第23話 漁村に着いた
船が港に到着した。
それに合わせて、俺もバケツごと運搬される。
運んでくれているのは俺のご主人様となったエレナだ。
船から降りると、辺りは寂れた漁村が広がっていた。
うおおおお、すげぇ!
異世界の村だ!!
「ぷっくく~♪」
高揚感に胸を躍らせながらキョロキョロと周囲を見回した。
近くには高い山があり、その山の麓を削って切り開いたような漁村。
全体的な雰囲気もまさに田舎っぽい感じだ。
ただ、どことなく雰囲気は暗く、どんよりとしたオーラが漂っている気もする。
「ここが私たちが滞在させてもらってる村だよ、ぷっくん」
エレナが俺に解説してくれる。
すると、村の方から一人の老人が慌てて駆け寄ってきた。
「アレスよ! 怪我はなかったか!」
老人は長い白髪と豪快に蓄えた真っ白い髭を揺らしながら、嗄れた声を震わせた。
その老人に、俺たちと一緒に降りてきていた少年が飛び出した。
「ダーベ村長!」
アレスは、ダーベ村長と呼ばれた老人に駆け寄る。
村長は、無事で良かったのぅ、とアレスの頭を撫でながら、こちらに目をやった。
「おお、これは勇者様まで。もしやアレスをお救いに……?」
「はい。偶然その子が遭難してしまったことを聞き付けたので、急きょ私が駆けつけました」
「なんと……! 村の者がご迷惑をおかけしてしまったようで……」
「そ、そんな! 私は『勇者』として当然のことをしたまでですから! 頭を上げてください!」
村長は曲がった腰をさらに深く曲げてお礼を言った。
エレナは慌てて手を振って止める。
にしても今、エレナは自分のことを『勇者』って言ったか?
そう言えば、さっきからちょくちょくエレナが勇者呼びされていたな。
もしや、この金髪美少女はこの世界の勇者なのか?
てか、勇者ってあの勇者であってる?
《この世界における『勇者』とは、神聖教会が定める特別な魂を宿した人間を指します。人類が存亡の危機に陥った際に神からお告げが下るとされており、近年は新たに一〇一名の者を『勇者』として示すと神託が降りました》
そうなのか。
てか、勇者めっちゃいるやん。
三桁もおるんかい。
で、その一〇一人いる勇者の一人が、このエレナだと。
つーか、その理屈で言うと今って人類は存亡の危機に瀕してるのか?
《魔王が復活したことにより、魔族側が支配領域の拡大路線を取っています。人間や亜人の領土に侵攻し、侵略戦争が各地で勃発しているため、世界的に非常に危うい世相であることは否めない局面でしょう》
あー、魔王が復活してたのかー。
そういや前にアドバイザーもチラッとそんなこと言ってたっけ?
たしかに魔族は人類と敵対してそうなイメージではあるし、実際に各地で戦争が起きてる状況ならあんまり悠長に構えてられねぇか。
めっちゃ他人事そうに聞こえるのは、いまいち現状の逼迫度合いが身に染みていないからである。
だって魔族とか見たことないし。
悪魔みたいなやつか?
《マスターが遭遇した生物で言えば、恐らく『滅淵龍リヴァイアサン』は、魔王配下の海魔と推測します》
激ヤバじゃねぇか!?
アイツ魔王の部下だったんかい!
《この世界には陸・海・空の三箇所の『魔境』が存在します。『魔境』とは、その名の通り、魔の境。魔境を越えた先には、魔王領が広がっています。それゆえ、各地の魔境には魔王が強力な配下を解き放ち、人類の侵攻を食い止めるための戦争装置として利用しているのです。マスターが目覚めた『滅びの呪海』もその一つです》
……そういえば、『滅びの呪海』は"海の魔境"だとか言ってたっけ?
まさかそんなヤバい所に転送されてたとは。
そりゃシーラカンスやらリヴァイアサンやら破滅級の海魔がうじゃうじゃいるはずだわ。
アドバイザーからの解説を愕然としながら聞いていると、ダーベ村長がエレナが持つ釣りバケツを凝視しだした。
必然、俺と目が合う。
「……して、勇者様。そちらの奇妙奇天烈な魚はいかがしたのでしょうか? 見たところ、海魔のように見えるのですが……」
村長がやや怯え混じりに聞く。
その質問に、エレナはにこりと笑った。
「この子は私がテイムした海魔です! 名前は、『ぷっくん』っていいます!」
「ぷくぷく」
エレナの紹介に、俺も一応バケツの中で挨拶をした。
村長には通じていないだろうが。
「そ、そうでしたか。勇者様がテイムを……」
「……私は今まで戦闘面で大した役には立てませんでした。でも、このぷっくんが協力してくれれば、以前よりも村の皆さんを安心させることができると思っています!」
「……我らのことをそこまで考えてくださっていたとは。決して好意的な態度でない者も多い中……ありがとうございます」
ダーベ村長は再び腰を折り曲げてお礼を述べる。
腰を曲げすぎて折り畳みスマホみたいになっている。
「ただ、できればその海魔はあまり衆目に触れるような形で見せびらかすのは控えていただいてもよろしいでしょうか……? 村には、まだ海魔の恐怖に怯える者も数多くおるもので……」
「分かっています。ぷっくんは基本的には私の家の水槽で保管するようにしますので。多少は外に連れ出すこともあるかとは思いますが……」
「ありがとうございます。村の者にはワシの方から伝えておきますので、多少であれば問題ないかと」
村長の回答に、エレナもお礼を言う。
そして、そのまま別れようとした所で、背後から呼び止められた。
船乗りの男と少年だ。
「この度は本当に助かりました……! ありがとうございます……!!」
「勇者のお姉ちゃん、ありがとー!!」
男は頭を下げ、少年は元気に手を振っている。
その様子を見て、エレナは慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
それは、自分の命を犠牲にしてまで俺に回復魔法をかけた、あの最期の表情を想起させる。
「気にしないでください! 『勇者』として、当然のことをしたまでですから!」
エレナは底抜けの笑顔で、二人に応えた。




