第3話 スキルGETで逃走無双……?
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名前:深淵古魚竜
【鑑定が無効化されました】
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な、なんだコイツは!?
め、めちゃくちゃデケェーーー!!
「ぷ、ぷくぷくーーー!!?」
突如こんにちはしてきた異世界産のシーラカンスを前に、俺はヒレをばたつかせて飛び上がる。
このシーラカンス、俺がフグの姿になって体が縮んだことを考慮しても大きさが尋常じゃない。
眼球だけで我がフグボディの何倍もある。
ともなれば、このシーラカンスの全長は一体どれほどのものになるのか……想像もつかない。
「gggg……GGGGGGGGaaaaa……!!」
シーラカンスの腹底から響き渡るような雄叫びが上がった。
眼球の光に照らされて、ところどころ剥げた黒い鉄錆のような鱗が無数に顕現。
先ほどぶつかったのは決して壁でも岩山でもなく、シーラカンスの硬い鱗であることを悟る。
《『滅びの呪海』内でも『ニルの深淵』エリアは最深層に位置しており、極めて強力な海魔が蔓延っています。現在のマスターのステータス値での打倒は不可能と断定。即時逃走を推奨します》
〈知者の導き〉から警告が発され、俺も激しく同意!
すぐさま方向転換し、急いでこの場から逃げる。
「GGGGGGGGGAAAAA……aaaaaAAA……!!」
海水の流れが途端に変わる。
巨大なシーラカンスが体を九十度回転させたせいで、奴に引っ張られるように海流が変化する。
ぎゃああああああああ!!
ま、まさか追ってこようとしてる!?
これどうしたらいい!?
教えてくれ〈知者の導き〉さん!
いや、一々〈知者の導き〉なんて長ったらしい名前で呼ぶのも面倒だから、"アドバイザー"と呼ばせてもらうぜ!
《現在のマスターのステータス値では逃走成功確率は一%未満です。そのため、逃走を補助するスキルの取得を推奨します》
たしかに、フグは泳ぎが下手でそんなに機敏な動きはできないイメージだ。
たどたどしく水槽内を泳ぐフグの姿は何度か見たことがある。
話は分かった!
それなら、何か良さそうなスキルを見繕ってくれ!
《――検索完了。以下の三つのスキルの取得を推奨します》
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スキル:逃走Lv.1 20ポイント
スキル:高速遊泳Lv.1 20ポイント
スキル:瞬転 40ポイント
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羅列された三種のスキル。
それぞれどういう能力があるのかは知らないが、字面から逃走特化のスキル構成であることは理解できる。
しかも必要な合計スキルポイントも八〇ポイント。
残りの俺のスキルポイントぴったしである。
つまりこの三つのスキルを購入したらもう新たなスキルは取得できなくなるんだが――――俺はアドバイザーを信じるぞ!!
その三つのスキルを全て購入!
《――スキルポイントの清算が完了しました。〈逃走Lv.1〉、〈高速遊泳Lv.1〉、〈瞬転〉がステータスに追加されます》
スキル追加のアナウンスが脳内に響く。
ちなみにだが、この三つはどんな能力なんだ?
《逃走Lv.1:逃走を行う場合に限り、『敏捷性』と『スタミナ』のステータス値を二倍にする。レベルが上がるほど上昇効果は大きくなる》
《高速遊泳Lv.1:『敏捷性』が微増し、泳ぎの速度が上昇する。レベルが上がるほど上昇効果は大きくなる》
《瞬転:1秒間だけ爆発的な速度の移動が可能。再発動には10秒間のインターバルが必要》
なるほど、〈逃走Lv.1〉と〈高速遊泳Lv.1〉はどっちも文字通り逃げるのに役立つ能力だな。
その一方で〈瞬転〉は、いわゆる緊急回避スキルか。
絶体絶命のピンチに陥った時まで温存しておき、乱発は禁物のスキルだ。
《〈逃走Lv.1〉と〈高速遊泳Lv.1〉は自動発動となりますので、マスターの意志に関わらず条件を満たした場合にのみ発動します。対して〈瞬転〉はマスターの意志で発動が必要となります。また、レベル表記があるスキルについては、そのスキルの発動回数や特定行動の積み重ねによりスキルレベルが上昇します》
パッシブスキルとアクティブスキルの違いみたいなもんだな。
〈瞬転〉がアクティブスキルなら、尚のこと発動タイミングが重要だ。
それにスキルレベルという仕組みも覚えておかないと。
今は取得したばかりだからスキルレベルは一だが、これも成長していくってことか。
ちなみにだが、今の俺のステータスがどうなってるのか表示してくれ!
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名前:フグ(仮)
種族:ノーマルパファー
レベル:1
HP:25/25
MP:100/100
物理攻撃力:100
物理防御力:50
魔法攻撃力:50
魔法防御力:50
敏捷性:40(+30)
器用さ:50
スタミナ:100(+50)
スキル:鑑定、知者の導き、逃走Lv.1、高速遊泳Lv.1、瞬転
スキルポイント:0
称号:転生者、フグの加護
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敏捷性とスタミナのステータス値が上昇している!
早速、〈逃走〉と〈高速遊泳〉のスキルが発動しているようだな。
泳ぐスピードもさっきよりも格段に速くなった!
が、しかし。
「ggggAA、AAAA……!!」
背後から忍び寄る唸り声。
チラリ、と後ろを見るが、シーラカンスとの距離はほとんど変わっていなかった。
……やっぱり、シーラカンスをまくことができるほどの速度ではない。
そもそも体格差がありすぎるから、ちょっとくらい泳ぐ速さが上昇したところで逃げ切るのは至難だ。
シーラカンスの動きがゆっくりだからまだイーブンな距離感を保っていられるが、このまま追いかけっこが続けば先に力尽きるのは俺に決まってる。
「GGg、ggaa――……!!」
《深淵古魚竜の口部に大規模な魔力反応を確認しました。ブレス攻撃と推測します》
Wow、最悪な警告。
シーラカンスの口周りに白いエネルギーのようなものが凝集し、月光のように輝いていく。
直撃すれば間違いなく即死だろうし、かすっただけでも多分死ぬ。
「ぷくぷくーー!!」
俺は死に物狂いで体中のヒレをバタつかせ、少しでも遠くに逃げようと足掻く。
シーラカンスは静止しているため徐々に距離は離れていくが、それでも余裕でブレス攻撃の射程圏内だろう。
クソッ!
異世界のシーラカンスはブレスまで吐きやがるのかよッ!
いきなり大博打だが、ブレスが放たれた瞬間に緊急回避をするしかない!
「――……GGGGGAAAAAAAAAAAAAッ!!!」
カッ、と深海が白光に染まった。
今だッ!
全身全霊で発動するぜ――――〈瞬転〉ッ!!
全力で〈瞬転〉を発動し、俺の体がたちまちかき消える。
秒を跨いだ瞬間、俺は真横に緊急回避。
水の抵抗などものともせず、まるで迅雷のごとき速度で泳ぎを披露する。
距離などを正確に計算する暇などなかったので、とにかく一ミリでもブレスから遠ざかるようサイドに逃げた。
「ぷっ、ぷくぷく!?」
が、やはりそれでは終わらない。
闇の深海を白く輝かせたブレスの直撃は避けられたものの、その余波からは逃げられなかった。
大津波のように深海が激しくうねり、凄まじい激流となって無秩序に攪拌される。
ぐるぐる体が乱回転して平衡感覚も麻痺していく!
「ぷくぷくぅーーー!!」
深海の暴威におチビのフグが立ち向かえるわけもなく。
竜巻のような激流に呑まれた一匹のフグは何処へ吹き飛ばされていくのだった。
あーーーれーーーー!!!






