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フグに転生したら勇者少女に飼われた件  作者: 空戯ケイ
第3章  戦場の瀬戸際

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第28話  バカ勇者の蛮行


「ぐあああああああああああッ!!」


 港を駆け抜けるラスキアの絶叫。

 背後から、半魚人魔に襲われたようだ。

 粗雑な銛が、ラスキアの体に痛々しく突き刺さる。


「ラスキア!!」

「ぷくっ!!」


 俺とエレナは同時に反応。

 エレナに抱えられ、ラスキアの元に直行する。


 幸い、致命傷は避けていそうだ。

 銛はラスキアの肩の辺りに刺さっている。


「チッ……クソったれが!」


 ラスキアは傷を負っていない方の片手で剣を握り、半魚人魔を切り伏せた。


 少し遅れて、俺たちも到着。

 ラスキアの元まで駆け寄ったエレナは、膝を折る彼女に慌てて回復魔法をかけた。


「ラスキア! 大丈夫!?」

「あ、ああ。銛がちょっと刺さっただけだ。大した傷じゃ、ねぇよ……!」


 強がりを言っているが、やはり傷が痛むのか苦痛を耐えるように片目を閉じていた。

 が、エレナの回復魔法のおかげで徐々に血は止まっていき、ラスキアの表情も次第に和らいでいく。


「良かった……! ラスキアの言う通り、そこまで傷は深くないみたい。ただ、命に別状はないけど、このまま戦闘を続けるのは……」


 エレナはキッと目をつり上げて港を見下ろすゼインに怒鳴った。


「ちょっと! 私たちがいるのに、どうしていきなり光剣魔法なんて放ったの!? せめて魔法を撃つ前に教えてくれても良かったのに!!」

「あァ?」


 ゼインは面倒くさそうに頭を掻き、嘲笑する。


「知るかよ。俺は勇者なんだぞ? 勇者が海魔を殺すのは当然のことだろうが。テメェも勇者だってんなら、自力で海魔を全部倒しとけば良かったんじゃねぇのか? あぁ、でも無理か。お前は神から見放された【失格勇者】だもんなァ!?」

「そ、それは……! だけど、ラスキアとぷっくんと協力したら、もう少しで誰も傷つかずに半魚人魔は一掃できそうだったのに!!」

「ハッ、知るか。お前も、そこの女も、弱いのが原因だろ。たかが目眩まし食らったくらいで不意打ちされてるようじゃこの先どっちみち長くねぇな! いいか、全てはテメェらが弱いのが原因なんだよッ! 俺は勇者として当然のことをしたまでだ! 俺は悪くないッ!!」

「……最っ低……!!」


 エレナが声を荒らげるなんて初めて見た。

 仲間が傷つけられて、かなり怒っているようだ。


 それは俺も同じ気持ちだった。

 しかも悪びれる様子もなく、挙げ句の果てにこちら側の責任だとまで宣うありさま。


 ……やはりあのバカ勇者、ここで始末しておくか?


《マスター。背後から新手の半魚人魔の群れが上陸を続けています。まずはそちらの対処の方が先決かと》


 アドバイザーが冷静な声で横やりを入れてきた。

 ……そうだな。

 少し頭が冷えた俺は、一旦ゼインを無視して背後に目を向ける。

 と、たしかにアドバイザーの言うとおり続々と半魚人魔たちが港の足場をよじ登って上陸を果たしていた。

 まるでプールから上がる小学生たちのようだ。


 ゼインの従者が、声をあげる。


「ゼ、ゼイン様! あ、あれを……!」

「なんだ! ……なに、あれは……どういうことだ!?」


 ゼインも上陸してくる半魚人魔に気付いたのか?

 と思ったが、どうやら違う理由で驚いているようだった。


「な、なぜ俺の光剣魔法を食らっているのに、半魚人魔たちは生きているんだ!?」


 ゼインが俺たちの邪魔をしてまで無理やり撃ち放った光の斬撃。

 それが直撃したポイントに視線を移してみると、何体かの半魚人魔は倒れているものの、それ以外の大多数の個体はいまだ健在。

 全体の半魚人魔の総数から見ればほとんど誤差の範疇だった。


「ぷく?」


 なんだ?

 ゼインの攻撃は効かなかったのか?


 光を食らっても、特に目眩ましにもなった様子もなく、鈍い動きながら村に向けて侵攻を続けている。


《半魚人魔は視覚が退化しているため、外界の情報認識にあまり肉眼を使用しておりません。メインで使用する感覚器官は聴覚と嗅覚です。そのため、対象ゼインが発動した光剣魔法の効果が大幅に減少したものと推測します》


 そうだったのか。

 でも、光剣魔法そのものには大した攻撃力はないのか?


《光剣魔法は剣に光の魔力を凝縮させ、射出することで光の斬撃を飛ばすことができます。しかし、攻撃魔法としてはそれほど高い攻撃力を有しているわけではなく、むしろ敵戦力の目眩ましを誘発させ、一時的に視界を封じることでデバフ効果を発動させる方が攻撃行動としてのメリットは大きいでしょう》


 ふむふむ。

 えーと、つまり簡潔に言うと?


《このような敵味方が入り乱れる環境下において事前共有もなく撃ち放つのは、愚かな行動です。例外的に、マスター、対象エレナ、対象ラスキアを敵と断じているのであれば、効果的な戦略ではありますが》


 ですってよ。

 愚かな行動って言われるぞ、バカ勇者。


 まあアイツの視点から見たら俺たちは面白くない存在っぽいし、あながちアドバイザーが言ってることも正しいのかもな。

 要は、半魚人魔もろとも俺たちも始末しようとしたとか?

 ま、配慮をするなんて考えが思い浮かばないくらい、ゼインにとって俺たちは死のうが生きようがどうでもいい存在だってところだろうな。


 だがアイツ、光剣魔法が半魚人魔に効いてないのに驚いてたよな?

 自分の魔法が攻撃力特化系の魔法じゃないって理解していないのか?


 ゼインは傍らに控えていた数人の従者に向き直り、掴みかかっている。


「ど、どういうことなんだ! なぜ俺の光剣魔法を披露してやったというのに、あんなにうじゃうじゃと海魔の生き残りがいるんだッ!!」

「お、恐れながら申し上げますと、ゼイン様の光剣魔法は敵の殲滅を目的として行使する類いの魔法ではございません」

「ど、どちらかと言えば敵を撹乱するサポート系の魔法としての有用性の方が大きいかと……」

「で、ですので、ここはあの【失格勇者】たちと共闘するという手も――」

「馬鹿なことを抜かすなッ! この俺があんな雑魚の【失格勇者】と共闘だと!? ふざけるのも大概にしろ! お前、俺のパーティを降ろされたいのかッ!!」


 ゼインは仲間内で揉めている様子。

 どうやら、光剣魔法の能力を正しく把握できていないのはバカ勇者だけみたいだな。


 自分の必殺技とでも思ってるのだろうか。

 どちらにせよ、文字通り過信が過ぎる。


「くっ! ならば、別の手だ! 俺の魔法はこれだけじゃない! もう一発、別の魔法で海魔の群れを蹴散らしてやる!!」


 ゼインは剣を握っていない左手を上空に掲げた。

 その手に、光が集まっていく。


 さっきゼインのステータスを見た時、光剣魔法とセットで光戦魔法ってのもあったな。

 それを使う気か。


 俺がそう予想すると同時、ゼインは掲げた左手を港に振り下ろした。

 俺たちもいるが、お構い無しみたいだ。


「ラスキア! 目を閉じて! ぷっくんも!」

「ああ!」

「ぷくっ!」


 エレナがいち早くゼインの魔法を察知し、俺たちに注意を呼び掛ける。

 さすがに二度目は対応が早い。


「今度こそこれで死ねェ! 光戦魔法、フラッシュバースト!!」


 左手から、輝きを放つ爆弾のような光源を発射。

 港に着弾し、凄まじい轟音と土煙が立ち込める。


 パッと見の威力こそ強力そうではあるんだが、結果は――――


「……ギュァアアアアア!」

「ギュブブァァアアアアア!!」

「ギュギュァァァアアア……!!」


 半魚人魔は健在。

 魔法を直で食らった半魚人魔はさすがに倒れているが、魔法の余波程度のダメージでは討伐にまで至っていない。

 若干HPを削った程度だ。


「ぷくぅ……」


 アイツはダメだな。

 ロクに使い物にならん。

 むしろ存在するだけで戦況をかき乱すから、この場にいるだけで害悪だ。

 味方の足を引っ張ることしか能がない。


《――マスター。背後から半魚人魔の群れが接近しています》


 ゼインを見下げ果てていると、アドバイザーからの警告。


 背後を振り替えってみれば、先ほど上陸していた半魚人魔たちが俺たちを殺そうと銛を構えて数メートル先まで接近してきているのを発見した。


 俺は〈水属性の大器〉を発動させ、水槽内の水を操り、接近してくる半魚人魔をサクッと倒す。


「ぷ、ぷっくん! ありがとう……!」

「悪ィ、半魚人魔が近付いてたのか。アタシとしたことが気付かなかった……助かったぜぷっくん!」

「ぷくぷく」


 エレナとラスキアの感謝に、気にするな、と返事をする。

 表情を見る限り、ラスキアの傷はもう癒えたらしい。

 だが、先ほどと同じように満足に体を動かせるだろうか。


「クソ、クソッ、クッソォッ!! 何なんだよ、コイツら! どうして俺の必殺魔法が効かないんだ!」


 ゼインはガキみたいに地団駄を踏んでいた。

 あんな綺麗に地団駄って踏めるんだな。


 ていうか、逆に今までお前はどうやって海魔を倒してきたんだよ。

 もしかして傍にぞろぞろと連れてる従者におんぶにだっこだったのか?


「おい、お前らもボサッと見てないで攻撃しろ! 俺にだけ働かせやがって! 俺のパーティに入れてやってるんだから、その分の働きをしやがれ!! この能無し共がッ!!」


 激昂したゼインが従者に罵声を浴びせる。


 従者の剣士やら魔法使いやらは互いに顔を見合わせて困ったような顔をしていた。

 と、その中でも最年長の初老の魔術師のような風貌の男が、震える体で海を指差す。


「ゼ、ゼイン様……あ、あれは……! あの、海魔は……ッ!!」

「あァ! なんだ!! はっきり言え!!」


 苛立つゼインがさらに怒りのボルテージを上げる。


 どうしたんだ? と思っていると、俺の脳内に住んでいる優秀な相棒も同時に反応した。


《――マスター。港から約五百メートル先の海面に、大規模な魔力反応を感知しました》


 なんだと?


 海面に目を向ける。

 と、海の一部が盛り上がるように海中から何か巨大な物体が顔を出した。


 それは、超巨大な魚の頭部。

 ギラギラと鋭い輝きを放つ硬質な鱗のヴェールが太陽光を乱反射させる。

 そして、頭の上には王冠のような冠が乗っていた。


〈鑑定〉が、その存在を明かす。


 ――――――――――――――――――――

 名前:半魚人魔帝エンペラーマーマン

 レベル:99

 HP:6519/6519

 MP:3204/3204


 物理攻撃力:17222

 物理防御力:7811

 魔法攻撃力:8353

 魔法防御力:10347

 敏捷性:6814

 器用さ:3710

 スタミナ:15433

 

 エクストラスキル:統率、殲水魔法

 スキル:銛槍術Lv.10、逃走Lv.10、高速遊泳Lv.10、策略Lv.10、破壊Lv.10、水中動作Lv.10、槍特攻、硬鱗、尾撃、豪腕、裂傷、気配察知、音感知、体力強化、恐怖、威圧、全体指令、探索サーチ、死の予見、軍配、肉体分裂


 称号:帝王、ゾラの眷属

 ――――――――――――――――――――


「――――ギョョウウウウウウウウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」



 半魚人魔の『帝王』が、耳をつんざくような激昂の咆哮を放った。




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