと推測します》
つまり、俺が来ているってのに余裕綽々の仁王立ちで待ち構えてるってことかよ。
いい度胸じゃねぇか!
昨日は俺の〈暴君〉にビビって逃げたってのによ!
"ゾラ"とかいう奴に泣きついて鍛えてもらったのか!?
だが、いずれにせよ関係ない!
今度こそ、フグの手で仕留めてやる!!
《――――――、》
アドバイザーが何か言いかけた気がした。
ん、どうかしたのか? アドバイザー?
《――これは一つの可能性の話であり、現状推測の域を出ないのですが》
「ギュウウオオオオオ!!」
アドバイザーの言葉を遮るように、半魚人魔帝が吠えた。
そして、手にしていた槍を構え、大きく真下に突き刺した。
巨大な槍は空中から海中を穿ち、一直線に俺の頭上に襲来する。
「ぷくっ!」
甘い!
そんな大振りの攻撃、小回りの効くフグに命中すると思うな!
俺は頭上を破壊する槍の切っ先をスルリと回避する。
が、槍は突如軌道を変え、威力と速度を落とさずに回避した俺の元に再び襲いかかる。
な、なんじゃその動きは!?
《半魚人魔帝が保有するスキル〈銛槍術Lv.10〉の効果により、高い練度で手持ちの武器を操ることが可能です。また、〈槍特攻〉のスキルにより、命中した際は通常よりもダメージ量が多くなるものと推測します》
チッ、さすがに俺よりレベルが上なだけはあるか!
フグの顔面を貫かんと迫る巨大な槍の切っ先。
鋭利に研がれたその刃先が直撃すれば、ひ弱なフグの体など三枚下ろしにされるだろう。
――が、俺には緊急回避スキルがある!!
スキル発動――〈瞬転〉!!
俺は音を置き去りにするような速度で槍の攻撃を回避する。
〈瞬転〉は一秒間だけ爆発的な速度で移動が可能となる緊急回避スキルだ。
深海ではコイツのおかげで何度命拾いしたことか。
まさに、俺の奥の手の一つである。
ドプン……!! と、海中でプチソニックブームが起き、水がどよめくように揺さぶられた。
「ギュウウオ……!?」
「ぷくぅ……!」
半魚人魔帝は俺の予想外の動きに驚いたように声を漏らした。
今の一撃で殺せると踏んでいたのか?
生憎だがなァ、こちとら格上相手の戦闘には慣れてんだ!
深海でどれだけの修羅場を潜り抜けたと思ってやがる!
図体がデカイくて、ちょっと俺よりレベルが上で、多少奇抜な攻撃を繰り出したくらいじゃ、俺を殺すには届かないぜ!!
両者、仕切り直し。
だが、今度はこっちの番だ!
半魚人魔帝の困惑が抜けきらず、冷静さを取り戻す前に攻勢に移る。
「ぷっっっくぅぅぅうううう!!」
事前に展開していた〈毒水槍〉を同時に射出!
三本の毒の槍が巨大な半魚人魔帝の胴体部分に狙いを定め飛んでいく。
「ギュゥゥウオオオ!!」
が、半魚人魔帝は家を軽々と握り潰せてしまうくらい大きな腕を振るい、〈毒水槍〉を破壊した。
毒と水だけで構成した槍に耐久性はほとんどない。
そのため半魚人魔帝の逞しい腕に殴られたら簡単にかき消されるんだが――問題はない。
破壊され、拡散してしまった毒の霧を再度〈水属性の大器〉・〈毒属性の大器〉を組み合わせて発動することで、〈毒水槍〉を再展開。
腕をすり抜け、再び半魚人魔帝の懐に潜り込む。
直後、三本の〈毒水槍〉が同時に半魚人魔帝に命中した。
「ギュ、グゥゥオオ……!!」
半魚人魔帝は、〈毒水槍〉の直撃を受け、後ろに倒れていく。
お、やったか!?
やはり毒攻撃には弱かったのか!?
俺の期待に押されるように、半魚人魔帝はどんどん真後ろに転倒していく。
直後、アドバイザーの無機質な音声が脳内を突き刺した。
《――マスター、半魚人魔帝のスキル、〈尾撃〉に注意してください》
――殺気。
どこから?
上空? 正面? 左右?
否。
ジュ、と海の切断音。
その音は、俺の真下からもたらされた
鈍色に変色した、ギロチンのような直線的な一撃。
それが、半魚人魔帝の発達した『尾』から放たれた攻撃だと理解したのは、俺の腹部に焼けるような痛みが走るのと同時だった。




