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フグに転生したら勇者少女に飼われた件  作者: 空戯ケイ
第3章  戦場の瀬戸際

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第26話  海魔襲来


 突如、会議場に雪崩れ込んできた村の男。


 その男は息を切らし、しかし呼吸も整えぬまま絶叫した。


「た、大変だ! 海魔の群れが港に乗り込んできやがった! このままじゃ村が海魔に滅ぼされてしまう! どうか、助けてください勇者様!!」


 その言葉に、いよいよ場の空気が変容する。

 息を呑む音がはっきりと聞こえた。


 ゼインが剣から光を漏らしつつ、叫ぶ。


「か、海魔だと!? 港に上陸しているということか!?」

「は、はい! 今、村の若い男衆で食い止めてますが、長くはもちません!! このままでは、数えきれないほどの死人が出てしまいます!」

「ど、どういうことだ! 海魔は海から出てこないはずだろう!?」


 狼狽えるゼインに、ラスキアが一喝した。


「一部だが水陸両用タイプの海魔もいる! そんくらい勉強しとけボンクラ貴族!」

「な、なに……!?」


 ラスキアの悪態にゼインが眉を吊り上げる。 

 またしても一触即発の空気になりかけたが、エレナがそれをバサリと切り捨てた。


「こんな所で言い争いしてる場合じゃないよ! ラスキア、すぐに港へ行こう!!」

「ああ!」

「あっ、ぷっくんは……」

「ぷく!」

 

 走り出そうとしたエレナが、思い出したように足を止める。

 俺はエクストラスキル〈水属性の大器〉を使用し、水槽を浮かしたままエレナの元に移動した。


「えっと、ぷっくんも着いてきてくれるの?」

「ぷくっ!」


 こくりと頷いた。

 エレナはしばしフグと目を合わせた後、覚悟を決めたように頭を縦に振る。


「……分かった。ぷっくんの力を貸して! でも、危ないと思ったらすぐに避難させるからね!」

「ぷくぅ!」


 力強く答える。

 エレナは浮いていた水槽を再び抱き抱え、走り出した。


「それじゃあ、港へ急ごう!!」

「あのバカ貴族のせいでちょうど苛立ってたところだ! 海魔の野郎共で憂さ晴らしでもさせてもらうぜ!」


 俺たちは報告に来た村の男の横を走り抜け、いの一番に会議室から飛び出した。


 背後からゼインの困惑した声が聞こえるが、ガン無視だ。

 今は人命がかかっている。

 あんなバカに付き合っている暇はない。


 危険を報せる鐘の音は、今もなお一層激しく響き続けていた。




 ●  ◯  ●




 中央会議場から飛び出し、村の港へ向けて走っていると、次第に雄叫びや人ならざる物の叫び声などが聞こえてきた。


「っ! もう戦闘が始まってる!」


 エレナの表情に焦りの色が浮かんだ。


 ラスキアが低い声音で呟く。


「海魔が港に上陸してくるなんて、何年ぶりだ? ……やっぱ昨日から『滅びの呪海』の様子がおかしいぜ」

「何か違和感があったの?」


 ラスキアは視線を斜めに切る。


「昨日、海に落ちたエレナを救うために船で待機してた時、妙に海が荒れてるような気がしたんだ。しかもいつもなら空から襲ってくる闇カモメなんかの鳥類型の魔物も大人しかった。それにエレナが海に落下した後、何度か凄まじい威圧感みたいなのを感じた気がするんだが……」


 ……その威圧感って、もしかしたら俺の〈暴君〉の効果か?

 半魚人魔と戦う時に〈暴君〉のオンオフを切り替えた記憶がある。


 つーか、今さらだがエレナは〈暴君〉発動状態の俺と至近距離で相対していたってのに意外と平然としてたよな。

 いや、溺れてる真っ最中だったから全く平常ではなかっただろうけど。

 今さらだが、俺に怯んでさらに溺れるのが悪化するなんて事態にならなくて良かった。


 ちなみに、今は〈暴君〉はオフの状態なので誰も怖がらせることはない。

 だからこそ、ゼインなんていうバカ貴族をツケ上がらせる事態にもなった訳だが。


「もしかすると、"海の魔境"にも本格的に魔王が兵を差し向けてきたのかも……」


 エレナの推測に、ラスキアは盛大な舌打ちで答える。


「すでに"陸の魔境"と"空の魔境"は魔物の軍勢と交戦してんだったか? いよいよアタシらの担当区域も他人事じゃなくなったって訳だ」

「……うん。気を引き締めないと」


 言いながら走っていると、戦場が近付いてきた。


 ボロい家々を通り抜け、寂れた畑を踏み越え、そしてついに――港を見下ろした。 

 エレナとラスキアが、同時に息を呑む。


「――こ、これは」

「……まぁたあの魚人間野郎か!!」


 港は、まさに乱戦といった様相だった。


 村の男たちが剣や斧、中にはくわやナタなどを武器に、戦闘している。

 対する海魔の方は……俺も見覚えがある奴だった。


 人型の体躯に、魚類のような鈍色の鱗。

 頭部は完全に魚で、不快な生臭さを放つ魚人間。


 ――――半魚人魔はんぎょじんまだ!!


「ギュプブァァアアアアアアアアアア!!」


 半魚人魔は、すでに数十体の個体が港に上陸しており、村の男たちと戦っている。

 アイツ、人間みたいな体をしてるから陸上でも行動できるのか!?

 たどたどしく二足歩行で陸上を歩いている!


「半魚人魔! しかもかなりの数だよ……!」


 港に程近い海に目を向ければ、今も続々と仲間の半魚人魔が上陸してきていた。

 陸上であるため動きは鈍くなっているが、それでもロクに戦闘経験がない素人の村人相手であればいずれ物量で押し潰せるだろう。


 半魚人魔は一体一体は雑魚だが、群れになると厄介な海魔だ。

 しかもコイツらには俺の〈暴君〉が効かない可能性があるというのも面倒くさいポイントである。


「付与魔法――パワーブースト! スピードブースト! ディフェンスブースト!!」


 エレナはラスキアに魔法をかけた。

 ラスキアの体が赤、緑、青の順に淡く輝いていく。


 これは付与魔法か。 

 初めて見たが、エレナは付与魔法使いなのだろうか?


「助かるぜエレナ!」

「私のことは気にしなくていいから、ラスキアは襲われてる村人たちを優先的に助けに行って! 私は負傷者を治療していくから!」

「おうよッ!!」


 互いに頷き、別々の方向に駆け出した。

 水槽ごと抱えられる俺は、必然的にエレナの方に着いていく。


「ギュプブァァアアアアアアア!!」

「ゲュブァァアアアアアアア!!」


 走るエレナの横を上陸した複数の半魚人魔がすれ違う。

 こちらに気付いて攻撃をしてこようとはしているが、陸上だからか動きは鈍いので、エレナは無視して走り去った。


「これ、まだ海の中にいる個体も含めたら百体以上いるんじゃ……! これ以上侵攻させないようにしないと!」

「ぷくっ!」


 不意に、叫び声が港を駆け抜ける。


「ぐわぁあああああああ!!」


 視線を移す。

 半魚人魔のもりで、男が肩を刺されていた。

 海魔を倒そうと攻撃していたところで、反撃を食らったらしい。


 エレナは血相を変えてそちらに向かう。

 

「大丈夫ですか!」

「あ、あんたは……【失格勇者】の……!」


 男は肩を抑えながら片目を閉じ、苦悶の顔で見上げる。

 エレナはすぐに駆け寄り、回復魔法をかけた。


「もう大丈夫です! いま回復させますからっ!」

「ま、待て、嬢ちゃん! そいつはまだ生きて――」

「ギュプブァァアアアアアアア!!」


 エレナの背後で、銛の切っ先を向ける半魚人魔が現れた。

 男を回復させていたエレナは、一瞬反応が遅れる。


「――――っ!」

「ぷくっ!」


 半魚人魔が銛を突き刺そうと腕を振るうと同時、俺も動いた。


 エクストラスキル〈水属性の大器〉は、未取得の水属性スキルの一部を行使可能という他に、そもそもの水を操る高い能力を兼ね備えた便利スキルだ。

 そのおかげで、俺は水槽内の水を動かすことで水槽ごと空中浮遊することもできた。


 ――ならば。


 俺が漂っている()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ぷっくっ!!」


 カッと目を見開く。


 水槽内の少ない水の一部を螺旋状に練り上げ、先端を刃物のように研ぎ澄ます。


「ぷっくぅぅううううっ!!」


 食らえ――――〈水槍〉!!


 その鋭利な水の螺旋は水槽の蓋を貫通し、そのまま水龍のようにうねりを持って半魚人魔の頭部を貫通した。


「ギュ、ギュブァ……ァァァァ……!!」


 半魚人魔はエレナに振りかざしていた銛の動きをピタリと止め、体をビクビクと痙攣させた後、バタリと倒れた。

 即死である。


「ぷ、ぷっくん……!? 私を、助けてくれたの……?」

「ぷくっ!」


 俺は元気に答えた。


〈水槍〉を解除し、使用していた水を水槽の中に戻す。

 まるで巻き戻しのように半魚人魔を貫いた水の螺旋はしゅるしゅると水槽の中に収まった。


 この水は俺の生命線でもあるからな。

 まあ〈陸上呼吸〉のスキルで水がなくても生きられるようにはなったが、やはり水中の方が落ち着く。


「すごい! すごいよぷっくん! やっぱりぷっくんは最強の海魔だったんだね!」

「ぷくぅ」


 いやぁ、それほどでも?


 はしゃぐエレナに、傍らで倒れていた男が震える足で立ち上がる。

 肩を押さえているが、エレナの回復魔法のおかげかすでに血は止まっていた。


「な、ナニモンだ、その海魔は……? 嬢ちゃんが使役してる、のか?」

「はい! ぷっくんは私の相棒ペットです!」


 エレナは誇らしげに答える。

 が、すぐに表情を一変させた。


「そんなことより、早くここから避難してください! あとは勇者である私たちが対処します! 村で待っている人たちも、ダーベ村長の指示の下、すぐに避難するよう伝えてください!」

「村の鐘も鳴ってるし、すでに皆動いてるとは思うが……分かった! 助かったぜ嬢ちゃん……いや、勇者様!」

「っ!」


 男は礼を言い、覚束ない足取りながらも村に避難した。

 その背中を見送り、エレナは決意に満ちた瞳で俺に向き直る。


「ぷっくん! ひとまず、この戦場から村の人たちを全員避難させたい! 負傷者は治療しつつ村の奥に避難していってもらうから、私に協力してくれないかな……。ぷっくんの力が必要なの!!」


 エレナは真剣な眼差しで水槽に顔を近づけた。

 俺とガラス越しに見つめあっている状態だ。


「ぷくっ!!」


 俺は元気に返事をした。





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